迷子のお届け

「ぐえっ」


鳩尾に何かが落ちる痛みに呻き、そのせいで強制的に意識を浮上させられる。

何だ、何が起こった。

片目だけ開けて鳩尾の痛みの原因を確かめる。其処には白い何かがぼんやり見えた。

覚めない目を起こそうと擦りながら見ると、イコが胸の上に居た。


「何しやがる・・・」

『何時まで経っても起きぬからだ』

「るせぇ・・・」


まだ寝足りない私は、イコをつかんで壁に投げつける。

だがイコは綺麗に壁をけり、床に着地した。流石猫だな。

それを見届けた後また寝ようとすると、足の指に激痛が走る。


「いたあぁああ!」


このくそ猫、足の爪の隙間を爪で刺しやがった。

あまりの痛みで眠気が完全に吹き飛んだ。


「こ、この、てめえ、なにしやがる・・・!」


痛みを覚悟してなかったせいで滅茶苦茶痛い。これなら片腕切り落とされる方が痛くねえ。

涙目になりながらイコを睨むと、イコは涼しい顔で口を開いた。


『娘をいつまで放置しているつもりだ』

「・・・あー、忘れてた」


イコの言葉で向こうでワイワイやってる声に気が付き、頭をガシガシとかきながら起き上がる。

あの娘、捜索届は出てる筈だ。連れてかねーとな。


「とりあえず風呂入って来る」

『解った、上がったら出ると伝えておくぞ』

「ん」


あー、眠い。けどやるこたやんねーとな。

後、ついでにあの森について調べるか。

なーんかキナくせーんだよな。









「シートベルトはしめておけよー。万が一は有るんだからな」

「は、はい」


後部座席でシートベルトを締めずに座っている娘に声をかける。ミャナリと言うらしい。

家への帰宅途中で事故って振り落とされたのに、もう一度振り落とされる気かこいつは。

娘がシートベルトを締めたのを確認し、アクセルを踏む。

この辺りの道は舗装があんまりされてねーな。あの森といい、開発が進んでない土地だな。

少し離れれば都会街が有るだけに、少し違和感が有る。


「あー、そういやなんだっけ。迷いの森扱いなんだっけ? あの森」

「は、はい。この界隈の人なら近づかない所です」


てことは、もしかしたらあの結界は大昔から有んのか。

残ってる魂が少ないからその辺は解んねえな。

だとしても、この娘が一人だったっての納得いかねえ。

車が転倒した場所はもっと離れた位置の筈だ。


例えあの結界に迷い込む様な場所が入り口傍に有ったとしても、それならあんな奥深くで彷徨ってるのはおかしい。それに、この娘しか居なかったってのも不自然だ。

エルの話では近辺に人は居なかったらしいが、単に見える範囲に居なかった可能性も有るな。


「まあ、今考えても仕方ねーか」


先ずは軍か警察に連れてく。事はそれからだ。

つーか、あたしが寝てる間に警察が来たらしく、あたしの証明証を見せたらしい。

そん時に起こせよ。二度手間だわ。態々娘連れてかなくても済んだのに。意味が解らん。

距離がそんなにないから良いが、めんどくせえ。







警察署の方が近かったので、警察署の駐車場に車を停める。

そのまま全員引き連れて警察署に入り、受付らしきおっさんに声をかける。

おっさんは私達が近づいてくる事に気が付くと、にかっと笑った。


「どうしたお嬢さん方」

「迷子のお届けだ。捜索願か何か出てない?」

「ん、どちらさんだ? 全員か?」

「この娘だ。名前はミャナリ・エニラル」

「ちょっと待ってくれよ・・・」


おっさんは手元の端末を叩き、情報を調べ出す。

舗装もしょぼい田舎町にしては、ちゃんとやってんな。

こんな手前の端末で調べられるのは意外だ。

たいていこの手の田舎町だと、デカい所に問い合わせねーと無いもんだが。


「あん? なあ、お嬢さん。さっきの名前、間違いないか?」


おっさんのその質問で娘に目を向ける。

娘がコクコクト頷いたのを見て、おっさんに向き直る。

おっさんの顔は眉間にしわが寄り、制服を着てなかったら完全に犯罪者の顔だった。

まあ警察もマフィアも似たようなもんだからな。あんま変らんか。


「どうしたよ」

「・・・うーん、ちょっと待ってくれよ?」


おっさんが端末をもう一度叩き出す。だがおっさんの眉間の皴だけが増えていく。

何だよめんどくせえな。早く結論を言えよ。どうせたいしたこっちゃねえだろ。

そう思っていたが、さすがの私も次の言葉は少し驚いた。


「その名前のお嬢さん、死亡届が出されてるな」

「は?」


おっさんの言葉に全員が娘を見る。

だが誰よりも、娘が一番目を見開いて驚いていた。

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