不死者の人形劇

四つ目

屋敷の化物 人食い化物

うーん、軽い仕事だと思ったんだけどな。

これは失敗した。完全に労力に見合わない報酬しか持って帰れない。

ちゃんと調べてからやればよかったかも。めんどくさいからしないけどさ。


肩口から少しはねた黒髪をなびかせながら、全力疾走で広い屋敷の廊下を駆け抜ける。

編み上げブーツの音が通路に良く響き、その後ろからは近距離に二組みの足音。

もっと遠くにも聞こえるが、取り合えず今の問題はこの二人だ。


赤毛の長髪と黒髪のオカッパ頭のメイド服の二人組。見た目だけなら歳は12,3か。

手には小さな体に似つかわしくない巨大な槍と斧を、それぞれが軽々と持っている。

どちらの娘も、瞳から意志を感じられない。

いやー、モテる女は辛いね。あんな物で迫られたら体が持たないね。致命的な意味で!


とりあえず一旦現実逃避を止めて、現状打破を試みる。

足を止めずに腕を背後に回し、袖に仕込んでいるリボルバー式の小型拳銃で追跡者を3発撃つ。

発砲音と共に弾丸が走り、迫る2人の追跡者の髪をかすってそのまま後ろに飛んでいった。


弾丸が掠ったにも関わらず、メイド達は怯んだ様子もなく突っ込んでくる。

当然だ。あれは明らかに自分の意志で動いていない。怯む、なんて行動はする筈がない。


「はっ、はっ、くっそ走りながら後ろの相手に当てるとか出来るわけねーだろ!」


叫びながらも足は止めない。止めたら終わる。

追跡者から全力で逃げている私に、足元の畜生が口を開く。


『それを当てるのがお前と同ランクのモノ達だと思うのだが。まあ、全員かすらせたのだ。上出来だろう』


となりで走る白猫がそんな憎まれ口を叩いた。

お前は何もしてない癖に、口だけは尊大だな。


「うっさいな! 私だってんなこたわかってるよ!」


とにかく逃げる。現状打破のためにはもう少し足りない。

もう殆ど手札は揃ってるし、奥の手も出来た。ただ肝心な、欲しい情報が揃ってない。

今ある情報じゃ断片しか見えない。けどそれはしょうがない。だって、こんなに―――


『怒るのは後にしろ。何を思おうと彼女たちは報われぬ。今を切り抜ける方が優先であろう』

「んなこたわかってるよ! 現状をお前がどうにしかしてくれんのか!?」

『出来ると思うか?』

「出来ると思ってねえよ! とりあえずそこ右に行くぞ!」


前方に見えたT字路になっている廊下を右に曲がり、速度を落とさずに走り続ける。

暫く走るとちょっとずつ通路が広くなっていくのが解った。

そして最後にひときわ広い、何も無さ過ぎる、部屋というには本当に何もない空間のような場所に出た。窓すらない、本当に、ただの開けた空間という言葉が似合う場所。


「お疲れ様です。ここは行き止まりですよ。よく頑張りましたがここで終わりです」


聞こえた声に後ろを振り向くと、通路を塞ぐ様に感情のない瞳のメイド達が立ち並び、先頭に音もなく現れた金髪のポニーテールのメイドが立っていた。

他の連中とは違う、確かな敵意を持った赤い瞳を携えて。


あーもう、面倒くさいな! 受けるんじゃなかったこんな仕事!


