業と罰

「さってさって、上手くやってるかねぇー」


森の影から集落を観察する。少し高所になっているので見渡しやすい。

多分今頃、ハゲと報酬の話をしているところだろう。

しっかし我ながらなーにやってんだかなぁ。


「ま、今更か」


そうだ今更だ。だから今まで通り、一番自分がスカッとする方法で思いっきりやってやる。

昔友人に倫理観を問われたが、知った事か。

私はどんな誇りを持っていようと、蹂躙される覚悟なく他者への蹂躙をする輩は気に食わない。

だから教えてやる。蹂躙される側の心の痛みを。

私じゃない、蹂躙された本人たちの手によってだ。


『おねえちゃん、あそこ』


隣で一緒に様子を見ていた少女に言われてそちらを見る。

手持ちの即席藁人形に固定して、生前の体を再現している。

そういえば昔本物の死霊術士に会ったとき、これやったらブチギレられたな。

そんなことが出来て堪るかって。


こっちだって色々制限が有るのに切れられても困る。

藁人形じゃ生前の2,3割の性能がいいところだ。

真に迫るには、ある程度元々の形を再現した物に入れないと性能を発揮出来ない。

とはいえそれでも7割行けば良いほうだが。

見た目が完全再現出来たからって、中身も完全再現はできん。


「ハゲが動き出したか」


おそらくどっかで一服盛って寝込み襲うとか、そんなんだろ。

ありきたりすぎる。


「だからこそ、やりやすい」


次は、おそらく人を集める。そして、万全を期して「私」を包囲する。

逃げ惑う「私」の相手を、何処までやれるかな?


「後ちょっと待てば、あそこから人がいなくなるな」

『・・・おねえちゃん、私は別にいいよ。あの人たちに何もしなくたって。こんな事になったのは悔しいけど、やり返してあの人たちみたいになりたくないもん』


隣にいる少女が、私の袖を引きながら気持ちを伝えて来る。

凄いな。綺麗だなお前は。でもな、私には解るんだ。見えるんだ。

あそこには、もはや怨霊と言っていいどす黒いものが溜まってるのが。

おそらく地下。この忌事を実行した場所に、もっと居るんだよ。


あそこから聞こえるんだ。怨嗟の声が。

返せ、返せって。

私にはあれを無視出来ない。


「ごめんな。見たくなかったら、戻って良いよ」


少女に優しく声をかける。

イコが居なくて良かった。こんなところ見られたら絶対からかわれる。


『・・・ううん、見るよ。ちゃんと見る。私には何も出来ないけど、これぐらいなら出来るよ』

「良い子だ。本当に」


頭を撫でて、抱きしめる。ちょっと恥ずかしそうだが知った事か。

傍目には子供同士で抱きついてる様に見えるだろうな、これ。

そんな事をしていると、先程の予想通り集落の連中が集まって同じ方向に行くのが見えた。

頃合いだな。


「多分ここに生意気な白猫と金髪のポニテ女が来ると思うから、来たらここで待って、私が出てきたら下りてくるように言っておいて」

『うん、解った』


その笑顔を見て、私は森を駆け下りる。

最後の着地に失敗してずっこけたのが、ちょうど岩陰で見えなくてよかった。


私は、生きてる人間が周りにいない事を確認して、目的の建物に入る。

傍目からどう見ても、ただの農具入れにしか見えないような物置。

傍に行くと、もっと良く解る。ここに、いる。きっとここが入口だ。


物置を開けると、そのまま地下に行く階段が有った。

明かりは無い様だ。


「大丈夫だとは思うけど、少し降りてからにするか」


袖に突っ込んでいた懐中電灯を出して、明かりは付けず降りていく。

足元も見えない暗さなので、ゆっくり、ゆっくり降りていく。

そして、階段が途切れたところで明かりをつけた。

古い木の扉だ。どうやら鍵はかかってない。


中に入ると、まさに『悪趣味』を突き詰めた様な部屋だった。

おそらく今まで食った子供達の手や足、目玉や内蔵の一部などが飾られていた。

その傍に子供達が浮いている。皆、どこかしら体の一部が欠けている。

おそらく、自分が一番ショックを受けた部位がかけているのだろう。

彼女らが死ぬ間際は、もっと悲惨だったはずだ。


私はイラつきながら子供達を手当たり次第取り込んでいく。

触るたびに、この子達の苦痛と怒りが流れ込んで、私の中で私の怒りとなる。

この怒りは貰ってやる。そして使わしてやる。絶対に。


あまりの苛立ちに近くにあったテーブルを蹴飛ばす。

完全に八つ当たりだが、それぐらいしないとやってられない。


「誰、ですか?」

「・・・生きてるのがいたか」


あんまりイラついていて気が付かなかったが、どうやら生者が居たらしい。

外の少女は存在が希薄になっていたから、気が付けていなかったのか。

おそらく私がここを破壊しているのを見て、集落の関係者では無いと思ったのだろう。


「た、助けて・・! お願い!」


声を張り上げようとしたのだろうが、掠れすぎて出きってない。

近くまで行き光を当てると、首に鎖に繋がれている子供が目に入った。

両腕が肩口から無く、黒髪で肌の黒い少女が座っていた。


「まさか生きてる人間が居るとは思わなかった」


ここの子達はもはや周りなんて見えてないから、余計に解らなかった

また失敗した、せめて仕事の契約の時ハゲに触れておくんだった。


「お前、名前は?」

「フィア・アンカシス」

「フィア、お前は両腕を奪った奴らに仕返ししたいかい?」


フィアと名乗った少女は、私の質問に首を傾げる。

む、どういう反応だこれ。


「外の人たちが不幸にあったから、貴女のような少女がここに来れたのではないのですか?」


ああ、そうか、そういうことか。

つまり、すでに集落の連中が報いを受けたと思った訳か。


「生きてるよ。でももうすぐ死ぬけどね」

「そう、ですか。なら、私は外に出て生きたいです」


特にやり返したいって思いは無く、ただ生きたい、か。

その両腕、どう見ても生まれつきじゃないだろうに。


「アテは?」

「え?」

「生活のアテはあんの?」

「・・・ない、です」


当然だろうね。はあ、またお荷物が増えた。

あー、もう、めんどくせえ。


「とりあえず、ついてくるかい?」

「良いん、ですか?」

「こういうの今回だけの話じゃないからあんたを押し付けるアテもある。あんまり態度が悪いと『どうにか』しかしないけど」

「ありがとう、ございます」


少女はかすれた声で、一生懸命礼を言っている。

はあ、ホント、子供に甘いな私。


「とりあえずその鎖どうにかするから、じっとしてな」


そう言って、銃で撃ち砕く。

跳弾には十分気をつけて、跳ねても自分の方へ来るように撃つ。

こっち飛んできたよ。ちくしょう、頬かすってびびったじゃねーか。

頬の血を拭いながら平静を装う。


「歩けるか?」

「すみません、ちょっと、立てないです」

「良い、肩を貸してやる」


肩を貸して階段を上がる。

そっか、この子売られたのか。そりゃ行くあてなんざ無いわな。

勝手に少女の記憶を見ながら外に出る。


すると上から、白くでかい包みを持って金髪娘が上から降ってきた。

続いてイコも降ってくる。

少女はトテトテと歩いて降りれるところから降りてきてるのが見える。


「ラン様。持ってきました」

「ん、ちょっとこの子見てて」

「生存者がいたのですね。分かりました」


フィアを預け、包みの中を見る。結構数あるな。これなら十分足りる。

私は人形を一つ一つ並べ、その際に地下にいた子達を人形に固着させていく。

そして全員を入れた後に、ふと白いマネキンの腕が目に留まる。

これ、接続部が丸くなってるな。使えそうだ。


「おーい、エルー。この腕は壊しても大丈夫ー?」

「はい、大丈夫です。人型を模した物との事でしたので、それらしき物を全部持ってきました」


いい仕事です。感謝感謝。

私は肩口の球体を外し、二つの腕にある魂をつっこむ。


「フィア、動くなよ」


マネキンの腕をフィアの肩に付ける。

数秒待って、両腕の魂とフィアの魂を繋ぐ。

フィアの意思が最上位になるように。


この作業は滞りなく終了した。

白かったマネキンの腕は、まるで元々の腕だったかの様に黒く肉感のある物になっていく。

フィアは、驚きすぎて言葉が出ない様だ。


「フィア、動かしてみな」


指示するとフィアはおずおずと腕を動かし始め、問題なく動く事に驚きを隠せない。

その両腕が起動する事があったら、もっと驚くだろうな。と、意地の悪い考えをする。

あの両腕に突っ込んだ者は少し特殊な奴らだ。きっとフィアの安全を守るだろう。

面倒見るって言っちゃったからな。これくらはしてやってもいいだろ。


「さて、準備完了。お前らは向こうで待ってな」


そう言って人形を、いや、子供達を連れて歩く。

途中の家で、出刃包丁でも何でも良いから、全員に刃物を持たせていく。

獲物を持たせたら騒々しく山狩りが行われている方へ向かう。

なかなか盛大にやってるじゃない。


そう思っていると、ズドンと、銃の音が聞こえた後に静かになった。

と思ったらその後、局地的な嵐でも起きたかのような轟音が鳴る。

多分、後者はヘタレの仕業だ。

私は子供達を生前の形へと変えていく。一人を残して。


「あのバカ共に罰が下る日が来た。反撃を食らってもお前達は痛くも痒くもないから安心しろ。連中を悉く蹂躙してやれ」


子供たちを見送る。連中はこの数相手には何も出来ないだろう。

なにせ子供達は、奴らの3倍は居るのだから。

怪我をものともせず、凶器を持つ者達がだ。


これは奴らが犯した業へ報いだ。

この数を、この絶望的な状況を作り出したのは奴ら自身だ。

誰も、誰も逃がさない。


私はそばにいた一人と一緒に歩を進める。

暫くしてあのハゲを見つける。コイツだけは見つけられる様にヘタレに指示しておいた。

コイツの頭上にはあいつの黒が浮かんでいる。

夜なんだから色変えるとか工夫しろよ。見えにくいだろ。


「よう、いいざまだな」


私は私の信念に従い、私のやりたい事をすます。

こいつを撃って、情報を確かめて、私自身の仕事は終わりだ。


後は子供達が全てを終わらすだろう。

この人形劇はハッピーエンドにはならないが、少なくともただただ悲劇では終わらない。

本来何も出来ずに消滅した筈の子達が行う復讐劇だ。


さあ、終劇を迎えよう。

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