裏社会の女

おせえな。フィアとクレメアのやつ、何やってんだ。もう夜中だぞ。

あいつら付けてるし、クレメアだし大丈夫たぁ思うが。


フィアに繋げる為に私との繋がりを完全に切っちまったのは、失敗だったかもしれねぇ。

一応残滓を辿って探す程度は出来るが、そこで何が起こったのかが解らないし、後手になるな。後で何か考えておくか。ヒナミはまた弱体化する!って怒りそうだが、まあ良いだろ。


考えを巡らせていると、がチャリと鍵が開く音がした。帰ってきたかな?


「遅かったな、フィア」

「え?」

「ん?」


帰ってきたのはクレメアだった。なんでクレメアが一人で帰ってくる?


「おい、フィアどうした」

「帰ってないの~? 先に帰って貰ったんだけど~」


フィア一人で帰らせようとしたのか。あの世間知らずを。コイツ一回しばいとくか?

いや、それは後にしてフィアだ。コイツがこう言うって事は、結構前に帰らせてるはずだ。

て事は何かあったか?


「・・・イコ! ちょっと出てくる!」


迂闊だった。

クレメアのバカがほって行く事もそうだが、ここがまだ治安がましな街だと油断してた。

それにあいつ、あたしと一緒に歩いてるとこ見られてんじゃねえか。

それが原因で狙われた可能性もある。

くっそ、クレメアに離れるなってきつく言っとくんだった。ヒナミのやつ上手くやってくれよ。


『いや、私も探そう、お前と別方向へ行く』

「頼む!」

「わ、私もいく~」

「当たり前だ!」

「ラン様、私はどうすればよろしいでしょう」

「お前はイコと一緒に行け!」

「分かりました。イコ様、よろしくお願いします」


急いで外に出る。

フィアが帰ってこない理由が杞憂ならいい。

だがもし予想が当たってるなら、メンドくせえ事になる可能性がある。

そこでふと、もう一つの可能性に気がついた。


「クレメア」

「ち、違う! 私は今回何も知らない! 本当! な、なんなら記憶覗いても良いよ!」

「チッ、それなら簡単だったんだがな」

「やめてよ~、ランちゃん敵に回すとか絶対したくないよ~」


クレメアの焦りから察するに本当の様だ。

コイツは以前私を囮にした前科がある。

その時殺す一歩手前まで痛めつけた。それ以来の関係だ。

こんなつまらない嘘は言わないだろう。


「クー、何か知らねえのか」

「ん~ランちゃんに恨みを持ってる人達は複数人いるけど、それでも手を出せばどうなるかは解ってるはずなんだけどな~。街の外の人間の可能性が高いんじゃないかなぁ~。この街の人間なら、ランちゃんと私に手を出す事がどういう意味なのか解ってるはずだしね~。

それでも手を出してくる馬鹿はたまに居るけどね。そういうのは邪魔だから殺すけど」


コイツはこんなんでも、この辺りの裏社会の頭。ここの連中はコイツが纏めてる。

この街の地下の人間たちはコイツに逆らう事の意味を知っている。

コイツは普段こそただの男グセの悪い女だが。裏の顔は容赦を知らない。


「ランちゃん~あそこに座り込んでるの、フィアちゃんじゃない~?」

「どこだ!」

「あそこ~」


指差している方向を見ると、フィアが座り込んでいた。

左腕が無い。てことはヒナミが上手い事やったか。後で礼言っとかねえとな。


「フィアちゃん~?」

「クレ、メ、ア、さん?」


クレメアがフィアに声をかける。

だがフィアは呼吸がままならず、まともに喋れてない。これはずっと走ってたのか?


