認識の違い

「いっつつ」


くあー、まだいてえ。こりゃーしばらく腫れひかねーなぁ。

今までにない威力とスピードだった。全く見えんかったわ。さすがヒガサネって話なのかね。


「よう、その顔どうしたんだよ。いつも無傷のお前にしちゃ、珍しいじゃねえか」

「ああ、これか? マイエンジェルに抱きつこうとしたら思いっきり殴られてよ」


久々に見たヒガサネに抱きつこうとして、殴られた事を話す。

愛が重いぜ。


「そうか。おーい、だれかー。コイツの逮捕状用意してくれー。罪状は誘拐あたりでいいぞー」

「違うから! 子供に無理やり抱きついて殴られたとかじゃないから! それにそうだったらこんなに腫れないって!」


しまった、ヒガサネの名前を出さなかったせいで、酷い誤解を生んだ。

おいこら、なんで本当に用意しようとしてんだよあいつは。


「冗談だよ。で、誰にやられた?」


笑ってるけど目が笑ってない。

俺がやられるっていうのはそういう事なんだよなー、と今更ながら実感してしまう。

俺に怪我を負わせられるのは、この界隈じゃクレメアぐらいだ。

つまり、コイツはクレメアと揉めたと思ってるわけだ。


「ヒガサネ」


その名前を言うと、一瞬フロアの音が消えた。

すぐ皆動き始めたが、明らかに顔色が悪い。


「・・・きてんのか?」


その質問に、腫れた頬を指さす。


「まじかぁ・・・・勘弁してくれよ。頼むから今回は何事もなくどっかいってくれよ・・・」


嫌われてんなぁ。まあ当然か。

あれは歩く火薬庫だ。この街であれに好きで近づく変人は俺とクレメアぐらいだ。

それにその願いは叶わない。馬鹿が馬鹿な事企んでるのを掴んでしまっている。


「残念」

「げっ、お前、まさか」

「まさかだ」


付き合いの長いこいつならこの会話でわかる。

もう面倒事が起きる、と。


「ほいよ」

「ん、新聞? ・・・まじか、ちょっと勘弁してくれよ。本気でシャレになんねえぞ」

「そうだ、だから俺らが先に押さえる必要がある」


ヒガサネが絡む前にどうにかしたい。

もし絡んでしまえば、下手するとこの街全体が面倒事に巻き込まれる。


「動くか?」

「動くだろ、多分。馬鹿だし」

「馬鹿だもんなぁ・・・」


俺達は、ヒガサネにちょっかいをかけようとしている人物に頭を悩ます。

コイツはヒガサネがどれだけ危ない人間か認識出来ていない。そしてクレメアの危険性も。

いや、クレメアだけならまだいい。ヒガサネはダメだ。

あいつに手を出すのだけは絶対にダメだ。


「いっそ、俺が足止めをしに行くか」

「それは単にヒガサネに会いたいだけだろ、お前」

「ソンナコトナイヨ?」

「・・・お前な」


ナイナイ。シゴトシゴト。

ワタシ、シゴトダイスキ。


「おい! ヒガサネが来てるってのは本当か!」


奥からまだらハゲが怒鳴り込んでくる。

おせーよ。


「本当ですよ、課長」

「フン、ならばお前の仕事は解っているな!」

「へーへー」

「クッ、お前がヒガサネと接触でき、向こうもお前を避ける様な人間だからこそクビになってない事を忘れるな!」


そう言ってまた奥に戻っていくまだらハゲ。

うっせーよハゲ。育毛剤と脱毛剤入れ替えんぞ。


「ばっかじゃねーの。結局自分はヒガサネが怖いですーって明言してるだけじゃねーか」

「あっはっは、そりゃそうだ。あんな歩く危険物に誰が近づくかよ」


まあ、普通はそれが正解か。

斡旋所Aランク。

Aの証明証はタダの証明証じゃない。身分としては一国の主の扱いだ。


通常Aは個人には贈られない。Aは群衆に贈られるものだ。

そしてその代表が持ち、代表の名前が入る。

だがヒガサネは違う。あれは、あいつの証明証は個人に送られた物だ。

一個人が軍団扱いなんだよな、あいつの場合。

あいつの過去の戦歴が物語っている。個人で国を潰したやつだからな、あいつ。


でも俺にとっては、天使だ。

同僚の反応を見ればわかるかもしれないが、俺は子供が好きだ。性的な目で見ているレベルだ。

だがそれはまずいと、ずっと抑えていた。


だが出会ってしまった。彼女に出会ってしまったんだ。

俺より年上の幼女に。これは神がよこした天使だと思ったよ。

まあ実際の中身は悪魔っていうか、魔王だけどな。





「お二人さん、仕事だよ」


二人で今回どう動くか相談してると、先輩が書類を持って来た。


「殺し? つーか、これクレメアんとこの妹分? まじすか?」

「マジだ。ちなみにその前にも、とある家で大量殺人が起こってる」


それを聞いて真剣な目で聞く。


「一般人?」

「外の人間だがカタギじゃねーな」

「ならどうでも良いや」


一般人に手を出したんじゃなければ、潰し合いには興味ねーや。

せいぜい潰し合え。

それがクレメアの組織でも、俺は知ったこっちゃねえ。


「まあ、あいつらの小競り合いなら、俺も興味はなかったんだが」

「なんか気になるところあったんすか?」

「これ、全部クレメアからの情報だ。そしてお前さんに伝言だ」


ポイッと紙を渡される。

開くと奴の綺麗な字で、短く内容が書かれていた。


『今回の事に関わるな』


あ、これ、もう手遅れかも。

あいつもう、ある程度しっぽ掴んでやがる。


「やべえ、出遅れたぞこれ」

「どれどれ・・・うっわ、お前にこんなの送ってくるとか、相当頭きてんな」

「どうする?」

「クレメアだけが動くのを祈ろう。もしくはあの火薬庫が今は湿気ってる事を」

「ヒガサネのご機嫌しだいか。うわ~怖い」


都合のいい時の神頼みをしつつ、俺も相棒と出るのであった。

マイエンジェルに会って、どうにかしないといけないしね♪

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