第二夜 折り返せない電車

こんな夢を見た。

それはいつもと同じ朝だった。


スーツのポケットから小銭をわし掴み、自販機のコイン口へ数枚摘まみ入れると、私は勢いよく吐き出された缶コーヒーを取り出した。

プシュッ!軽快な音を響かせてプルトップが深く沈んだ。

ぐびぐびぐびぐび…あぁーようやく目が覚めた。

いつもの朝の儀式で、眠気から意識を取り戻した。

ホームで待機している電車の出発ベルが鳴る。

私は慌てて目の前の車両に滑り込むようにして飛び乗った。

ふーっ危ない危ない。危うく乗り損ねる所だった。これに乗らなければ遅刻確定である。


Σおい、逆だッ!逆だろ!?


なんということだ。どうやら間違えて反対方向の電車に乗ってしまった。


戻れ!頼むから今すぐここで降ろしてくれ!!


当然無理な懇願だった。

仕方無い。次の駅で折り返してくるとしよう。私は諦めると車内を振り返った。


ん。なんだ?

何故、乗客が老人ばかりなのだ?私以外老人ばかりである。

一体なんで?

サラリーマンは?OLは?女子高生は?


おい、そこの君。そう、おまえさんだよ。君、歳は幾つだね?

困惑している私に向かって、一人の老爺が尋ねてきた。


俺のことかい?45だがそれが何か?


やっぱりそうだろうな。駄目だよ若いの。おまえさんはこの電車に乗るにはまだ早い。


は?


この電車はな、片道切符だ。一旦乗っちまったら最後、戻っちゃ来れんぞ。


はて?一体何を言っているのだろうこの爺さんは…呆けているのか?


誰が石原裕次郎だ?


言ってない!!断じて言ってません!


そうかね。まあそんなことはどうでもいい。取りあえず早く窓から飛び降りろ!


馬鹿言わんでくれ!死んでしまうではないか?しかも何が取りあえずだ。


なあに大怪我するくらいで死にはせん。だがこのまま列車に乗っていたら、おまえさん本当に死ぬことになってしまうぞ?


え!?どういうことだ?


この電車はな、あの世行きなんだよ。









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