消えた少女

カツンカツンと階段を上がっていくヒナミさん。

私はそれを追いながら死体になった二人を見る。

何の感情も浮かんでこない。目の前であんなにあさっり人が死んだのに、何も思えない。

その片方で、この子をどうにか助けたいと思う私がいる。

この子への同情なのか、自分を重ねているのか。


自分の感情の波が自分でもよく解らない感じになってる。

あの地下であんな目に遭う前は、まだ普通に感情は働いていたはずだ。

あの地下で、指を、手を、腕を、両腕をゆっくりと刻まれたあの出来事から、何か自分の中で壊れたのかもしれない。


でも、誰かを助けたいって気持ちは、持ててる。

むしろそれが異常なのかもしれないけど、とりあえず人間らしい思考だと思いたい。

私は、あの人達の様にはなりたくないから。

そう思い、右手に力を込めてメルちゃんを抱きしめる。

ふと上を見ると、扉の前でヒナミさんが顔を険しくして立っていた。


「ヒナミさん、どうしたんですか?」

「・・・これは、まずいわね。ゴミしかいないと思っていたのですけど」

「何か、あったんですか?」

「扉の向こうで戦闘が行われていますわ」

「え、何も聞こえないんですけど」

「2重扉ですわね。防音がしっかりしていて普通の人間には聞こえませんわ」


つまりヒナミさんには聞こえていると。

でも何がまずいんだろう。先程の話だと、この人ならなんにも問題無い様に感じるんだけど。


「これは、勝てないですわ」

「え!?」

「ランのやつ、もうちょっと何か仕掛けでもしておけばいいでしょうに・・・!」


悔しそうな顔をして扉を睨むヒナミさん。

そんなにまずい相手なんだろうか。

私には、どうやっても判別はつかない。


「フィア、あと一人倒れたら部屋の戦闘は終了します。それに合わせて私は奴に突っ込みますので、その隙にお逃げなさい。全く、十全であれば歯牙にもかけずに終わらせられますのに」


お逃げなさい、と言われても、それはそれで困る。


「スミマセン、現在地も、どの方向に逃げたら良いのかも解らないんです」

「大丈夫ですわ。表に出て、とりあえず走ってお逃げなさい」


とりあえず、と言われてもなぁ。

物凄い行き当たりばったり感がする。でも現状それしかないのか。


「分かりました」

「ええ、では行きましょうか」


彼女はは私の言葉にうなずくと、扉を開ける。

扉の向こうには、彼女の言う通りもう一つ扉があった。

彼女はもう一つのドアは蹴破り、そのまま突進していった。

蹴り飛ばしたドア越しに拳を突き入れる。

ガアンと凄い音がした。どうやら向こうも受け止めた様だ。


「さあ、行きなさい!」


彼女の言葉を聞いて、私は部屋に入り、一瞬周囲を見回す。

部屋の中は血の海で、そこかしこに人間だった物がバラバラになって転がっていた。

私はそれを無視し出口を探す。良かった、出口はすぐそこだ。


「ヒナミさん! ありがとうございます!」


出口に走る。

ヒナミさんの方を見た時に、チラリと見えた相手のシルエットは女性だった。

両手にかなり大きいナイフを持っている。

顔は、何かを巻いていてよく見えなかったし、見てる余裕もなかった。


私は外に出て、ヒナミさんに言われた通りにとにかく走った。

少しでも遠く、少しでも早く安全な所に。


「んー? お姉ちゃんどうしたのー?」


抱えて走っていたので、メルちゃんが揺れで目を覚ました様だ。


「はっはっ、メル、ちゃん、ちょっと、まってね!」


いま足を止めるわけには行かない。後ろではまだ、凄い音がしている。

ヒナミさんの行動を無駄にしない為にも、せめて戦闘音が聞こえない所まで離れなければ。


必死になって暫く走ると、見覚えのある通りに出た。ここは、あの時の大通りだ。

まさかこんなに近い所だったとは。


「はっ、はっ、げほっけほっ・・・はあ、はあ、はあ・・・」


酸素が足りない、足がガクガクする。

すぐ傍の家に背中を預けてズルズルと座り込む。

今まで閉じ込められて、身動きを取れず、筋力の無い自分にしてはよく頑張ったと思う。


「お姉ちゃん! 大丈夫!? 苦しいの!?」


メルちゃんが心配そうに聞いてくる。

駄目だ、安心させなきゃ。


「はあ、はあ、だい、じょうぶ、少し、休まし、て」


正直全く大丈夫ではないが、この子に心配さたくない。


「うん、解った、お姉ちゃん、メル自分で歩くの」


そう言って、メルちゃんは私の腕から離れる。


「わ、かった、けど、離れちゃ、だめ、だよ」


息が整わない。いつまでもここにいられないのに。

ヒナミさんは大丈夫だろうか。

そう悩んでると、気の抜けた聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「フィアちゃん~?」

「クレ、メ、ア、さん?」

「どしたの~? 大丈夫~?」


良かった、まだ帰ってなかったんだ。

この人にランさんを呼んできて貰おう。


「クレ、メアさん、ランさんを、呼んで来て下さい、ヒナミさんが、危ない、って」


整わない呼吸でなんとか伝える。

お願い、早くランさんを―――。


「私がどうした」


クレメアさんの後ろから、ランさんが現れた。

クレメアさんと一緒にいたんだ。もしかしたら私を探しに来てたのかもしれない。


「ランさん、ヒナミ、さんが、私、助け、くれ、て」

「解った。もう喋んな。クレメア、ついていてやってくれ」


そう言ってランさんは迷いなく、私が走ってきた方を見て、そっちに歩いて行った。

良かった、メルちゃんもこれで大丈夫かな。

あれ? メルちゃんが居ない!


「クレ、メアさん、メルちゃ、ん、小さい、女の、こ、どこ、行きまし、た?」

「え、女の子~?」


心底不思議そうなクレメアさん。

彼女の反応が理解できないでいると、彼女は不思議そうに口を開いた。


「私がフィアちゃん見つけた時は、フィアちゃん一人だけだったわよ~?」


そしてそんな、ありえない返事が返ってきた。

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