さらわれた少女たち

「つぅっかれた・・・」

「あはは~、おつかれ~」


ランさんのお金を引き出すのにこの町の自治機関へやってきた私は、朝から来た筈なのに、何度も何度も部署をたらい回しにされ、お金を受け取れる段になった時にはもう夕方になっていた。

くたくたです。


「なんでランさんのお金受け取るだけでこんなにかかるんですか・・・」

「えっとね~、ランちゃんのお金って、とある国の王様が管理しててね?」

「へ? 何で王様がランさんのお金預かってるんですか?」

「ね~、普通意味が解らないよね~」


そう言ってクスクス笑うクレメアさん。

私はただ困惑の顔を向けるしか出来ない。


「昔からの知り合いらしくて、信用出来る人の一人らしいよ~。私は会った事無いけど~」

「はあ、王様と知り合いですか」


ランさんってもしかして、どこかの国の貴族とかだったんだろうか。

それなら王様と知り合いっていうのも、納得ができる。


「それで王様が管理してると何でこうなるんですか?」

「その国っていうのが、ちょっと他国からは怖がられてる国でね~。間違いがないか、本当に本人か、認められた本人の代理か、色々向こうの国に確認しながらやらないと駄目みたいね~」


間違えたらどうなるんだろう。私そういう事は解らないな。

最初に売られたのは自意識なんて希薄な頃だし、そこから更に他の所に買われたと思ったら最後はあんな地下だったし。そうだ、そのうち世界の歴史とか常識とかちょっと勉強しよう。

文字だけは、少し知ってるし。


・・・そういえばここ、私の知ってる文字の国なんだろうか。

時間があるとき調べておこう。


「やっとちゃんと了承が取れた、という事ですか?」

「そうね~。久々にやったけど、本当に面倒ね~」


そもそもランさん、何でそんな面倒をしてるんだろう。

もっと気楽に扱えるようにしておけばいいのに。


「ランさん、なんで近くに預けないんでしょうか?」

「それにはちょっとトラウマがあるのよ~」


トラウマ?

ランさんには似合わない言葉に聞こえる。


「昔は下ろしやすい様に、銀行に預けてたんだけどね~。とある国が戦争になって、その銀行の社長と重役が、逃げる際にランちゃんのお金根こそぎ持っていってね~」


そんな事、あるのか。

いや、あったんだ。凄い話だ。


「その際に逃げた国がランちゃんが昔はっちゃけちゃった国で、凄く敵視されててね~、その人達を匿うわ、お金は帰ってこないわ。銀行そのものが潰れて何もどうしようもなくなるわで、モノすっごい荒れてたのよね~」

「それで信用出来る人の所に、ですか」

「そうそう~、あの国ならどうやっても誰も取れないし、びくともしない国だからね~」


そんなにすごい大国なんだ。

ランさんの生まれ故郷がそこなんだろうか。


「そういえばさっきその国の名前言ったのに、無反応だったねぇ。王様が預かってるってのは言わなくても良いけど、国の名前は言わないといけないから、驚くと思ったんだけどな~?」

「スミマセン、私ちょっと世間知らずで」

「ううん、良いのよ~。そっか~、そもそも知らなかったか~」


なんだろう、そんなに大きい国なんだろうか。

私は必要に迫られて文字程度は覚えたけど、世間の情勢や国名を知る様な機会は無かった。

だから、どんな有名国でも私には解らない。


「その国は、なんと亜人の国でーす。魔物の国、何ていう人もいるわねぇ。王様を魔王なんていう国もあるわ~」

「魔王ですか。そんなに怖い事をした国なんですか?」

「ん~ん~、基本的にあの国は撃退はしても、侵略はしないわ~。少なくともここ200年は無いわねぇ~」

「じゃあ、なんで魔王なんて」

「人間っていうのは、自分と違うものを排除したがる人が多いからね~。あの国は、単一の戦闘能力が高すぎて、普通の人間が武装してても、向こうの人達の非武装といい勝負できれば御の字って国だからね~」

「つまり、化物って言いたいんですね、世間は」

「でも私はあの国がもし本気だったら、もうとっくに世界は掌握されてると思うのよね~」


それを考えれば、平和な国なのかな。ちょっと行ってみたい。

私は別に人間じゃないものに偏見はない。

人と違う姿の人には、過去世話になった事がある。

きっとああいう人達が沢山いる国なんだろう。


「さて、帰ろっか。ちょっと寄り道して帰るといいわよ~。ランちゃんには許可もらってるし、これお駄賃ね~」


クレメアさんはそう言って、私に紙幣を渡す。

ありがたいんだけど、価値が解らないから下手に使えない。


「この街は比較的平和な街だから、変な路地にさえ入らなきゃ大丈夫よ~。だから大通りをなるべく通る様にねー?」


言うだけ言うと去って行こうとしたので、引き止めて紙幣の価値や、どれぐらいが当たり前の値段なのか聞いておく。

私の様子がよっぽど慌てて見えたのか、クレメアさんはくすくす笑っていた。


クレメアさんはやる事が他にもあるそうで、家まで一人でお願いと言われた。

私はお金を貰ったものの、直接ランさんに言われたわけではないので使うのを躊躇してしまい、まっすぐ帰ろうとする。

すると、帰りの途中の路地から女の子が飛び出てきた。


「わっと」


女の子は私に思いっきりぶつかって、こけてしまった。

うう、お腹が痛い。女の子の頭がお腹の位置だった。


「うう・・・だ、大丈夫?」


お腹をさすりながら女の子に声をかける。

すると女の子はばっと立ち上がり、こちらを見つめて来る。

どうやら大きな怪我は無さそうだ。


「うん、大丈夫! お姉ちゃん!」


様子を見ていると、女の子はとても嬉しそうに抱き付いてきた。

お姉ちゃん?


「え、えっと?」


女の子の行動がよく分からず狼狽える。

だが女の子は気にせず抱き付く力を込めてゆく。


「メル、探したのよ! お姉ちゃん!」


メルちゃん、かな?

探してたって、私に似ているお姉ちゃんを探しているんだろうか。

姉を探してたと言うけど、私に似てるなら彼女とはこれっぽっちも似てない姉妹だ。


この子は綺麗な金髪だ。肌も白いし、目も青くて綺麗だ。

私は黒髪に黒い肌、そして黒い目。

どう見ても姉妹には見えないと思うんだけどな。


「え、と、メルちゃん? 多分人違いだと思うよ?」


女の子に伝えると、キョトンとした後、泣きそうな顔になった。


「お姉ちゃん、何でそんな事言うの? メルの事嫌いになったの?」


どうしてそうなるの。いや、この子にとっては、私は本当のお姉ちゃんなのか。

困った。どうしよう。とりあえずランさんの所に連れて行って相談してみる?


いや、迷惑はかけたくない。やめておこう。

多分この街の子供だろうし、本人に聞けば家は解かるだろう。

この子を送って行くのを、私の寄り道にしよう。

しまった、黙って考え込んでたら、今にも泣きそう。


「メルちゃん、自分のおうちの場所分かる?」

「うん、解るよ! 何だ、お姉ちゃん帰り道解らなくなっちゃったの?」

「えーあー、うん、そうだね」


とりあえず話を合わせる。

この子、この身なりからすると裕福そうだし、別に捨てられたわけじゃない事を祈ろう。


「帰ろう、お姉ちゃん」

「うん、行こう、か」


お姉ちゃんか。

何かむず痒いな。


「こっちなのよ!」


女の子は私の手を引いて、いかにも怪しげな路地に入って行く。

この子は何時もこういう所を通っているのだろうか。

変な路地に入らない様にって言われてたんだけど、この子が通ってる様な所なら大丈夫か。








そう考えたのが甘かった。

メルちゃんに被さる男が見えた時にはもう遅かった。

私も何か薬品でも使われたのか、意識を保てず倒れてしまった。


今はどこかの部屋に入れられている。

明かりは一応あるので、あの時の地下よりはましか。

メルちゃんより先に起きれて良かった。私が先に起きてなかったら、この子は怖がっただろう。


出入り口はドア一つ。

物音一つしないところを見ると、地下なのか、それともよっぽど辺鄙な所にあるのか。

窓が無いのでどちらなのかは判らない。


ランさんが帰ってこない私に不信を持って、探しに来てくれるのを待つしかない、かな。

私一人ならまだ良いけど、メルちゃんをどうにか助けてあげたい。

ランさんに迷惑をかけない様にと思った行動で、迷惑をかける結果になってしまったな・・・。

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