その少女、鬼

とりあえず現状を再確認しよう。


まず、私は縛られてないし、メルちゃんも縛られていない。

部屋は窓なく、扉のみ。静かなので地下か、街から離れた所。


でも、見張りの気配が扉の向こうからしない。

てことは、ここは見張る必要が無い。

地下の可能性が高い、かな。


あ、そうだ、メルちゃんが何かされてないか確認しとこう。

うん、大丈夫そうだ。私も多分何もされてないと思う。


さて、ランさんを待つしか正直手はない気がするんだけど、やれる事はやっておこう。

絶対鍵がかかってると思うけど、ドアノブを回してみる。

するとドアノブが、メギっと音を立てて捻じれ取れた。


・・・え、ねじれ取れた?

軽く回しただけなのに

手の中のドアノブを見ると錆びてる感じはしない。綺麗だ。弱いドアノブだった?

いや、私みたいな非力な女の手で壊れてたら、何回も変えなきゃいけない。


となると原因は、この腕かな?

それ以外思いつかない。やっぱりランさんにちゃんと聞いておくんだった。

でもこれは、使えるかもしれない。

私はさっきドアノブを回した手と同じ、左手でドアを軽く押してみる。


バギャン、と結構な音を立てて、鍵が壊れて扉が開いた。

というか、扉もちょっと壊れた。これ、力加減が解らなくて危ないな。

でもここまでの道中、力加減に困った覚えがないから、普段は大丈夫なのかな?


メルちゃんを右腕で抱えて、そ~っと外に出る。

左右を見ると、右手に階段、左手に扉がある。


さっきの結構な音がしたから誰か来ると思ったんだけど、来ないな。

とりあえず、階段は後回しにして、扉を調べる。

耳をつけて音を聞く限り、向こう側に誰か居る感じはしない。

防音が良いだけならアウトだけど。


ドアノブを回して開いてみる。鍵はかかってない。

あ、ドアノブ問題なく回せてる。やっぱり、普段は大丈夫なのか。

ドアを開けると、中は物置の様だった。はい、地下確定。

ちょっと埃っぽいけど、使ってないわけじゃない様だ。

これは危険でも階段を行くしか――――。


「めんどくせえなぁ」

「しゃあねえだろ、負けたんだから。様子見に行くだけでさっきの負け無しってんだからいーじゃねーか」

「まあ、そりゃそうか」

「つってもそれ以外の負けもこんでんけどな」

「言うなよ」


そんな会話をしながら、カツンカツンと階段を下りてくる足音が聞こえる。

思わず反射的に物置の中に入り、扉をそっとしめて近くにあった布をかぶって奥に行く。


いや、何してるの私。隠れても無意味でしょ。

扉壊れて、上に人がいて、上に来なかった。

なら絶対こっちを探しに来る。


どうする? どうしたら良い? せめてメルちゃんを助けてあげたい。

メルちゃんはまだ寝ている。寝ていて良かったのかもしれない。

こんな幼い子にこの状況は、きっと恐怖でしかないだろう。

そういえば私、緊張はしてるけど怖いって感じない。

あんな事があって、ちょっと恐怖の基準が狂ってるのかもしれない。


最悪私が体差し出してメルちゃん助けられないかな?

