不安な出発

「フィアさん、大丈夫ですよ」

「はい・・・」


ランさんの心配をしている私に、車に荷物を積み込みながらエルさんが声をかけてくれる。

この町を急に出ると言い出したランさんは、車のキーをエルさんに預け、街の出入り口で待っておけと言った。最後に一仕事してくると言って。

私達はその指示に従い、街の外で待っている。

ただ私はその時の顔が、なんだか嫌そうな表情だったのがとても気になった。


「ランさん、ですもんね。大丈夫ですよね」

『あやつが一人で行ったという事は、手段を択ばんという事だ。何も問題はない』


不安を消そうとした呟きに、イコさんが応える。

手段を択ばない。それはどんな手でも使わないといけない相手という事では無いのだろうか。


『ほれ、心配するだけ無駄だったようだぞ』


その言葉に促されてイコさんと同じ方向を向くと、ランさんがこちらに歩いて来ていた。

よかった、無事だった。


「ランさん!」


ホッとした私は、思わず大きな声でランさんの名前を呼ぶ。


「ん、待たせた?」


私の頭に手を乗せて応えるランさんは、いつも通りのランさんだった。

やっぱり、心配し過ぎだったんだろうか。


「お帰りなさいませ、ラン様」

「荷物は全部積み込んだか?」

「はい、指示通り、全て」

「うっし、じゃあ行こうかね。フィア、いくぞー?」

「は、はい」


荷物の確認を取ると、ランさんは運転席に座る。

悪路用の大きな四輪駆動車の運転席にランさんが乗っている様は、なんだか凄く違和感が有る。

そんな事を思いながら後部座席に座り、私の横にイコさんが座る。


「しっかしあの野郎。用意するなら軍用車用意しやがれってんだ・・・」


なんて呟きながら車を走らせ始めるランさん。あの野郎って誰の事だろう。

でもこの車、舗装がしっかりしていない道を走っている割に、あまり揺れない。

良い車だと思うのだけど。


「あー、そういやフィア、腕の調子どう?」

「腕ですか?」

「左手の方」

「あ、はい、大丈夫です。ヒナミさんとお話も出来る様になりましたし」


あの後、ランさんは私の腕をもう一度調整した。

その結果意志疎通出来た方が良いと判断したらしく、ヒナミさんとはお話し出来る様になった。

右手の人の事は、相変わらず良く解らないままだけど。

ただ、それに関してもヒナミさんが少しだけ教えてくれた。


『どうせランは説明を面倒がるでしょうから、教えてあげますわ!』


と言われて多少教えて貰ったのだけど、それも彼女の主観の塊で結局良くは解ってない。

彼女曰く、右手の人物は精神異常者、との事だ。それだけだと凄く心配だ。

けど自信満々に、私に任せれば何も問題ありませんわと言われ、話が終わってしまった。


「あー、くそ、服も買えてねーってのに出発かよ。次の街まで遠いんだぞ」

『服の前に弾丸を買わんか馬鹿者』

「何言ってんの! 可愛い服買う方が優先でしょうが!」

『貴様はどうやって仕事をする気だ。金は有っても弾を買わねば戦えんだろうが』


右手を見つめながら考えていると、イコさんとランさんが言い合いをし始めた。

服か。そういえばランさんは同じ服を着ている所をあまり見ない。

仕事着なのか、今着てる服は初めて会った時と同じ服を着ているけど、それ以外では毎日違う、可愛らしい服を着ている。


「そういう事ならばお任せ下さい。私がラン様の弾代わりとなりましょう」


エルさんが言いあう二人に手を胸に当てながら言うと、ランさんはいきなり車を止めてエルさんに顔を向けた。

イコさんも同じくエルさんを見ている。


「そういう問題じゃねえんだよ!」

『そういう問題ではない』


二人がほぼ同時にエルさんに言うと、エルさんは見るからにへこんだ顔をした。

背中も丸まって、顔を下に落としてしまう。

小声で申し訳ありませんと言っているけど、二人は聞いちゃいない。


「あ、あのエルさんの気持ちは伝わってると思いますよ」

「・・・はい」


だめだ、私じゃ上手く慰められない。

ランさんとイコさんの言い合いはヒートアップしてるし、どうしたら良いの。


『フィア、この二人はいつもこんなものですわよ。気にしないのが吉ですわ』

「そうなんだ・・・」


あの街に移動する間は割と静かだったんだけど、あれはいつも通りじゃなかったのか。

私に気を遣ってたのかな。そう思うと、今は自然体のランさんって事になるのか。


「不安だなぁ」

『慣れですわ、慣れ』


ランさんの自由さの一片を見てこの先の不安さを想う私に、あっけらかんと言うヒナミさん。

でもその通りなのかも。


「・・・うう」


とりあえず若干泣いてるエルさんをどうにか慰めなきゃ。

ああ、やっぱり不安だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます