鬼姫と厄災

あれは何時だったか。4,50年以上は前の事だと思いますわ。


「はい、ちょっと待って」

『まだ何も語っていないのに、なんですの』

「4、50年前ってどういう事?」

『どういうも何も、言った通りですのよ』

「え、いや、ランさんって人間じゃ?」

『さあ?』

「さあって・・・もう良いです、続けて下さい」


フィアは疲れた様に項垂れて、話の続きを促してくる。

その理由が解らない程馬鹿なつもりは無いけども、その辺りを気にしていたらランとは付き合えないのですわ。そもそもランは、もうあの頃には知る人間は知る存在だったのだから。

では、続きと行きましょう。


私の封印の事を話すなら、当時のランの事を先に話してしまいましょうか。

人は彼女を触れてはいけない人間厄災と呼びましたわ。

今も変わらない当時の彼女への世間の認識ですわね。

あの時代は、その名と経歴を知る者は多くいても、その姿を知る者が少なかった頃ですわね。

まだランの武装が単装銃だった頃が懐かしいですわね。


曰く、ただ気に食わないという理由で国を一つ滅ぼした。

曰く、化け物に占領された区域を近道だと歩いて行き全て殲滅した。

曰く、魔の国の長を圧倒し下僕としている。

曰く、世界各国に自身の言う事を聞く部下を何人も持っている。

曰く、ランの目の前に立った者は例え女子供であろうが弾丸が撃ち込まれる。


その姿が知られていないにもかかわらず、そんな噂話だけが沢山流れていましたわ。

勿論私の住む国にも、ランの名だけは轟いていましたわ。

とはいえいくら何でも耳を疑う事も多かったので、話半分でしたけど。

勿論一部以外は本当の話なのですけどね。


「一部ってどれぐらいですか?」

『魔王を下僕にしてるとか、女子供も簡単に撃つ辺りですわね。ランはなんだかんだ、子供にはそこそこ甘いですからね』

「・・・そう、ですよね」


私の返事に、何か考え込む仕草をするフィア。

おそらく彼女の中で、簡単に命を狩り取れるランと、優しい笑みを浮かべるランが上手く受け入れられないのでしょうね。

悩んだ所でどちらもランでしかないのですけど、こればっかりはしょうがないですわね。


『続けますわよ?』

「あ、はい、お願いします」


今程連絡技術が発達していなかった頃ですし、ラン自身自分の姿を残す事に執着が無かったので少女の様な見た目はあまり知られておりませんでしたわ。

ただその頃には既にランの証明証はAだったので、知っている人間はランの存在と名は知っていたんですの。

それでもその見た目に侮り、痛い目を見る者は今より大量に居ましたわ。


ランに対する細かな認識は、今の連絡技術のが有ってこそですわね。

それでもこの間のように、ランの脅威を理解していないおバカさんもいますけれど。

いえ、むしろ下手をすると今の方がランは一般的には無名かもしれませんわね。

ランに対する認識が各国の共通認識になった事で、ランが暴れる機会が減ったわけですから。

明確な情報共有の賜物ですわね。


私が彼女と会った時の話は、彼女の噂が多く耳に入っていた頃の話ですわ。

鬼の一族を滅ぼしたいと思う国と、どんな目に合おうが自分の住む地で戦い続けた鬼の一族。

彼女にとってはどうなろうが知った事ではない戦争。

鬼が滅ぼうが、国が亡ぼうが、彼女にとっては興味がない話。


「興味がない、ですか」

『ええ、ランは自分の為に旅をしているだけ。その道中に何が有ろうが、関わりなければどうでも良い筈ですわ』


そう、本来なら興味が無い筈の話ですわ。けど彼女は私の前に現れた。

当時は何故彼女が私に力を貸してくれたのかは解りませんでしたわ。

いえ、違う事が理由だと思っていた、が正しいですわね。


でも、今なら解りますの

ランという人間がどういう人間か。何故あの時私に力を貸そうとしたのか。

とはいえ、その時の私は唯々仇をとる為に、力の限りを振り回しただけですねどもね。


『さて、では次はそこに至るまでの話としましょうか』

「はい、お願いします」


事の起こりは単純明快ですけどね。

私の目の前で国の兵が一族を殺していき、母や友も嬲られ殺された。

単純に国が攻めてきたのですわよ。人に仇名す化け物退治、と。まさに地獄でしたわ。

面白半分に四肢を割かれる者も少なくありませんでしたし、死して尚嬲られる者も居ましたわ。


そしてそれが奴らの仇になった。


私達は鬼の一族と言っても、人よりただ高い身体能力を持っているだけに過ぎませんでしたわ。

重火器にまともにさらされれば負傷しますし、死にもします。

でも私達は確かに化け物の末裔。その力は魂の奥底に刻まれていた。


死にゆく者達の、嬲られる鬼達の呪詛が、生き残る鬼の魂に宿り更なる化け物と化す。

昔はそれを恐れて私達は恐れられていたらしいのですけど、長い時の中、私達でさえそれを信じていませんでしたわ。

あの時自分にその呪詛が、最後の生き残りの私に、彼らの想いがこの身に宿るその時までは。


「・・・最後の一人、でしたよね。一族全員の呪詛をその身に背負ったって事ですか?」

『ええ、その時は私もギリギリだったのですけどね。いきなり傷が塞がり、力が溢れてきた時、その力の正体を理解した時、私は破壊の限りを尽くしましたわ』


残らず殺すつもりで暴れた。攻めてきた国の人間を全て殺すつもりで暴れた。

我らに仇なした者に報いを与えよと叫ぶ魂に従って、同胞を殺された恨みを果たす為に。

その結果、私ははれて公的に化け物の類に認定。国連に退治の募集が募る事になりましたわ。


そして私は国連の業務斡旋施設から派遣された、対化け物退治の連中によって無事封印。

いえ、連中も多大な犠牲を出したので無事では無いですわね。

それに私を退治するのは不可能だった様なので、苦肉の策だったのでしょうね。


そして封印された私の前に、彼女が、ランが現れましたの。

何時もの仕事着で、イコと一緒に。彼女もどうやら私の退治の仕事を受けていたそうですわ。

人が多すぎて面倒になったらしいですけど。


封印され身動きが取れない私に、ランは問いましたの。

私を見つめて、今と変わらない調子で。


「おい、鬼娘。満足か?」


ってね。

今思い出しても、あの時のランは憎らしいですわね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます