化物メイドとの戦闘

道中で戦闘用に、服を着替えた。

シンプルなワンピース型だがゆったりしたものではなく、腰と肩と袖口を思いっきり絞ってあるので大きく動きやすい。だからってけして見た目を捨てたわけではないデザインにしている。

とはいえ子供以外には似合わない服装ではあるけどね。私は可愛いから問題ない。


「さって、どうすっかね」


門の閉まった屋敷の前で、スライドオートマチックを片手に呟く。

屋敷っていうかほんと城みたいだ。でかすぎる。山の隙間から屋根が見えるわけだ。

とりあえず門は普通に開くようだし、中に入るか。


「じゃまするよー」


気軽に声を出しながら入って中を見回すと、右手に墓が並んでいた。

私はそこを見て、喜々としてそちらに向かう。


よかった、上手くいけば労せずストックが手に入る。と思ったのが失敗だった。

この屋敷の住人にとっては墓への接近の方が、屋敷への接近より重要事項だったようだ。

上から凄まじい殺気を感じてそちらを向くと、いくつもの鈍器と刃物が上から降ってきた。


全力で後ろに飛び退き逃げるが、脇腹をやられてしまった。

かすり傷、というには少し深いが、移動に困るレベルじゃない。


むしろ今のでカバンを手放してしまった上に、槍に貼り付けになっていて回収出来ない事の方が問題だ。予備弾薬はリボルバーの方しか服の中に仕込んでいない。

リボルバー用の化物用の弾薬もカバンの中だ。一応対化物用の銃は仕込んであるが、あれはそうそう使えない。使った後の反動で翌日腕がまともに動かなくなる。

その上弾薬の予備は今持ってない。中に入ってる8発打ったらそれで終了だ。


だがそれは一番大きな問題じゃない。弾はその8発で事足りる。本命はそれで十分だ。

なによりもの問題は、あいつらの数がどれだけいるのか把握出来ない事だ。


今目の前に立ってる武装した幼いメイド達が、この屋敷に何人いるか、だ。

現状、今襲ってきたメンツだけで14人。

屋敷の中にもまだ気配はあったので、もっといるだろう。


これは完全にミスったな。

この屋敷はストックが手に入らないと確信できてしまった。

いや、あるにはあるしさっきの一瞬で手に入れたが、これは使えない。

これを使ったらきっと、私は私でなくなる。

私のエゴを通す為にも、これをストックとはカウント出来ない。


とりあえず突撃だ。私は目的を果たすために屋敷の中に突貫するしかない。

その際に数発スライドオートマチックでメイド達を撃つが、怯む様子なく突っ込んでくる。

銃弾は彼女達全員の体のどこかにかすったが、誰一人として弾丸は当たらない。


墓に近寄った時に感じた殺気や感情が見えた瞳は消え、無表情でこちらに迫ってくる。

それらを振り切り玄関前に着いて扉を引いた瞬間、目の端に金髪の女が見えた気がした。

反射的に地に身を沈め、カエルのような体勢から玄関に飛び込む。


転がりざまに後ろを見ると、扉が真ん中から真っ二つになっていた。

その向こうに金髪のポニーテールを揺らし、右手を水平に構えた赤目のメイドが立っていた。

さっきの連中とは違う、20代前半ぐらいの見た目だ。


そいつを撃つと他の連中とは違い、かすりさえしなかった。

というか、撃った瞬間もう目の前に来てた。

やばい、こいつ本物だ。本命の以外にこのレベルがいるとか、勘弁しろ。


愚痴を心の中でしつつ、両腕で体をガードする。

次の瞬間両腕に衝撃が走り、通路の奥に思いっきり吹っ飛ばされゴロゴロと転がされる。


袖は裂けたし背中が痛い。腕も痛いけどなんとか有る。

裂けた袖から見えるプロテクターが薄くなっているのが見えた。次はないな。


「捕らえなさい」


通路の向こうからさっきのメイドの凛とした声が通ると、複数人のメイド達が降ってきた。

その手には皆、体に似合わない大きな武器ばかりだ。

それらを用い一斉に攻撃してくる。

それ捕らえるって言わない。死ぬと思う。


メイド達の攻撃を転がりながら躱して逃げまわりつつ、彼女たちを撃つ。

これも全てかすっていくだけで、直撃は一人としていない。


『ふむ、絶体絶命というやつだな』

「余裕そうに言うな!」


奥に居る白猫が余裕そう喋ってやがるので、思わず文句を言った。


『こっちだ、いくぞ』

「あいよ!」


イコの誘導に従い、駆ける。

この場に立ち止まっても、どうしようもねえ。


「その猫も侵入者でしたか。いいでしょう、精一杯頑張りなさい。悔いのない様に」


私達が逃げる前に、そんな風にあの女は言っていた。



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その結果が結果これだ。

あれから逃げ回って逃げ回って、メイドの総数も把握できた。

そして最後の二人から逃げて、ここに辿り着いたと言うわけだ。


「この部屋には何もありません。窓も扉も、そして逃げ道も。唯一の通路は私達の後ろ」


