娘の家

おっさんからせしめた情報と娘の言葉を元に車を走らせ、娘の家らしき所に到着。


「ここか」


娘の家らしい建物の正面に車を止め、最後の確認をする。

結構な田舎だが、電気が通ってるだけヘタレのいた所よりマシな所だな。

周囲の民家の無さはいい勝負だが。


「は、はい、ここが、私の家です」

「そうかい」


娘の返事を聞くと同時に車から降りる。


「お前は良いというまで中に居ろ。エル、いくぞ」

「はい」


娘に車から出ない様に指示して、エルには付いて来る様に指示。

エルは素直に頷き、私の後ろを静かに付いてきた。


ふーん、いい家に住んでんな。

馬鹿でかいという程じゃあないが、そこそこ上流ってとこか。

でなきゃ田舎の娘が、遠くの街の学校に住み込みなんてそうある筈も無い、か。


「ま、良いか、とりあえず入ってみるかね」


呼び鈴を押し、反応を待つ。

暫くして、傍に有ったスピーカーから家人らしき男の声がした。


「はい、どちら様でしょう」


少し硬めの、誰かを伺うような声。

何かを警戒している様でもある。


「迷子のお届けだ」

「・・・なんの悪戯かね、お嬢さん」


年若い娘と侮ったのか悪戯と判断したせいか解らないが、畏まった感じが消えた声が耳に届く。

まあ、おそらく前者の可能性が高い。


「言葉通りだ。あんたの家の迷子を届けに来た」

「悪戯はよして貰おうか。警察を呼ぶぞ」

「ああ、呼べばいいんじゃないか。私としてはその方が話が早い」


死亡届が出されてるとはいえ、この娘は自分の名も、住所も、今までの来歴も自分で語れる。

先と違い地元の警察署で有るなら、こいつに話を持って行くのは容易い。

そうでなくとも、警察が来た時点で私の権限でこの家に押し入る事も出来る。

どうやったところで私は特に困らない。


「・・・少し待て。今玄関に向かう」


男がそう言うと、スピーカーからノイズ音が消えた。

通話自体を切ったんだろう。

しかしそうか、出て来るか。

まあ、何となくそんな気はしていたよ。


「ラン様、彼女の名前か、彼女自身を出せばよかったのではないのですか?」


私の行動に、エルが不思議そうな顔をする。

確かに娘を先に出してしまった方が話が早い。なにせ私は間違いなくこの町の人間じゃ無い。

どうやらカメラもつけられているようだし、私の姿も確認しているはずだ。

だからこそ、本当ならあの男は警察を呼ぶのが道理だ。


そう、私とこいつはただの不審者だ。

娘の名も言わず、ただ迷子を連れて来たといった不審者でしかない。

更に、死んだ娘の事を口にする悪質な存在だ。

例え私が警察を呼んだ方が良いんじゃないかといった所で、普通に呼ぶだろう。

本来なら、絶対にそれが正解だ。


「想像通りなら、さて、どうなるかね・・・」


家からは少し禿げたおっさんが出て来た。年は見た所若く見ても50といった所か。

田舎の娘持ちの親父にしては、年を取っている気もする。

まあ、相手がいなけりゃそういう事も有るだろうが。


「お嬢さん、迷子とは何かね」

「エル、連れてこい。フィアもな」

「はい、解りました」


エルに指示して、娘とフィアを連れて来させようとする。

娘を見た瞬間の男は、その目を大きく見開いて震えている様だった。


「ミャナリ!」

「お、おとうさん!」


男はエルに連れて来られたミャナリに駆け寄り抱きしめる。

娘はそんな男を父と呼び、同じように抱き返して泣き崩れた。

娘が泣き止むまで好きにさせ、泣き止んだ所で男に家に案内させた。






「いやぁ、まさかあの森に入って行った娘に、もう一度会えるとは思いませんでした。貴女には感謝してもしたりません」

「ええ本当に。帰って来てくれてよかった・・・」

「ふーん」


家に入ると、家人は男と女の二人だけだった。

後は娘の三人暮らしという訳だ。

母親の方も結構老けている。こっちもハゲと同じぐらいの歳に見えるな。


「お父さん、お母さん、心配かけてごめんなさい」

「良いのよ、私達は貴方が帰って来てくれただけで、それだけで嬉しいのだから」

「そうだ、お前は何も気にする必要なんかない」

「・・・ありがとう」


・・・まあ、良いか、とりあえず娘を送り届ける義理は果たした。

あとは私のやりたい事やって、帰るだけだ。


「なあお前、一人娘なのか?」

「あ、その・・・」

「・・・もう一人、娘がいましてね」


娘に問うが、その答えはハゲがしてきた。

ハゲの話ではこの娘には姉がいて、数年前に死去しているとの事だ。

ある日長期間家を空ける用が有り、帰ったら娘はベットで倒れたまま死亡してたらしい。

死亡原因は肺炎との事だ。


本当ならば姉も一緒に出掛ける筈だったのだが、姉はその時すでに風邪をひいており一人家に残ったらしい。

結果、一人家で寂しく死亡、と。

なるほどねぇ。


「これでこの子までいなくなったら、私達は・・・」

「ああ本当に、この子が帰って来てくれてよかった」


娘を抱きしめる二人は、娘の帰還を喜ぶ親にしか見えない。

私はそんな二人を、冷めた目で見ながらこの場を去る事を口にする。


「じゃあ私は帰るから」

「え、そんな、お礼もまだなのに」

「いらねえ。私は先を急ぐんでな。じゃあな」

 

一方的に別れの言葉を口にして立ち上がる。


「ああ、そうだ。お前にこれやるよ」


そこで思い出したかのように鞄を漁り、娘に一つの人形をくれてやる。

娘はその人形を受け取り、キョトンとしている。まあ当然だ。

本来なら礼をされるべき人間が、なぜか助けた相手に物をやろうってんだから。

その上それは人形で、人形を渡した相手は警察署で銃をぶっ放す狂人だ。


「そいつはお守りだよ。部屋に飾って移動時も持ってな。今度はあんな目に合わねー様にな」

「は、はい。ありがとうございます」


娘は素直に頷き、まじまじと人形を見ている。

私はそれを確認して、今度こそ家を出て行く。

あの夫婦の、本当にありがとうございましたという胸糞悪い言葉に、イラつきを覚えながら。

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