「どしたの~? 大丈夫~?」


見るからに大丈夫じゃねえだろ、と思いはしたが定型文だよな、こういうの。

私なら思わず、大丈夫に見えるか? って返すけど。


「クレ、メアさん、ランさんを、呼んで来てください、ヒナミさんが、危ない、って」


整わない呼吸で私を呼ぶ。この子はこの状況でも人の心配優先か。


「私がどうした」


私が居る事に気がついていないフィアに声をかける。


「ランさん、ヒナミ、さんが、私、助け、くれ、て」

「解った。もう喋んな。クー、ついていてやってくれ」


予想通り、ヒナミがどうにかしたか。

けど、ヒナミが逃がすしかできなかった相手ってなると、めんどくせえな。

とりあえずヒナミは・・・こっちだな。

フィアとの繋がりを伝って、そちらに歩いていく。この先にいるはずだ。


別に焦る必要はない。ヒナミがもしやられても、それは仮りそめのカラダが壊れるだけだ。

あいつ程の化物の魂を壊そうとするなら、それ相応の力が要る。

だからこそ、あいつは討伐じゃなく封印されたんだ。

その魂の力の強さが肉体の滅びを拒否してしまうから。


でも怒ってんだろうなー。

性能を発揮出来ない様な詰め方をするからですわ! と言ってくるのが目に浮かぶ

実際あいつぐらいの化物じゃねえと、腕だけから顕現なんて不可能だからなぁ。

今度どっかで腕の中に、あいつの見た目にした人形でも埋め込んどくか。

うん、それなら3~4割は性能出せるだろ。


考えながら歩いていると、ヒナミの魂がフィアの所に戻ろうと通り過ぎていくのが見えた。

フィアに繋げていたから、寄り代がぶっ壊されて繋がりの大本に戻ったか。

まじか、あいつ負けやがった。

いくら性能低いって言っても、普通の人間じゃ話にならねーはずだぞ。


少し驚いて立ち止まっていると、血まみれのナイフを持った女が現れた。

顔に布を巻いていたが、素性はすぐ判った。こいつ、クレメアの部下だ。昔見た事ある。


「お前、クレメアんとこのろ奴だろ、なんでフィア攫った」

「それは違います、私は貴女のお連れ様を助けに行こうとしただけです。ちょっとしたすれ違いで怖がらせてしまった様です。申し訳ございません」

「へぇ、自分が一人壊しておきながらかい?」

「チッ」


おー、おー、この程度で隠しもしねえか。

しっかし、クレメアのヤロウ、何が外の人間の犯行だ。てめえの下じゃねえか。

手綱はちゃんと握っとけっつの。


「フィア攫ったんは、てめえの指図か?」

「知らないな。知っていたとしてもクレメア様を侮辱する貴様に言う事などない。それにここで貴様は死ぬ」


あ? 何言ってんだこいつ。

いや、あいつの立場を考えればこういうバカも出てくる可能性はあるか。


「それで? フィア殺して、私への腹いせをってか? バカにすんじゃねーぞ」

「そうか? 貴様は子供に甘い事は知っている。それなりにダメージはあるだろう。それにもう、一人は壊したぞ」

「残念、あいつは早々死にゃしねーよ。それに私が言ってるのは、クレメアを馬鹿にすんなつってんだよ」

「何を・・・!」

「てめえは私のツレの部下でありながら、私のツレの顔に泥を塗るクズだ!」

「貴様が! 貴様がクレメア様の事で知った様な口をきくな!」


女は激昂と共に踏み込んで右手のナイフを振りかぶり、私の首を跳ねようとする。

それを既に握っていたスライドオートマチックをぶつけて弾く。

ほぼ同時に左手のナイフも首に迫るが、ナイフの進行方向に付いていく様に体を回転させ、奴の顔面に浴びせ蹴りを入れ様とするが、軽くスウェーで避けられて、右手のナイフが再度迫る。


そのナイフに向けて銃を放つと銃弾はナイフに当たり、弾かれて後ろに飛んで行った。

女は大きくバックステップをして、私を視界に入れたままナイフを拾いに行く。

そこに向けて撃とうとした瞬間、もう片方のナイフが私の顔面に迫る。投げやがった。

ギリギリで、なんとか顔を逸らして避けながら銃を撃ち、その銃弾は女の脇腹を貫き――――。


「成程、あいつに勝てた理由はそれか」


銃弾は、脇腹の手前で止められていた。何か良く解らない黒いもやによって。


「ユルサナイ、クレメア様ヲ侮辱スル者モ、クレメア様ニ近ヅク者モ皆コロス」


女を覆っている物はあのヘタレによく似てるが、また違うものだ。

物理的に干渉してはいるが、あれは実体を持ってない。これはコイツだけの意志じゃないな。

多分コイツが私を面白くないと思ってたのは間違いないんだろう。

そこにどっかの化物がつけ込んだか。


どちらにせよ、このバカはあたしに喧嘩を売った上にクレメアの顔に泥を塗った。ここで殺す。

近づけば終わりなんだ、とっとと終わらせるか。

そう思っていると、目の前にナイフが現れ私の視界を塞いだ。全く気がつかなかった。


「・・・そういう止め方すんの止めろ。こええだろ」

「あら~、ランちゃんにも怖いって感情があったのね~?」


ナイフの持ち主はクレメアだ。両手にでかいナイフを握っている。あの女と同じ物だ。

女はクレメアが現れた事に戸惑って、狼狽えている。

何よりクレメアがそのナイフを持っている事に。

そのせいか、少し正気に戻っている様に見える。


「最近忘れてたけどな」

「忘れる様な物じゃないと思うけどなぁ~」

「フィアはどうした?」

「エルちゃんとイコちゃんに任せてきたわ~」

「そうか、なら安心か」

「あら、エルちゃんの事信用してるのね~」


戦闘能力だけなら、あいつは今この街で一番強いからな。

人間じゃまず話にならないだろう。


「で、どうすんだ?」

「代わって貰える~?」

「・・・好きにしな」

「・・・ありがとね」


クレメアはいつもの笑顔を消し、女に向かって歩いていく。

女を、自分の部下を殺すために。


「ク、クレメア様、な、何で!」

「私は言ったはずよ。火重 蘭には絶対に手を出すな、と」

「そ、それは」

「シェナ、残念だわ・・・本当に」

「クレメア様!」


一閃。綺麗な剣筋だった。その一閃で女の首は刎ねられた。

女はクレメアの粛清によほど絶望を感じたのだろう。動く事なく、簡単に切られた。


「ランちゃん、帰ろう~」


くるっとふりむいて、いつもの笑顔で言うクレメア。

その心中は察せない。見る気もない。


「・・・おう」


クレメアの言葉に素直に従い、ついて帰る。

だが、どうにも腑に落ちなかった。

あれは間違いなく、化物の類が関わってる。

あたし狙いか、クレメアかどっちだ。


コイツの魂には化物が接触した記憶がない。

けど、あの力を手に入れた経緯の部分の記憶もない様だ。記憶自体が消されてる?

解んねえな、判んねえが、長居する気はなかったが少し留まらなきゃなんねえ。

このバカにこんな顔をさせたんだ。お返しはしてやる。


殺す。絶対に殺す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます