対価と決断

術師共め、私を良く解らない結晶に封じ込めたばかりか、その上から更に封印をしていった。

しかもこんな暗い洞窟の奥に押し込めるなんて。

洞窟事態に力がこもってるせいで、封印が一層強まってる。

これじゃ何時になったら出られるか解らないじゃない。


せめて意識が無ければ良いのに。

身動きも出来ず、目も動かせないのに意識だけが有るのは余りにも苦痛だ。

もしわざとこの封印をしたのなら、あの術師達は相当陰険だわ。


封印されてからどれだけの日数が経ったのか。ここは余りにも暗い上に、何も無さ過ぎる。

何かを仕掛けをしているのか、虫も寄り付かないから物音一つもない。

少しでも封印を劣化させる要素を取り除いているのかもしれないわね。


そのせいで時間的にはさほど経っていない筈なのに、気が狂いそうになってくる。

いや、それで良いのかもしれない。

封印が解けた時気が狂った私が暴れれば、全てを蹂躙していくだろう。


仇を討てなかったのは悔しいけど、それでも奴らの子孫を殺してやる。

何時になるか解らないしまた封印されるかもしれないけど、絶対に奴らを根絶やしにする。

だから今はもう考えるのは止めよう。この状態で頭を動かしてもつらい記憶が浮かぶだけだ。


・・・なんだ、足音が聞こえる。

まさか更に封印を増やしに来たのか。仕事熱心な事ね。


暗闇の中で明かりを持って歩いて来る存在に意識を向けると、スカート姿の子供が近づいて来るのが解った。こんな所に女の子?

傍には白猫が付いて歩いている。

私が封印されている結晶を確かめる様に触ると、娘はどうでも良さそうな表情で口を開いた。


「おい、鬼娘。満足か?」


何なの、この小娘。

身動きどころか視線も動かせない私に、一体何のつもりなの。

満足なんて有る訳が無い。心に有るのは悔いばかりだ。


家族は殺され、一族は殺され、恨みを晴らせもせず封印された。

身動きが取れるなら今すぐにでも皆殺しにしてやりたい。


「ま、そうだろうな」

『おい、何を話している。まさか封印を解く気か?』

「まさか、そんな事はしない。封印を壊すようなことはしないって約束したからな」


あの猫、今人語を話した。ただの猫じゃないのか。

それに約束だって?

まさかこいつ、この封印を壊せるのか。


「こいつは喋れるだけで特に何も出来ない猫だよ」


・・・気のせいだろうか、この娘は私と対話している気がする。

いや、私は心で思っているだけなので、対話というのもおかしいと思うけど。


「喋ってるよ、鬼娘。鬼だから頭悪いのか?」


どうやら意思疎通が出来るみたいだけど、私が何も出来ないからって調子に乗ってる様ね。


「へえ、動ければ違うってのか?」


当たり前でしょう。貴方程度、縊り殺すのに1秒もかからないわ。

動ければその生意気な口がきけない様に、喉を掻っ捌いてやるのに。


「やん、怖ーい」


娘のわざとらしい棒読みの返事に、苛立ちを覚える。

何だこいつ。一体何をしに来たの。

わざわざ私を馬鹿にしに来たのか。


「復讐も果たせず、静かに封印されて何もしねえ負け犬の気持ちを聞きに来ただけさ」


っ、煩い!

お前に何が解る! 私達は静かに暮らしていただけなのに!

人間に敵対する事なんてしていないのに!

奴らが述べた罪状は、全部奴らが私達に押し付けた物なのに!


お前に解るか!?

家族が面白半分に壊され、犯され、玩具にされる気持ちが!

友達が、集落の皆が、好きだった人の死体が積み上げられる様を見ながら犯される気持ちが!


ああ、私は負け犬だよ!

集落を襲った連中はみんな殺したけど、それを指示した連中は一切殺せてないさ!

でも復讐は諦めない! 何年たとうが、何百年たとうが、奴らの国は滅ぼしてやる!!


「ふーん、そんな後になったら国自体無くなるかもしんねーぞ?」


知った事か! ならそこにいる人間全部殺してやる!

一人も残さず全員殺してやる!!


「それで満足なのか? 関係ない連中殺して、お前の気は張れるのか?」


――――何を言って。


「悔しいんだろ。腹立たしいんだろ。ならいつかじゃ無く、今の連中じゃなきゃ意味がねえ」


ついさっきまで興味の無さそうな顔をしていた娘の目が、全てを射殺す様な鋭い目で私を見つめている事に気が付いた。

何故そんな目で私を見るのか。そうだ、そもそもこの娘はいったい何をしに来たんだ。


「もし、この封印から抜け出して連中を殺す術が有るとしたら、お前はその選択を取るか?」


そんな事が出来るかどうか知らないけど、出来るなら当然。


「その為に、魂を他者に売り渡すことになってもか?」


事を成した後で良いなら、いくらでも。

最早私は、一度死んだような物。

想いが、皆の無念が張らせるなら、この命程度厭わない。


「良いだろう、お前の覚悟は良く解った。暴れさせてやる」


娘がそう言った後、ついさっきまで落とせない事が苦痛だった意識が真っ暗に染まっていった。

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