炎の化け物

「まったく、いつもいつも何で俺はこんな感じの役回りばっか・・・・」


ぶつぶつと呟きながら森を歩く。あいつに会ってからこんな事ばっかりだ。

くそったれな生から解放されたと思ったら、くそったれな女の下働きだ。

しかも、毎度毎度面倒な事ばっかりやらせやがる。


「他の連中と違って、俺らは痛えんだぞ」


普通の人間共の魂はその在り方が脆弱なせいか、再現して動かしても痛みなんて感じない。

けど俺達みたいな化け物は違う。顕現するとその魂が強すぎるとかで、痛いもんは痛い。

アイツが言うには痛みを感じているからこそ、化け物の力を自由に発揮できるらしいが。


「このまま逃げてえなぁ・・・」


魂をあのくそ女が掌握してる以上、そんな事は出来ない。

使われたくなくて抵抗する事は出来ても、あいつから逃げる事は出来ない。

もし逃げたとしても、ただ存在する事しか出来なくなる。

碌な事やらせねえくせに、ストックとして浪費することもしやがらねえ。ムカつく。


「この辺りで良いか」


あの女共が迷い込んだと思わしき結界の中まで歩き、足を止める。

この結界、かなり厄介だ。多分森自体を上手く使って作られているんだろう。

迷い込んだ相手に反応が無いあたり、結界を作った人間はもう生きてない。

おそらく奥にでも引っ込んで暮らしてたんだろ。

術者の居なくなった維持型の結界程厄介なもんはねえな。

迷った側は単純に迷ったとしか思えねえだろうし。


「――――――燃えろ」


火球を作り出し、森に火を放つ。

最初こそ燃え移る速度は遅かったが、何度も何度も森に打ち込んだ炎は瞬く間に広がっていく。

アイツが今回、内にためてる化け物の中から俺を選んだのはこれが理由。


「ま、これでこのまま結界も消えんだろ」


この結界は、おそらくこの土壌と森の両方を利用している。

でなきゃ術者がいないのに、いつまでも有るわけがねえ。

なら解除方法は簡単。全部ぶっ壊しちまえばいい。何もかも全て。

一点を壊すのではなくその全てを。

ただしそんな事してるのが見つからねえ様に、森の中でやれとよ。つまり焼け死ねって意味だ。


「んで、俺はこのまま焼け死んであいつの元へ戻るっと。くそが」


火を使えるつっても、俺は自分の火で身を焼く様な存在だった。火その物の化け物じゃない。

ただ、ある程度は火に耐性が有るせいで、自分が焼け死ぬ様な事は本当は無い。

けど今の俺は人形に詰め込まれてる疑似再現みたいなもんだ。火への耐性は本来より低い。

そもそも耐えられるだけで、熱いもんは熱い。


「あっつ。これぐらい火が回ったならもう良いよな。どうせ壊れるまで森から抜け出せねーし、人形に戻ろ」


独り言を呟きながら、ただの無力な人形に戻る。人形と言っても、ただの藁人形だ。

アイツがいつも懐に仕込んでいる、いざという時に使うための藁人形。


俺やヒナミぐらいの化け物なら、この程度でもある程度は何とかなる。

とはいえ、本来の能力で一番強い特性が再現できる程度だが。

ヒナミの場合は馬鹿みたいな身体能力。俺の場合はこの炎。

人形に戻ったのは単純明快な理由だ。その方が壊れるのが早いからだ。


『あっつ、あっつ! 早く燃え尽きろよ!』


でも結局熱いのは変わらない。くそが。








「お帰り」

『ああ、戻ったよ。くそったれのご主人様よ。全部燃えたと思うぜ、あれならよ』


人形が燃え尽きた事で俺の魂の持ち主であるランの下へ帰還し、そのまま悪態をつく。

それ位許されて良いだろ。くっそ熱かったんだぞ。


「おつかれ」


ランは悪態をつく俺に優しく微笑みながら、俺の魂を抱きしめる様に胸に手を添える。

その顔はとても優しく、その手はとても暖かい。

さっきのくそみたいな命令を下した女とは思えない程に。


『くそが』

「ああそうだ。私はくそ女だよ」


俺の悪態を全肯定し微笑む女。

これだからこいつはムカつく。

くそみたいな女のくせに、その内側にまるで別物を持ってやがる。

普段通り、外面通りの狂った奴でいろよ、くそったれが。


「いつか報いを受ける時を、楽しみにしておいてくれよ」

『・・・ああ、本当に楽しみだよ』


自分が滅ぶその日を、自分が殺した相手に見せる為にこいつは生きる。

自分らしい無様な最後の為に、こいつは生き抜く。

まるで報いを受けるのが、自分の当然の最後だと言わんばかりに。

その内側に、普段のふざけ切った態度とはまるで別物の優しさを抱えながら。


「あの森が残ってれば、似た様な事に使われんのかなって思ったらムカついてさ。ごめん」

『だったらもうちょっと、良い帰還の仕方にしてほしいもんだな!』

「ごめん」

『・・・謝んなよ、くそったれが』


こいつは俺の悪態に素直に謝る事しかしない。俺が殺されたあの時からずっと。

それが余計にムカつく。

何よりも、そんなこいつの願いを、悪態をつきながら聞いてしまう俺がムカつく。


「ありがとな」

『・・・けっ』


俺を救った時の笑顔を見せながら、俺を殺した時の優しさを向けながら、ランは礼を言った。

それが余計に腹立たしくて、まともな返事を返せない。


・・・こいつはいつまで自分をすり減らしていくつもりだ。くそったれが。

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