出来なかった買い物

「これも良いなー。どうフィア、似合う?」

「はい、とっても」

「にへへー。こっちも良いなー」


何時ものランさんを知っていると、目を疑うようなニコニコ笑顔で服を選んでいる。

言葉も心なし柔らかい。

今いるお店は、ランさんが好んでいるブランドの系列店だそうだ。

値段を見ると、一着でひと月生活出来そうな額が書いてある。

あ、違う。よく見るとこれ、小物別の値段だ。

えーとこの一式そろえると・・・うん、見なかった事にしよう。


「フィアも着ない? フィア可愛いしこの手の服似合うと思うのよ」


物凄いご機嫌に、服を大量に持ってくるランさん。

その手に持っているのはなんというか、明らかに普段着ではない。

細かいフリルとかレースとか、作るのに手間がかかる様な物ばかりだ。

でもランさんは普段からこういう物着てるから、普段着になるのかな。


店員さんはランさんの行動を一切咎めない。

物凄く大量に服を一か所に持って来てるのに、ニコニコ笑顔で接客している。


「ラン様は、この手の物も似合うと思うのですが」


エルさんがパンク系の服を持って来て、ランさんに手渡す。

確かに私も似合うと思う。むしろランさんの性格上、そっちの方が雰囲気に合ってる気がする。

値札を見ると、こっちも値段が楽しい事になってる。

なんだろう、前回お金に関して色々教えて貰ったせいか、値段にどうしても目が行く。


「こういうのも嫌いじゃないけどね。組み合わせ次第で可愛いし」


ランさんはそう言って受け取ると、鏡を見ながら服を合わせている。

実際、ランさんは容姿が可愛らしいから、何着ても似合う気がする。

エルさんなんかはスーツが似合いそう。スタイルいいし、背も高い。


「ほら、フィア、何ぼーっとしてるの。これとか可愛いよ?」

「あ、は、はい」


ランさんに服を押し付ける形で渡され、私も合わせてみる。何だか少し、落ち着かない。

こんな可愛らしい服、私に似合っているのだろうか。浅黒い肌が何とも言えない気持ちになる。


「ホラー、可愛い。良いな良いな。こっちも良いと思うんだ」


ランさんは私の気持ちなど一切関係なく、凄まじくテンションが高い。

今のランさんを見ていると、初めて会った時のランさんが嘘のように思える。


「エルは、ほら、こっちの着よう」

「え、わ、私はこの服で十分なのですが」

「私が嫌だ」

「う、は、はい」


ランさんは私が着替えている間、エルさんにも服を進めている様だ。

エルさんも押し負けている。ちらっと見た限りでは、かなりのミニスカートだった。

彼女のすらっとした足が映えそうだ。


「わー、可愛い! ほらほらイコ、これよくない?」

『お前は何故服屋ではそうなのだ』

「女の子は何時だって可愛い服が好きなのよ?」


ランさんはとても可愛らしい声音でイコさんに答える。

あまりに普段と違い過ぎるせいで、一瞬固まってしまった。


『・・・毎回の事だが、素で言っているから嫌味も言えぬ』


イコさんの返事など聞く気の無いランさんは、鼻歌を歌いながら籠に服を入れていく。

明らかにサイズの合わない服はエルさん用のだろう。

ランさんが満足し終わるまで私達の着せ替えも続いた。その時には既に日が暮れていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あー、満足」


買いたいだけ買った服を抱えながら、満面の笑みで宿に向かう。この町には拠点はない。

なのでとりあえず通過する前に、服を買っておきたかった。


『ならば弾丸を買いに行くぞ。もう数が少なかろう。まだ閉店までは時間が有ろうが』

「えー、メンドクサイ」

『9ミリはともかく50AEはもう数が無いだろう。化け物共に遭遇した時どうするつもりだ』

「あー、はいはい、分かりましたよ、行きますよ」


うるさいなー、さっきまで気分良かったのが台無しじゃねえか。

まあ、無いと困るからしゃーないか。

そうそう毎回ストックを使ってもいられない。


「あ、あの、ラン様、その、一度着替えてはいけませんか?」

「なんで?」

「そ、その、周囲の目が、どうにも恥ずかしくて」

「まあ、足綺麗だし胸有るからね。良いじゃない。綺麗よ?」

「あ、あうう」


エルが恥ずかしそうに着替えを望むが、その申し出を却下する。

今のエルは胸元が開いている上着にスリットの入ったミニスカートと、とても扇情的だ。

ギリギリ下着が見えない。そんな服だ。スタイルが良いから道行く男が皆振り返る。

我ながら良い仕事をした。


「なんだよ、良いじゃねーか、若いうちに見られてなんぼだぜ?」

「そ、そういうのはあまり興味がないんです」

「えー、でもエル用の服も沢山買っちゃったのにー」


先程買った服が入った紙袋を抱きしめてエルに言うと、エルは諦めたように項垂れる。

こいつはこういう方面に耐性が無いとは思ってたけど、思った通りだった。

後解ってないと思うが、恥ずかしがる方が余計に目立つんだけどな。


「フィアのもいっぱい買ったし、本当に満足」

「あ、あの、良かったんですか? 私の服なんてこんなに買って」


フィアは自分の持つ紙袋を見て、不安そうに言う。

けど、これは私がしたいだけだ。だからフィアが不安そうにする必要はない。


「私がそうしたかったの。フィアが気にする必要ない」

「は、はい」


私とフィアは体格があまり変わらない。二人で着まわすのも楽しいだろう。

それに自分以外に服を着せる相手が居るのは楽しい。

あの街では疲れてたし、そんな暇もなかったからなー。


『どうせ暫くしたらあそこに送るのだろう?』

「うん。だって次の季節物買いたいし」


着なくなった服は、とある所に送っている。

一応追加で男物の服も買って。


『・・・無駄遣いだ』

「猫には分からないわよーだ」


こいつとのこの言い合いもいつもの事だ。こいつは私が服を買う気持ちを理解しない。

服など機能的に使えれば良いだけだろう、なんてぬかしやがる。

可愛い服を着なくて、なんで女してんだよ。私は死ぬまでこの格好止めねーぞ。


「じゃあ弾買って、今日一晩休んだら出発すっか」

「は、はい」

「はい」


顔を真っ赤にしながら答えるエルと、戸惑いながらも元気よく返事をするフィア。






これで二人とも少しは余計な事考えずに済むかね。子守は大変だわ、全く。

私について来るなら、あんまり細かい事は気にしないでもらいたいもんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます