拠点の管理者

カチ。


・・・カチカチ。


・・・・カチカチカチカチカチ!


カカカカカカカカカカカ! ガカン!


蹴った。

ランさんが荒れています。

ランさんがこの街で使っているという家の前に来たけど、呼び鈴を押しても誰も出てこない。

鍵とか持ってないのかな?


「くっそ、何やってんだあいつ。家の中に居んのは間違いねーのに」

『・・・・どうせ何時もの事だと思うがな』


ランさんは荒れてるけど、イコさんは何となく理由が解ってる感じ。

そういえば、何でお二方は人が居るのが分かるのだろう。

この家、家の中の呼び鈴の音も、外には聞こえない様なんだけど。


「・・・撃つか」

『やめんか馬鹿者』

「じゃあどうすんだよ」

『しばし待て。お前は待つという事を覚えよ』

「メンドイ」

『こやつ・・・』


ランさんはとても短気。でもやりたい事になるととても気長。

そんなイメージを受ける。

そんなやりとりをお二人がしていると、ドアが開いた。


「はぁ~い、どなた~?」

「どなたじゃねえ! とっとと出て来い!」

「あ~、ランちゃ~ん」

『・・・やはり、か』


家から出てきた人物を見て、イコさんが溜息を吐く。

どうしたんだろうか。


出てきた人は女性だった。

男ウケしそうな温和な感じで、何より胸が大きい。

私も大きくなったらああなれるのかな?


親の顔とか体型とか覚えてないから期待しないでおこう。

ところでこの人は何で裸なのだろうか。


「もうちょっとでイケたのに~」

「・・・お前、また男連れ込みやがって」

「連れ込んでないよ~? 向こうが付いて来ただけだよ~?」

「屁理屈こねんな! どうせその無駄にでけえ胸で誘ったんだろうが!」


そう言って胸を鷲掴みにするランさん。

無駄なのか。でも誘惑出来てる時点で無駄じゃない気がする。


「どうしたんだいクレメア?」

「あ~御免ね~? 家主が帰って来たから今日は帰って~?」

「家主? げっ、わ、解かった。帰るよ」


後ろから出てきた男の人も裸だった。

ああ、そういう事か。それで出てくるの遅かったのか。

ん、エルフリーデさんが何やら顔が赤い。

・・・私はこういう感情おいてきちゃったな。


しかし、さっきの「げっ」て何だろう。

ランさんこの街でも何かやったのだろうか。


男性は下だけ履いて服を抱え、逃げる様に出て行った。

それをエルフリーデさんは少しうつむき気味で見送る。

私は正直男性の裸なんて見慣れてしまったので、何て事はない。


なんだろう、ランさんがなにか悲しそうな目で私を見ている。

どうしたんだろう、私何かしましたか?


向けられた視線に焦っていると、ランさんは女性に、クレメアさんに向き直った。

何だろう、ランさんは時々私さっきの様な目を向けてくる。

すごく、悲しそうな目を。


もしかして、言ってない事も知ってるのかな。

もしくは、気がついてるのか。でもどうやって?

