ラン式宿の取り方

あれから暫く走って、そこまで時間もかからずに街についた。

目的の街ではないけれど何か用事が有るらしい。今は宿の駐車場を走っている。

窓から宿を見上げるホテルは、ずいぶん高そうな雰囲気だ。


「くあ~、着いた~」


宿の駐車場に車を止めて背伸びをするランさん。車の運転は肩がこるって聞く。

私も免許が取れたら代わってあげられるのかな。今度聞いてみよう。


「すー・・・すー・・」


私の隣では、女の子が寝息を立てている。ちょっと前に迷い込んだ、変な所に居た女の子だ。

泣き疲れたのと安心したのとで眠気が来たんだと思う。軽くご飯も食べたし。


「エル、そいつ抱えて貰えるか?」

「はい、わかりました」


ランさんは車から降りて、エルさんに指示すると宿に歩いて行った。

私も慌てて降りてついて行こうとするが、すでにランさんは宿の中に入っている。


『まあ、慌てるな。ランは此処に来るのは初めてだ。どうせ宿を取る前にひと悶着ある。ゆっくりでいい』


そんな私にイコさんが声をかけてきた。ランさんも来た事が無い所があるんだ。

それはそうか。なんだかランさんは世の中を全部知ってる気になっていた。


「ひと悶着ですか?」

『良くある事だ』


イコさんの不思議な発言に首を傾げていると、銃声と何かが割れる音が宿から聞こえた。

その音に、私とエルさんは宿の方に振り向く。


「銃声!?」

「ラン様!」

『慌てるな二人とも。それにエルは子供を任せられているであろう』


驚く私と、今にも走り出しそうだったエルさんを止める様に前に立つイコさん。

エルさんは抱いている子供の存在で、走り出すのをぐっと我慢した。


「でもイコさん、何かあったんじゃ」

『どうせランが暴れているだけだ』

「あ、暴れてる?」


ランさんが暴れてるってどういう事?

何で宿でランさんが暴れるんだろうか。


『・・・二発目が聞こえんな。今なら問題なかろう。行くぞ』


イコさんの言葉に頷き、私達はその後ろをついて行く。

宿に入ると、男性の胸ぐらをつかんで、銃口を額に押し付けているランさんが居た。

ランさんの顔がとても笑顔なのが逆に怖い。


「な、何これ」


予想外の状況にその言葉以外出なかった。何でこんな事になってるの。

エルさんも驚いて動けていない。目が点になっている。


「す、すみません! すみません! どうか許してください! 知らなかったんです!」

「知らなかったで済むなら、貴方の頭は吹き飛ばなくて済んだのにねぇ」

「ひぃ!! ど、どうか許してください! お、お願いします! 助けて!」


ニコニコした笑顔で物騒な事をいうランさんと、必死に命乞いをしている男性。

あと、周囲に野次馬も居るけど、怖くないんだろうかこの人達。

私達はランさんの知り合いだから解るけど、普通は逃げると思う。

あ、違う。なんか通報するとか言ってる。これってまずいのでは。


「ふんっ」


ランさんは小型の拳銃を袖にしまって、ごみでも見るかの様に男性を見下す。

解放された男性はへたりこんで、怯えてランさんを見つめていた。


「じゃあ、とっとと誠意を見せろ。次はねーぞ」

「は、はいぃ!!」


男性は慌てて立ち上がり、色んな所に体をぶつけながら奥に行く。

男の人をあそこまで慌てさせる事って、何が有ったんだろう。

何より、ランさんは何であんなに怒ってるんだろう。


『相変わらずお前は宿一つ満足に使えんのか』

「うるさい。私の証明書を偽物とか言ったあのくそ親父が悪い」

『それだけではなかろう』

「ガキは素直におうちに帰れとかぬかしやがったから、じゃあお前は土に返してやろうって言っただけよ。ついでにこの証明書の権限も懇切丁寧に教えてあげた。感謝してほしいね」


ランさんは苛々しながらイコさんに答える。

証明書って、ランさんの持ってる何か特別な事が出来る証明書だったっけ。

普通の人が持ってる物とは違うって聞いている。

大の男の人があんなになる様な物なんだろうか。


『いい加減剥奪されるぞ』

「はんっ、やれるもんならやってみればいいね。私と事を構える度胸と、私を使えないデメリットを理解出来てるならね」

『こんなのが一番成果を上げているのが、世界で一番の理不尽だな』

「他の連中が無能なのが悪い」

『ほざけ。確実に通報されているから、また奴が頭を抱えるぞ』

「知らん」


ランさんとイコさんが言い合っていると、さっきの男性ではない人が鍵を持って出てきた。

会話に入れなかったけど、奴って誰の事だろう。


「ラ、ラン様というのは貴女でしょうか」


そう言って、エルさんに聞いてくる男性。

エルさんも私も、これはまずいのではないかという気持ちでランさんを見る。

だがランさんは特に怒る様子もなく、男性の背中を叩く。


「え、は、はい、何でしょうか?」

「ランは私。OK?」

「え、あ、は、え?」

「わ・た・し。OK?」


ランさんは一度目は普通に言ったが、二度目は男性の鳩尾に銃を突き付けて言った。

男性は慌ててコクコクと頷くと、私達を部屋まで案内した。

その間ずっと汗をかいてた気がする。脇がびっしょりだった。


今までの事でも何となく解ってたけど、この人無茶苦茶だなぁ。

前の宿ではそんな事なかったのに、何でこんな事になってるんだろう。

ああ、そういえばさっきイコさんが、初めて来たって言ってたっけ。

てことは知らない所では毎回こんな感じなのかランさん・・・。


ランさんって、優しいのか怖いのか良く解らなくなるなぁ。

私を助けてくれる様な優しい人なのに、こういう一面が強く見える。

優しいからこそ、そう見えるんだろうか。


「あー、疲れた」


私の悩みなどランさんが気にする筈もなく、部屋に入るなりベッドに飛び込んだ。

エルさんは女の子をあいているベッドに寝かせ、私は荷物を置いて一息つく。


「・・・」


部屋を見回して思うのは、明らかに額が凄そうな部屋だという事だ。

ベッドが6つもあるのに、部屋がまるで狭く感じない。

前回泊まった宿も広かったけど、今回のは広すぎる。宿というより、家だ。

台所もあるし、部屋も複数。テレビも大きいし、冷蔵庫も有る。

何よりお風呂がとても大きい。私が10人いても入れる大きさだ。何だここ。


「とりあえずあたしは寝るから、めし食いたかったら各自なー」

「はい、お休みなさいませ、ラン様」

「おやすみなさい」


お休みと言い切った後、すぐに寝息をたてだすランさん。早い。

よっぽど疲れてたのかな。


「フィアさんは大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です」

「そうですか、無理はされないようにして下さいね?」

「はい、ありがとうございます」


エルさんは私心配をするけど、私もエルさんが心配だ。この人寝てるところ全然見ない。

勿論この人が人間じゃ無いっていうのは知ってるけど、それでも大丈夫なのかと心配になる。


「ん~・・・」


女の子が寝返りを打ちながら唸っている。何か変な夢でも見てるんだろうか。

そういえばランさん、この子どうするつもりなんだろ・・・。

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