輸送隊出陣
ジークフリートの前に整列させられ隊列を組む輸送隊。そしてその中にリリスもいた。
どうやら緊急事態があったらしい。
「さて、北西の村で反乱が起きた」
ジークフリートの一声だった。
北西と言えばヴェル様がいる所では、とリリスが考えていると、
「まあ、反乱と言う程でもないかもしれないがな。鎮圧に派兵することになった。で、輸送隊の任務だが、兵士300人分の食料を輸送し守る事だ。何、かかる日程は通常ならば三日。300人での行軍となると五日と言った所だろう。準備の方はエドワード、お前に任せていいな」
「はい、お任せ下さい」
「出立する兵は魔術師部隊を主力にした軍構成となる。何、そこの領主が魔術師部隊の人間だっただけだ。面子が丸つぶれだったんだろうよ」
「隊長殿、それで我々も出張るんですか」
兵士の一人が言う。それに対し、ジークフリートは深くため息をつき、
「言うな、いかに愚かな命令でも聞く。それが軍というもんだ。俺は待機しておく。全てエドワードに任せるからそのつもりでいろ」
そう言ってジークフリートは幕舎に戻っていった。
それからは急に忙しくなった。出立にかかる食料を準備するのに手間取っていたのだ。日々の管理の杜撰さがここに現れた形となる。
またエドワードは全員に対しいい顔をしようとする魔族であった。
エドワードはこう命じる。
「食料はなるべく新しい物を準備しろ。魔術師部隊様に何かあっては困るからな」
そうして準備が終わり、気づけば夜になっていた。
気になることもあり、静かにリリスはジークフリートの元を訪れていた。
「お前が気がかりなことを言ってやろうか。ヴェルファリアだろ」
「はい」
「まあ、あいつなら大丈夫だろうよ。問題はこっちだ。魔術師部隊は魔王軍の中核を担う部隊。だが人間で構成され中身は腐っちまってる。魔王軍は確かにバルバロッサによって作られた軍だ、だがそれも一枚岩というわけでもない。何故人間で構成されているのか、人間が降伏する条件としてバルバロッサに要求したのは政治の支配。人間との全面戦争を避けるために条件を飲んだんだ。それがそもそもの失敗だったのかもしれねえなあ。けど、人間全員を滅ぼすことをよしとしなかった魔族がいたのも事実。難しい所よな」
「そう、ですね。しかしその魔術師部隊というのが得体が知れませんが」
「まあ近寄ることのないようにすることだ。絶対に関わりを持つな、いいな」
「はい」
「今回の戦、どうも嫌な予感しかしないんだよな。ならば俺も行け、と言われそうだがそうもいかん。魔術師部隊とは折り合いが悪くてな」
「そうでしたか」
「あいつらははっきりいって戦下手だ。もし敗北することがあれば迷わず逃げ帰ってこい、いいな」
「けれど流石に敗北することなどないのでは。聞けば北西の村には100人も人はいないと聞きますよ」
「戦は数だけでやるもんじゃない。まあ、単なる反乱止まりであればいいんだろうけどよ。どうにもそんな気がしないんだよなあ今回。それともう一つ、入った情報によるとそこの領主を殺したのは旅人だと聞いた」
「まさか」
「その、まさかかもしれん。ヴェルファリアとミリア、あいつらが敵だって言うなら話は別だ。リリス、お前にはまだ早かっただろうがあの二人は別格だ。一騎当千の実力を既に備えていると言っていい。戦略が戦法一つで覆る可能性は大いにある」
そう言われ、居ても立ってもいられなくなってきた。
「わたくし、様子を見に」
「行くなよ。まあ、そうだとしてお前に何がしてやれる。お前がやるべきことを伝えるぞ。もし万が一撤退することがあれば兵を纏め全員を逃がせ、いいな。おそらく勝負の場所は山間の崖となるだろう。戦には必ず争う場所が存在する。もし本気で相手が戦をするってんならここをまずは抑えているはずだ。いいな、崖に注意しろ」
ジークフリートが真剣な口調でそう言ってきた。それに対し、
「しかしわたくしで兵が纏めれるでしょうか。わたくしは兵を動かしたことがありません」
そう心配なことを伝えたが、ジークフリートは笑って答える。
「大丈夫だ、何も魔術師部隊まで逃がせって言ってるわけじゃあない。輸送隊だけ逃がせば問題ない。いいな、何があってもお前は撤退してこい、必ずだ。ああ、エドワードは置いていっていいからな」
「分かりました、必ず生還いたしましょう」
「頼んだぞ、崖だ。輸送隊は侵入を一時的には拒め。遅れて入ることにしろ。様子を必ず伺え、いいな」
「はい、心に留めておきます」
そうしてジークフリートの幕舎を出た。
夜の冷たい風がリリスの身体を通り抜ける。
「ヴェル様、どうかご無事で」
夜空を見上げながらリリスは呟いていた。
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