あんな非常識な事が出来る人だし、何か手段があるのかもしれない。

気にしないで欲しい。私はこうやって生きているだけでありがたいんだから。


私達はクレメアさんに促されて家に入る。ランさんはそんなの無視で入って行ったけど。

外側からは周りと似た様な少し古目の家に見えたけど、中はかなり良い物だった。

掃除も行き届いている。

クレメアさんは男グセが悪いだけで、管理人としては良い仕事をしている様だ。


「それで~ランちゃん~、この二人は~?」

「片方は拾った。片方は付いてきた」

「わ~、いつも通りわけわかんない~」


いつも通りなのか。

何だかこの人も、ちょっと変な人だ。


「エルフリーデと申します。ラン様の従者をさせて頂いています」

「フィ、フィア・アンカシスです」


エルさんの自己紹介に便乗する。

とっさで詰まったのは見逃して下さい。


「よろしくね~。クレメア・ブレーグルで~す」


クレメアさんも自己紹介してくれる。

手を挙げながら名前を言うその姿は、なにか小さい子の行動に見える。

ところでいつまで裸なのだろう。揺れる胸が大迫力だ。


「金落としたんで、幾らかとってきてくんねーか」

「え~、あれ手続きめんどくさいんだよ~?」

「しってる。だから行きたくない」

「本人が行った方が少しでも早いのに~」


これだ。これ、覚えよう。

そうすればゆく先々でランさんの代わりに行ける。


「あ、あの、その手続き、私でも出来ますか?」

「ん~? そうねぇ、出来ない事はないけど、面倒よ~?」

「良いんです、出来るんならお願いします。教えて下さい!」


少しでも私が役に立てるなら、覚えてきたい。

私の行動を見て、ランさんは肩をすくめている。

考えが透けて見えているのだろう。

クレメアさんは「じゃあ良いよ~」と言って連れて行ってくれる事に決まった。




―――――――――――――




フィアが張り切っている。

出来る事を見つけたのに、水を差す必要もないか。

何か困ったらその時は言う様に、釘だけは刺しておいた方が良いかもしれねえな。


この子はあんな目にあったって言うのに、穏やかで良い子だ。

私ならこんな風にはなれないなー。

たとえ恩人相手でも、自分の人生捧げてまで恩を返そうなんておもわ・・・な・・・。


そういえば、私も昔はもそうだったか。

忘れてたな、そんな気持ちも、そんな出来事も。


・・・まて、忘れてた?

ちょっと、まて、どうして忘れてた。気持ちはともかく、あの頃の記憶は大事な記憶だぞ。

あの頃の私は、私の記憶は、忘れちゃいけない記憶と思いが在るはずだ。


何で忘れてる。ド忘れって感じじゃない。

やばい、今更気がついた。

まるでもやがかかったみたいに思い出せない事が出てきてる。


今まで気がつかなかっただけで、限界がきはじめてるのかもしれない。

師匠も、私と暮らしていた頃こんな感じだったのか?

だから隠居してたのか?


師匠が死ぬ前は、段々と物忘れが激しくなっていた。

師匠も私も、見た目は若いまま中身が老化してるのかもしれない。

それとも自分では分からないだけで、魂が劣化か変質している?

ありえなくは無いな。

人の状態はわかるくせに自らの状態は全くわからない。怖えぇな。

やばい、マジで怖い。久々だ、怖いなんて思ったの。


師匠の事はちゃんと思い出せる。

コレが思い出せなくなったら、私はきっと、いよいよ限界なんだろう。


フィアを拾ったのも、エルが付いて来たのもタイミングが良かったかもしれない。

遠くないうちに、どちらかに「私達」を渡す日が来るかもしれない。

そうなったら二人には申し訳ない事になるな。


でも、まだだ。まだ私は目的を果たしてない。

それを果たすまでは、死んでも死に切れない。


イコにはこの事は話さない様に、気取られない様にしなければ。

アイツは心配性だ。私の事をまだ子供だと思ってるぐらいだ。

馬鹿だ。私なんかほって、好きに還っちまえば良いのに。

こいつは何十年も私に付き合ってる。


口はわりーし、中身の性格も悪いけど、ずっと付いてきてる。

馬鹿だよ、アイツ。


「クー、私は寝る。疲れた。」


この思考は危険だ。今日は止めておこう。私らしくもねぇし。

まだこの体は保つ。ちゃんと機能してる。

ならば保たなくなった時の事は後だ。そん時に考える。

今は、体を休めよう。


「お前らも好きに休め。フィア、金の事は明日からで良い。今日は休め」


とりあえず今日はフィアを休ませないとな。

こいつ多分、張り切りすぎて限界まで動いて、いきなりぶっ倒れるタイプだ。

こっちが休むようにちゃんと言わねえと。


「ハ、ハイ、解りました」

「では、私はここで待機しておきます」


よしよし、フィアはわかったみたいだな。

エルは・・・いいか、こいつは別に余裕だし。

とりあえず寝よう。流石に数日の山道は疲れた。


明日から頑張る。

うん、良い言葉だ。

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