それぞれの標的

後に問題が残らない様、やった相手をきっちりと見極めて殲滅するつもりだった。

もしそこを見間違えれば後が続かなくなる。

だが殲滅は情報提供によって出来なくなった。

意外な人物からの提供だったが、それでこの気分を晴らせるならしょうがない。


提供主の条件を飲む事になったが、実行犯を好きにして良いという言葉に首を縦に振った。

時間を置けば自分の状況を理解して逃げる可能性がある。それは頂けない。絶対に逃がさない。


まあ、良い。あいつは今どうでも良い。

一番はあの子の仇を取る事だ。私にとってはそれが今最優先。

昔仕入れて使う事の無かった呪具を懐にしまう。

まさかこれを使うなんてね。趣味が悪いって言っていたのは誰だったかしら?


腰にナイフを二つ差し、殺しの時に来ていた黒服とコートを羽織る。

感傷に浸り過ぎかもしれないが、これでいい。これでこそ意味が有る。

私は『クレメア・ブレーグル』なのだから。

私を私たらしめている二刀と黒服。これで乗り込んでこそ意味が有る。


準備を整え、部屋のドアを開けて出ようとすると、見覚えのある幼女がいた。


「・・・よう」


その子はいつから居たのだろうか。

部屋の前で腕を組んで、壁に背を預けながら立っていた。


「ランちゃんじゃない~、どうしたの~?」


私は彼女の前ではいつもの私をやる。

『クレメア・ブレーグル』ではなく『ランの友人のクレメア』として。

それが、私が彼女と対話する事が出来る条件だ。彼女と友人でいられる区切りだ。


「別に、たいした話じゃない。好きにしろって言いに来ただけだ」


―――好きにしろ。


馬鹿な人、その為に誰と何の契約をしたの?

私はただ私の私怨を果たすために行くだけ。そんな事のフォローをしなくていいのに。

これだからこの人に甘えてしまう。これだからこの人を嫌いになれない。ほんと、ずるい。


あんなに酷い目にあわされたのに、憎み切れない。

この人は多くを傷つけておきながら、救えるものは救いたがる。

本当に、在り方が矛盾しすぎている。


「私は私の好きな様にやる」


そういう事か。つまりあいつらと組んだんだ。大っ嫌いだろうに。

礼を言いたいけど、今はダメだ。それじゃこんな回りくどい言い方をしている意味がない。

この人はこういう人だ。世間の評判を体現して、自分を騙して、殺して、今の場所にいるんだ。

なら私の答えは決まってる。


「私はいつだって好きに生きてるよ~? 何言ってるのランちゃん~?」

「そうかよアホ女。あたしはもうすぐ出るからな」

「は~い」


そっか、ありがとうも言わせない気か。

じゃあせめて。


「いってきま~す」

「ああ」


挨拶ぐらいはしておこう。それで意味は通じる。

向こうにいる奴に聞かれたくないしね。



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「・・・きをつけて、な」


もうクレメアには聞こえないだろう距離になって呟く。

微かな呟きだから、クレメアでなくとも聞こえていないはずだ。

さて、私は私のしたい事をしよう。

あいつの考えに乗るのはしゃくだが乗ってやる。よ。


「これで良いな?」

「ああ、助かる」

「私は知らない、あいつが好きにやる事だ」

「ああ、そしてあんたは関わらない」


そう、関わらない。

これに限らず、この後も。暫くこことは関わりを絶つ。そう約束した。

単純明快に、私という爆弾を自分達の組織に関わらないようにさせた。

私はねじ込もうと思えばねじ込めちまうからな。

私狙いじゃないってのが解かった以上は、あいつにやらせるのが筋だ。

その為にも、その後の手は回させない。だから関わらない代わりに関わらせない。


とはいえ、釘はさしておこう。


「約束は守る相手にしか守らないぞ」

「知ってるよ。だから俺は生かされてるんだしな」


このクソロリコンはクレメアを守る役目を与えている。

その為に生かしてるようなもんだ。でなきゃとっくにストックにしてる。

物理的にやられる分にはしゃーねえ。それはあいつが生きてる世界だ。

けど、クレメアを狙う目はそれだけじゃねえ。だから作った。そこに介入できる駒を。


「私が飲んだ条件はお前にとっては地獄だと思うんだがな」

「そうだなぁ。正直勘弁してほしいな。が、これでも俺は俺の生き方に信念持ってんだよ」

「そうか、そうだな」


ただただ人を助く。無関係な人間へ降りかかる火の粉をその身を持って消していく。

そんな男に無茶をやらせているのは知っている。惚れた弱みに付け込んでいるのも。

コイツは言動も思考もふざけてやがるが、私に対する想いは本物だ。だから、使わせてもらう。

卑怯だな。でも私はこういう人間なんだよ。諦めてくれ。


「俺は、これから後は俺の仕事をする」

「ああ、解ってる。それでクレメアと鉢合うなら仕方ねえ」


そこまでは止められない。止めるわけにはいかない。

それがこいつの仕事なのだから。こいつの生き方なのだから。


「でも、マイエンジェルが抱きしめさしてくれるん―――」


金的の蹴り上げ具合がいい感じに決まった。

声も出ないようだ。


「具合が悪いなら寝ておいたらいいぞ。じゃあな」


ほんと、コイツは大嫌いだ。私を知って、私を見て、それでも近づいて来る。

大っきらいだ。とても・・・嫌いだ。




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おー、いて。きっついわー。

でも新しい何かに目覚めそう。かーわいいよなー。ほんと。


さて、俺は俺の仕事をしましょうか、と。

携帯端末を取り出し、相棒に連絡だ。


「よう、こっちは上手くいったぞ」

『おーけー、こっちもだ。後は関係者しかいねえよ。・・・なんか声震えてね?』


鋭いな、おい。

痛みに耐えながら喋らず、落ち着いてからかければ良かったか。


「気のせいだ。相変わらず手際が良いなー」

『元々はこっち側だからな、俺も』

「だから頼りにしてる」

『へ、後ろから撃たれない様にちゃんと心がけとくよ』


やんねえよ。

やるときはちゃんと正面から堂々と撃ってやる。


「後は俺がやる」

『おう、解った。課長へはこの話すんのか?』


あのオヤジへ話しても状況引っ繰り回すだけだろ。

つーか、あいつに何か解決できるわけねーじゃん。


「するわけねーじゃん」

『だよなー。ま、今まで通り、課長はお前に生かされてるって事は知らせない方向だな』

「おう、そういう事で、あんがとよ相棒」

『へ、言ってろ』


今はもう本当に相棒だと思ってんぜ。お前がこの仕事で尽力してる限りはな。

端末をプチッと切って、歩き出す。できるだけゆっくりが良い。

一番良いタイミングは、あれが死んでない状態ぐらいが良いな。

まあ、死んじゃったら死んじゃったでその時だ。もう話はついてる。


けど、それにそれより先に行く所がある。自分だけ関係無いふりはさせんよ。

危うくこの街が無くなるところだったんだ。ケツは拭かせる。

何よりもてめえは、俺のタブーを犯した。てめえはてめえのやっていい範囲を逸脱した。


色々引っ掻き回してくれたし、面倒をかけさせてくれたが終わりだ。

一番のミスはわざわざクレメアに接触した事だな。


今日で終わりだ。

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