迷子。

「あの、ラン様」


エルがおずおずと私に声をかけて来る。理由は解ってる。ああ解ってる。

なので私は応えずに運転を続ける。だって口に出したら真実になってしまう。

認めたくない私は、黙って前を見てながらアクセルを踏み続ける。


『ラン、道を間違えたろう』

「言うなよ! 認めなくなかったのに!」


次の街へ向かう為に車を走らせていたのだが、完全に途中で道を間違えた。

今は道なき道を走っている。

戻れば良いと思うかもしれないが、戻っても戻れない。

明らかにさっきから同じ所をグルグル回っている。目印にと思った樹木を何度も見かけている。


『燃料も無限ではないのだぞ』

「解ってるよんなこた」

『ならば同じところをグルグル回るのはいい加減止めておこうとは思わぬのか?』

「お前ほんと嫌味だよな!」


私は一回車を止めて、ハンドルに頭を預けて項垂れる。

私だって、ガソリンが無限じゃないなんて解ってるさ。

解ってるけど止まれない理由があったんだよ。


「腹くくるか・・・」


現状を打開する覚悟を決める。

面倒だからやりたくなかったけど、どうやらやらないと逃げられないようだ。

同じところをグルグル回っているのは別に私が方向音痴だからでも、似た様な道が続いてるせいで感覚が狂ってるわけでも無い。意図的に同じ場所を回るように空間がねじ曲がってる。

化け物なのか人間の仕業なのか解らないが、ここから逃がす気が無い様だ。


「フィア、後ろから私の仕事着取って」

「あ、はい」


フィアに頼んで服を取って貰い、仕事用の服に着替える。

エルと戦った時にも着ていた服だ。仕事をする時はこの服でやると決めている。

それに最近買ったばかりの服を駄目にしたくない。このレース気に入ってるんだ。

締めの時は可愛い服着てる事も多いけど、戦闘でダメになりそうな時はこれしか着ない。


「何か、異常事態なのでしょうか」

「ああ、さっきから一定の地点まで到達すると、そうと解らない様に空間がループしてやがる。どっち方向に動いてもこの箱庭から逃げらんねぇ」


逃げようにも、ここに居る死者は逃げられずに死んだ連中見てーだし、当てにらなねぇ。

とりあえず綻びが無いかと思って走り回ってたけど、何も見つからずに回るだけになった。

正直、面倒くさいから関わりたくなかったんだが、出れないならやるしかない。

幸いこっちには先日買ったばかりの弾丸と、エルが居る。

よっぽぼどの化け物が出て来ねー限り、そうそう面倒にはならんだろ。


「フィア、とりあえず車に残っとけ。イコも残るから」

「はい、気を付けてくださいね」

『とっとと片づけてこい、方向音痴めが』

「っせーな! だったらお前が運転しろよ!」

『猫に運転を頼むなど、正気の沙汰とは思えんな』

「お前三味線にしてやろうか・・・!」


嫌味を言うイコの額に銃口を向ける。

だがイコは涼しい顔でこちらを見ている。怯む様子など一切ない。

私がこいつを撃つなんて出来るわけがないと、確信が有るから余裕の顔だ。ムカつく。

けど二人はそうじゃない。私達の普段の行動に、焦って止め様とする。


「だ、ダメですよラン様」

「い、イコさん」

「グエ」


フィアはイコに声をかけるだけだったが、エルは私を物理的に止め様として羽交い絞めにした。

そのせいで変な声が出た。

人間はそんな方向に関節は曲がらないと訴える暇なく、肩が後ろに引き伸ばされた。

物凄く痛い。体も宙に浮いてて抵抗出来ない。


「いだい・・・」

「あ、す、すみません!」


私の潰れる様な声を聞いて、焦って手を放すエル。そのせいで私は地面にべしゃっと落ちる。

顔から行った。すげー痛い。


「あ、あの、ら、ラン様?」


倒れたまま動かない私に、どこか恐れを含んだ声音でエルが声をかけて来た。

多分怒られると思ったんだろう。

いや怒るけど。絶対怒るけど。でも今はとりあえず痛くて動きたくない。

肩と顔が本気で痛い。


『あはははははは!!』


大爆笑するヒナミの声が聞こえる。あいつ後で覚えてろ。

くっそ、それもこれも全部この空間作ったやつのせいだ! ぶっ殺す!

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