そう言って、メイドは何かを私に投げつけた。

私のカバンだ。


「使いなさい。そして悔いなく逝きなさい」


お優しい事だ。

その言葉に素直に甘え、弾薬を補充させて貰う。


「優しいね、あんた」

「これから死にゆく者への温情です」


ここで確実に殺す。そう言う割に、抵抗は許す、か。

私が相手にならない、とも思われたわけだ。


後者に関しては少し不愉快だが、当然といえば当然か。

ここまで間違いなく脅威と思われる行動は取れてない。

目の前の女どころか、他のメイド達でさえ一人も倒してないないのだから。


「さて、準備完了。いつでも良いよ」

「そう、ですか。何か言い残す事はありますか?」

「ないよ、死なないし」

「・・・分かりました。では、参ります」


メイドが私に告げた瞬間、姿が視界から完全に消えた。

私は反射的に持った銃を首に構えて、致命の一撃を防いだ。

腕に感じた衝撃を逃がしつつ銃を確認すると、潰れて使い物にならない形になっていた。


「まさか、防ぐとは思いませんでした」


私の後ろまで駆けていったメイドが、心底感心したように言ってきた。


「一応これでも戦闘経験だけは豊富なんでね」

「そうですか、あなたを甘く見ていた事を謝罪します」

「そりゃあんがと。次はこっちの番かな?」

「お好きにどうぞ」


正直、スピード自体には目が追いついていない。

今防げたのは、玄関で一撃をまともにもらったおかげだ。


あれで、目線の先に素直に攻撃してくるのがわかった。

プロテクターを貫通しなかった事から、鉄を切り裂く事は出来ないだろうという予測のもとだったが、上手くいったようで良かった。

私は袖口に仕込んだリボルバーを取り出しメイドに向け―――。


引き金を引く暇もなく、肩口から右腕がなくなっていた。

ああ、つまり、さっきの一撃も本気ではなかったのか。


これが全力。予測どころの話ではない。動く瞬間すらわからなかった。

舐めたつもりはなかったが、流石に甘すぎたか。

耳元で「ごめんなさい」とつぶやく声が聞こえ、メイドの腕は私の胴を貫いていた。





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まさか侵入者が子供、しかも女の子とは思わなかった。

子供を手にかける事になるとは思わなかった。

子供を手にかける事がこんなに辛いとは思わなかった。


この傷は致命傷だ。

人間が体に大穴を開けられて生きていられる筈がない。

右腕も切り落としている。失血死は間違いない。


私がやったんだ。

私が殺したんだ。


自覚して吐き気がする。目頭が熱い。今にも泣いてしまいそうだ。

殺す覚悟はしていた筈だ。最初の一撃も殺す気で放った筈だ。

彼女は、彼女の様な子供だけは素直に通すわけには行かないから。

それでも自分の中でやるせない気持ちがいっぱいになる。


せめてこの子を抱きしめよう。

死ぬ瞬間ぐらい、だれかの温もりが有っても良いだろう。


それが殺した相手なのは不快だろうなとは思う。

だから、きっとこれは自己満足だ。

私がこの子を殺したという現実から、少しでも目を背けたいんだ。


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・でも、あなたを通すわけにはいかないの、せめてあなたの死後が安らかであるように祈っています」


そんな独りよがりでエゴだらけで、自分でも嫌悪してしまう様な言葉が出る。

ああ、恨んでくれていい。この子にはその権利がある。私の謝罪なんて受け入れなくていい。

―――――――――――本当にごめんなさい。


「・・・え・・た」


掠れた声で呟く声が聞こえた。

その声と共に、彼女が私の腕を力無く掴んでいた。


「どう、しました?」


私は彼女に問い、耳を澄まして彼女の言う言葉を待つ。

彼女の最後になるかもしれない、その言葉を。


「・・・つか・・・ま・・えた」


確かに、彼女は私を捕まえた。その手は私の腕を掴んでいる。

けど、だから何だというのか。

最早あなたは、そんな場合では無い負傷だというのに。


「ええ、捕まりました。さすが、ですね」


悲しくて辛くて、まだ戦うつもりのこの子の姿に更に泣けてきて、思考が上手く回っていない。

そのせいで皮肉にしか聞こえない言葉が出てしまった。


「でも、もう、いいでしょう。その傷で動くのは辛いでしょう。もう、いいんですよ」


そう言って、彼女の右腕を優しくなでる。





・・・みぎ・・・う・・・で?





ハッとして彼女を見―――。


「遅い」


銃声が4つ響き渡る。

両肩と股関節を、隠していた大口径の銃で撃ち抜かれた。

倒れる瞬間に見た彼女の腹部には、服に穴は空いていたが体に傷一つ無かった。

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