________________________




「仕事がない~?なんでよ!」


ド田舎の集落にぽつんと建っている、表には国家連邦運営業務斡旋所と書かれた板がぶら下がった小屋の中、若干情けなく聞こえる声で目の前のいかついハゲに問い詰める。

くそ猫は私の後ろで、その様子をつまらなそうに見つめながら椅子の上で丸まっている。


「ああ、お前さんに斡旋するような仕事はねーよ」


私に興味なさげに返答し、とっとと帰れと言わんばかりの態度で酒をかっくらう。

ガキを相手にする気は無いと、態度が言っている。


「ほら、ガキはとっとと――」


言い終わる前に袖に仕込んだ小型拳銃を取り出し、ハゲの額にこすりつける。

射撃は得意じゃないが、この距離なら関係ない。

こいつが銃を払ったり、頭を動かす前に脳天をぶち抜ける自信はある。

とはいえ、今回は脅しなので本当に引き金を引く気はないが、ただの脅しと本当に思われても問題なので安全装置は外してある。

すこーしの手違いで、本当に引き金引いちまうかもしんねーけどなぁ。


「なんのつもりだ」


ハゲは銃を視ず、私の目をまっすぐに見てきた。

ほーん、全く焦る様子もなし、か。

なかなかキモ座ってんじゃん。


「仕事がない、なんてのはおかしな話だ」


若干キレ気味に、狂気を孕んだ顔で口にするが、ハゲはこれにも怯む様子がない。

結構本気で切れてるし、まともな返事が返ってこなかったら本当に引き金ひくぞ、このハゲ。


「事実おまえにや――――」

「それはありえない。こんなド田舎にこの斡旋所がある時点で、仕事がないってのはありえないんだよ」


再度仕事が無いというハゲの言葉にかぶせて告げる。


そう、ありえない事をこのハゲは言っている。

国家連邦公認の業務斡旋施設が、見渡す限り山と田畑しかないような小さな集落に、例えトタン屋根のほったて小屋みたいなしょっぼいものでも、ここに有る事自体がその証拠だ。


本来は最低でも「街」と呼べるような所にしか斡旋所は設置されない。

なぜなら斡旋する様な仕事がこんな小さな集落で有る筈がないからだ。

村人だけで事足りるような所に、仕事の斡旋所を建てる意味がない。


だが例外がある。

業務斡旋、といえば聞こえは良いが、無理難題を金に目が眩んだ連中にやらせることも多い。

おそらくここにある仕事は、その「無理難題」の部類だ。


集落が国になんらかの要請をし、形だけの斡旋所を置いたのだろう。

ハゲはおそらく、村の住民だ。

国は集落の訴えに対し斡旋所を置き、いくらかの支援金を出すだけで見捨てたのだろう。

たまたまこの村を通る命知らずがうまくやれば重畳。消えてもド田舎の村だ、ってとこだ。

私がそれを理解している事を悟ったハゲが口を開く。


「一応国が認めてるのはB以上の認定証を持った人間だけだ」


認定証とは、国の首都の斡旋所で試験を受け合格したものに渡される、仕事を受けていいという証明証。

そしてこのハゲの答えは、私にとっては予想通りだ。


「B、ね、化け物退治って事、か」


銃を引き、袖にしまいながら応える。

証明書には仕事を受けられるランク分けがある。

Eは雑務、Cは多少の荒事込み、Bは化け物退治の類、Aは国家に損害を与える可能性のある事案への対処。ざっくり分けるとこんな感じだ。


私としてはBもAもほぼ似た様な物だ。

大きな戦争以外で国に脅威を与えるのは、だいたい規格外の化物が原因だ。

だが判断基準は国が損を被るかどうかなので、Bでもとんでもない化け物が出てきたりする。


その代わり報酬はでかい。むしろでかくなければ誰もやらないだろう。

国が化け物退治に動けば事は早いとは思うが、基本的にどこの国も上層の連中が損害を被らない限り動かないのが現状だ。

ま、動いたところで全滅クラスがいるのが現実の無情なところでもある。


「解ったらとっとと帰れ。というのは流石に可愛そうだとは思ってる。こんな田舎まで来たんだし、山道は疲れただろう。むこうの畑を越えた所に、一応客が来た時の小屋がある。そこでひと晩泊まっていけばいい」


私が落ち着いたのを、諦めたと思ったハゲがそう言ってくる。

そんなハゲにカードを突きつける。私の認定証であり証明書を。


「あ?」


私の行動に方眉を上げながら、ハゲが証明証を確認する。

そして内容を理解して、驚きの顔を見せた。


「な、おい、これ偽物じゃねえだろうな!」


驚くのも無理はないだろう、証明書には、「火重ヒガサネ ラン A」と書かれているのだから。


「にゃっは、ちゃんと本物で私の物だよ。C以下だと思ったかい?」


さっきと態度を一変させ、見た目相応の笑顔で答える。

驚くのは無理はない。私の見た目はどう多めに見ても10代半ばだ。

その上私は可愛らしい服装を好むので、余計に幼く見えるだろう。

今の私は、有り体に言えばゴスロリファションだ。

少なくとも、こんなとこに化け物退治の依頼を受けるような様相ではない。


「マジか、こんな小娘がAなんて・・・・」


証明証のカードを機械に通し、データに私の名前と顔写真が出たのを確認すると、信じられなさそうに呟く。

今は本当に便利になったもんだね。ど田舎でもあんな物が置いてあるんだから。


「小娘で悪かったね。で、内容を言って貰おうか」


ニッコリと笑いながら、内容を促す。

これ以上ごねたら、マジで眉間ぶちぬく。


「ちっ、しゃーねえか。東の山の方に城みたいな屋敷の屋根が見えるんだが、わかるか? あれがその化物のいる屋敷だ。人食いの化物のな。女、特に子供を好んで喰らう。男はいらないのか痛めつけて放置するだけだ。それが救いで、なんとかこの集落はまだ存在してる。だがもう女が一人もいねえ。生きてた女も逃げたし、ここの集落は残った人間が息絶えるだけだ」

