本当に居た娘

「多分こっちからの筈・・・」


周囲に木々が多いせいなのか、音が上手く聞き取れない。

確かに子供の泣く声は聞こえるのに、近づけているのかどうなのかが判らない。

もしこんな所で泣いている子が居るのだとしたら、私達と同じ様に捕らわれた人間の筈だ。

早く助けてあげないと。


全力で走りながら、音の発生源に近づこうとする。

けど、近づけているのかいないのか、若干解らなくなっていく。

間違いなく聞こえているのに、近づけている気がしない。

不味い、もしかしてまたさっきの様に同じ所を回らされている?


もしかして、泣いている子を餌に誘われたのだろうか。

またも失敗したかもしれない不安に、じっとり手汗をかく感覚を覚える。


とりあえず聞こえてると思う方向に走る。全神経を集中させて、泣き声を聞きながら。

どれだけの間か走っていると、ある地点で泣き声の大きさがおかしくなっている事に気が付く。

気が付いた後全力で3回ほど同じ所を走り、ここだと思った場所を先程のように殴りつける。


すると地面が吹き飛び、その先に今まで見えなかった景色が見えた。

良く解らないけど、私ならこの不思議な現象を吹き飛ばせるようだ。お父様の力なのだろうか。

でも私はお父様のように異形になる事は出来ないから、断片的な物なんだと思う。


「居た!」


開けた視界の先に、蹲って泣いている女の子が見えた。

まだかなり遠いけど、私ならこの程度の距離すぐだ。

けど、全力で近づくと怖がらせそうだと思ったので、徐々に速度を落として近づいて行く。

子供は私の足音が聞こえたせいか、泣きながら俯いていた顔をこちらに向けた。


「あ、ひ、人だ、良かった、良かったぁ・・・!」


私の視認すると、ぐすぐすと泣きながら私に近づいて来る子供。よほど怖かったのだろう。

赤の他人に縋りつく程、この子は一人でここを彷徨っていたんだろう。


「怖かったみたいですね。もう、大丈夫ですよ」

「う、うえええぇぇぇ・・・」


私を認識した事で一度涙が止まったようだが、安心した事でまた泣きだしたみたいだ。

この状態では事情を聞くのはままならない。とりあえずラン様の所に戻ろう。

もうラン様は車まで戻っているはず。

子供を抱き上げて、あまり急ぎ過ぎずにラン様の下へ向かう事にする。


「大丈夫ですよ。ここから出してあげますからね」

「えううう・・・」


子供の背を撫でて落ち着かせながら、来た道を戻る。

どうやら今度は素直に戻れそうだ。ラン様の車がちゃんと見える。

これで帰り道も戻れなかったらどうしようかと思った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ラン様、ただいま戻りました」


窓を開けて煙草を吸っていたあたしに、帰還報告をするエル。

抱えてるのがさっき泣いてたって子供か。


「そいつがさっき言ってた子供か」

「はい」


子供はぐずぐずと泣きながらエルにしがみついている。

エルは子供の様子を私に見せるように屈んだ。

私の顔の高さまで来た子供の前髪を上げ、頬に手をやり、その目を見る。

なんだ、本当に迷い込んだだけの娘じゃねーか。


「とりあえず乗れ。お前がさっきぶち壊してくれたおかげで、ここから出れそうだ」

「はい」


エルは頷くと娘を後部座席に座らせ、シートベルトもつけてやり、頭を撫でてから離れる。

多少ぐずっていたが、わりかし素直に座った。

エルが助手席に座りシートベルトを付けたのを確認してから、私はアクセルを踏み込む。

道なき道を突っ切るので、凄い走りにくい。


「やっぱ軍用車ほしい」

『贅沢を言うな。十分走れているだろう。その辺の乗用車ではとうに立ち往生しておる』

「そりゃ解ってるわよ」


確かに悪路を走るという意味では今乗ってるのも上等な物だ。舗装をされていない道どころか、段差だって多少なら何も問題ないような車だ。けど、軍用車には負ける。

昔乗ったやつは良かったなぁ。

正面から何が来ようと弾き、どんな状態の道だろうが走り抜け、水の中も突っ切れた。


『貰い物にケチをつけるな』

「無条件の貰いものならつけねーよ」


この車は交換条件の一つだ。なら良いものよこせっていうのは当然だろう。

せめて可愛い服の一つでも積み込んでたら許した。だから許さん。あのロリコンはくたばれ。


「大丈夫?」

「う、うん、ありがとう」


フィアが後ろで娘に声をかけている。受け答えははっきりしているから大丈夫だろう。

この娘は次の街で警察組織にでも引き渡す。

どうやらいいとこのお嬢さんみたいだし、親族全員全滅とかでもない限り大丈夫だろう。

今んとこそれらしき死者は見つけてないしな。


『しかし、ここの目的は何だ。わざわざ閉鎖空間を作ったにしては、何もしかけてこんな』

「ただの愉快犯なのかもしれねえな。迷って苦しんで、死んでくのを眺めるのが趣味なだけの」

『悪趣味だ』


ここで捕まえた死者共は、全員この現象を作った人間の顔を見ていない。

つまり直接的な死因は、ここに辿り着き、彷徨った事による餓死だ。

いや、食料なら何とかなったかもしれない。けど水はそうはいかない。

此処には川も池も見かけられない。雨でも降らなきゃ終わりだろう。

後はよほどのサバイバル知識が有るかだな。


「迷って弱って死んだせいか、自我が弱くて死後の状況は見えてねえから面倒くせえ」


それが良い訳じゃないが、死ぬ前に強い想いが有ったほうが現世に干渉しやすい。

あの人食い村の子供らのように、死後もその世界を見続けられる。

まあ、ヒナミみたいにそんなの関係なく存在できる化け物も居るけどな。


「とりあえず抜けれそうだな」

『今度は道を間違えるなよ』

「解ってるわよーだ」


イコの嫌味を流しながら街に向かう。

本来行くつもりだった街とは違う町へ進路を変更して、この娘の住む町へ車を向ける。

この娘の街にまで送る位はしてやっても良いだろう。

それに、この娘の記憶、引っかかる物があるしな・・・。

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