いや、無理か。

それならもう私が無事である筈がないし、メルちゃんが攫われるわけがない。

どうしよう、何も手がない。


手・・・いや、あった。

この腕。この腕ならもしかしたら。


「おい、扉ぶっ壊れてんぞ」

「まじかよ、どうやったんだあの小娘」

「あんなナリで武道の達人とか?」

「ないだろ」


笑いながら物置のドアを開ける音がする。

そうよね、絶対こっち来るよね。


「さーて、どこかなー? 居ないなー?」

「逃げたのかね~」


物凄く棒読みで言葉を発しながら、男たちは物置を探っていく。

完全にここに居ると確信している。

やるしか、ない。私は別に戦えるわけじゃないし、体力もない。

だから、せめて片方は不意打ちして脅かさないと。

その後は口から出まかせでどうにか出来たら良いなぁ。


ばさっと被っていた布が取られた、それと同時に左手を突き出し男に当てる。

すると男は吹き飛び、後ろの壁に派手に叩きつけられた。

手は胸に当たった上に背中を強打したので、息が出来ていない様だ。

コヒューコヒューと、呼吸にならない呼吸をしながら苦しんでる。


昔似たような経験があるから解る。ああなるとなかなか復帰出来ない。

それをみて、もう一人の男がナイフを取り出した。

しまった、そうだよね、素手とは限らないよね。あまりに考えなしすぎたかな。


「てめえ、何をしやがった!」


そんなの私が知りたい。どうなってるのこの左腕。

私が無言で左腕を突き出し立っているのを警戒しているのか、男も動かない。

その方が助かる。私は別に体術が出来るわけでも、運動神経が良いわけでもない。

むしろ長いことあんな所に居たので、筋力も体力も落ちてる。

私の倍近くある男性に、それもナイフ持ち。勝てる気がしない。


でも、守らなきゃ。

あんな小さい子に、私みたいな思いはさせたくない。

あんな悲惨な生活、させたくない。

その思いを込めて、男を睨む。


「見逃してくれるなら、何もしませんよ」

「クッ、ガキが! なめんな!」


あ、失敗した。余計な事を言った。

私の言葉に激昂し、男はとびかかって来た。

しかたなく私はその左手を、ナイフに向け――――。


「舐めてるのは、どっちかしら?」


透き通る声が響くと、私より少し背の高い少女がいつの間にか私達の間に割って入っていた。

ナイフは少女の手によって止められている。

男は抵抗しているが、ナイフはびくともしない。


「お、お前、どこから! 一体何もんだ!」

「うるさい」


少女は短く言葉を口にすると、男の首をゴキリと、もう片方の手で容易く折った。

そのまま、まだ動けないもう一人の男の首も足でへし折った。

一切の容赦も躊躇もなく、そして何の苦もなく簡単に。


「ふう、静かになりましたわ」


少女はそう言って、髪をかきあげる。

内に巻いた感じのくせっ毛な短めの白髪と、どう見てもさっきのような怪力に見えない細い腕。

彼女は一体どこから―――。


・・・うん、気がついた。

左腕が無い。つまり彼女が、ランさんの入れた人。

多分、エルフリーデさんと同じで、人間じゃない。

あ、助けてくれたお礼言っとかなきゃ。


「助けてくれて、ありがとうございます」

「ああ、気にしないで下さいな。あなたを守るっていうのがランに言われた事ですから。」


やっぱり、そうなのか。でも、なんで今なんだろう。

出来たら攫われる前に助けてほしかった。


「あの、失礼かも知れないですけど、ちょっと良いですか?」

「ええ、良いわよ」

「攫われた時じゃダメだったんですか?」

「命の危険がある場合のみ、出てこれるみたいですわね」

「ああ、成程、さっきのはそう判断されたんですね」

「みたいですわね。出てこれない間は、少し力を貸す程度でやきもきしましたわ」

「あ、やっぱりそうだったんですね。ありがとうございます」


改めてもう一回お礼を言っておく。

ドアノブはやっぱり、私の力じゃ無かった。


「とはいえ、ランに言っておかなければ。あの薬品が致死性なら終わってましたわ」

「そう、ですね」


確かにあの薬で死んでいたら、命の危険を感じる暇も無かった。


「さて、上のゴミどもを掃除して、帰りましょうか」

「だ、大丈夫ですか?」

「さっきのを見たでしょう。タダの刃物で私に傷なんて付けられませんし、人間の体なんて柔いものですわ」


そういえば片手で首折ってたっけ。

そんな事が出来そうな手には見えないのに。

小さくて可愛い、綺麗な手に見える。


「流石に、マネキンの手なんかに入れられたせいで、本来の1割も性能を出せませんけど、ゴミ相手なら問題ないでしょう」


この人、とんでもない人っぽい。

ランさんの関係者って感じが、すっごくする。


「す、凄いんですね」

「ええ! 私は鬼の一族の最後の生き残りですもの!」


鬼なのかぁ。

ん、生き残り?


「あれ? 生きてるんですか?」

「ええ、体は身動きがとれないので、魂だけランについて行ってるんですわ」


話を聞くと、彼女の名前は比口妃波ひぐち ひなみ

とある国で大虐殺を起こし、国は総力を挙げて彼女を封印。

動けずに困っていた所を、ランさんが魂だけ引っこ抜いて、人形に入れて開放。

鬼の再来に対処できる人間がもうその時いなかったため、軍と国の要人はほぼ殺害。

あわせて隣国が攻めてきた為国は滅亡。


「あの時は爽快でしたわ~」


そう言って、恍惚な表情を見せるヒナミさん。

ランさんがこの人をほって置くというか、手元に置いているのは何でなんだろう。

話を聞いた限りでは、放置するとは思えないんだけど。


エルさんみたいに理由があるのかな。

だいそれた事をした割に、私の身をちゃんと案じてくれるし、そこまで悪い人に見えない。

ランさんから言われたからってのも、あるのかもしれないけど。


「さて、行きますわよ」

「あ、ちょっと待って下さい」


私はなんとか右腕でメルちゃんを抱える。

彼女を置いて行くわけにはいかない。


「すみません、お待たせしました」

「ええ、行きましょうか」

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