「ほかの街に行きゃいーじゃんか」

「俺達はここで生まれてここで死ぬ。一時的に稼ぎに行っても他の街で永住する気はない。そう考えてた女達はもう食われて死んでるがな。流石に子供らは街の施設にやった。年寄り連中と心中させる必要はねえだろ。金が出せないのは、そういう理由だ」

「なるほど、ね。子供の面倒の金は出す代わりに、報酬は自分たちで用意しろってことか」

「そういうことだ。だから、報酬に出せる物は碌に無い無い。そんな仕事だ」


堂々と化け物退治の報酬が不確定とハゲは告げた。

そりゃあたまたま誰か来ても、誰も受けずに放置されるわ。

誰が好き好んで命かけて、無報酬の化け物退治なんてやるもんかよ。


「で、どうすんだ?」

「やるよ」


ハゲは目を丸くする。その反応は当然だろうな。

「報酬はないかもしれない」と言われたのに命がけの仕事をするといったのだ。

ハゲの目は頭が狂った人間を見る目になっている。


「本気か?」

「本気。でも報酬は貰う。化物倒して無事帰ってきたら、ちゃんとした食事をよこせ」

「・・・馬鹿だろお前。そんな報酬でやる仕事じゃないぞ」

「バカで結構、じゃ、そういうことで契約書出せ」


そう言って私は手を伸ばす。

ハゲは後ろの棚から無造作に今回の件の書類と、契約用の説明が書かれた用紙を出す。

Bランク特有の、命の保証がない事への確認して仕事を受ける契約を交わす。

これを交わしてから逃げた場合、罰金かランク降格、最悪証明書の没収だ。

罰金目当てでBランクの仕事を出してる時もあるから質が悪い。そういうやつは潰すけど。


契約手続きを終えたら床に置いていたカバンを手に取り、扉に手をかける。

軽く開いて足を止め、動く気配のない畜生に声をかける。


「イコ! 行くよ!」


白猫のイコに声をかけてから外に出る。

その時に聞こえた「Aランクか。もしかする、か」という言葉を聞きながら扉を閉めた。


『あの男、いくらなんでも落ち着きすぎだな。辺境の集落の男が銃を突きつけられて動じぬなど、逆に怪しまれように』


ハゲに聞こえない距離になった所で、イコが語りかけてきた。

そんな当然の事言われても、私はどうでも良いよ。


「いいんじゃね、解り易いぐらいで。どっちみち私達にゃ関係ない。私は世直ししたいわけじゃないからね。お金の為にいつも道理サクッとやって、サクッと帰るだけよ」

『報酬は無いのでは?』

「なんかあるっしょ。無くても何とかするし、私にとっては別の物のほうが大事」

『だがしかし、ストックは足りるのか?』

「あと2つは気軽に使える。いざとなったら・・・嫌だけど何とかするよ」


イコの問いに、ため息を吐きながら答える。

ここに来る前に、殆ど準備をせずに来ている。

化け物退治となると、相手次第では簡単にはいかないだろう。

それでも別に、手はいくらでも有る。


『ああ、そうか、暫く見ていなかったので忘れていた」

「ま、そういう事で、サクッと行きましょ」


化け物退治をやりに行くというより、ご飯でも食べに行く様に気軽に目的地に足を向ける。

多分目的地に着くのは夜になるだろうが、私に朝まで待つという選択肢はない。

するわけにはいかない理由があるが、まあそれは置いておこう。


『だが、もし手に入らなかった場合はどうするのだ?』

「そのときは、『不幸な事件』がおきるかもね」


何もない農道の真ん中を歩きながら狂気の塊とも言える笑顔で口にして、その時が楽しみでしょうがないと想いを馳せる。

そう、不幸な事故が起きたほうが、きっと楽しい。それはきっととっても素敵だ。


『やれやれ・・・』


イコのそんな呟きを無視して、私は夜の化け物屋へ向かう。

その先に何が居ようが、何であろうが、阻むものは撃ち抜くだけだ。

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