エピローグ:インタビュー記録[Y-R19-725]

ギルド連合所属者に対する定期観察記録。

回答者:[Y-R19-725]

質問者:鴻上こうがみ みなと、連合上層部研究セクター所属。

序:本来ギルド登録後7日以内に行われるインタビューだが、回答者の精神的損傷が確認されていたため対話可能と判断された経過45日後に行われたものである。


[鴻上博士]:では始めましょうか、気楽にしてもらって大丈夫ですよ。連合に属する傭兵は皆行うものですから。

[Y-R19-725]:はぁ……分かりました。よく分かってないんですけど、聞かれたことを答えればいいんですよね? これって。

[鴻上博士]:えぇそうです、[Y-R19-725]。さて最初の質問をしましょう、きみがアンカーになったきっかけについて教えてください。

[Y-R19-725]:えっと、確か……ピアスリングの暴発事故*泊木区ゴースト急襲事件に巻き込まれて、あの時学校にいたんですけど警報を聞いて妹を拾いに中学校に向かったんです。中学の体育館にはたくさんの人が避難していたのを覚えてます。

[鴻上博士]:妹さんは無事でしたか?

[Y-R19-725]:一応は。ただそのあとゴーストに襲われて、えーと……あぁ、体育館の半分が吹き飛ばされたんですよ。俺が立っていた場所は無事だったんですけど、それ以外はまぁ、はい。

[鴻上博士]:驚きましたか。

[Y-R19-725]:どうでしょう、覚えていません。多分驚いたとは思いますよ、凄い音がしたんで。まぁその、死ぬのかなーって茫然としていたような気もしますしふざけんなってキレてたのかもしれません。すいません、あいまいで。

[鴻上博士]:大丈夫ですよ、よくあることです。

[Y-R19-725]:そっか。それでー……なんだったかな、今度は突然目の前のゴーストが吹っ飛んだんです。レヴィア・スカルがそれを吹っ飛ばして、勢いのまま機体に乗り込んで。

[鴻上博士]:アンカーになった。

[Y-R19-725]:はい。

[鴻上博士]:後悔はしていませんか?

[Y-R19-725]:いいえ、特には。むしろ幸運だって思ったぐらいで。

[鴻上博士]:幸運? 不運ではなく?

[Y-R19-725]:……俺、さっさと家を出たかったんです。

[鴻上博士]:(続けるように促す)

[Y-R19-725]:俺が生みなおされた子だって話はしましたっけ。

[鴻上博士]:カウンセリングの時に聞きましたよ、◇◇家には本来別の◇◇くんがいた。しかしその子は星の子となって突然死してしまい、複製技術による施術できみが生みなおされた。

[Y-R19-725]:そうそう。そのせいで俺、昔の記憶とかあんまりなくて。思い出してもろくな思い出がないんです。……今思えばあれって虐待ってやつだったんだよなぁ。あの人*母親はたまに発作みたいに「違う」って言いながらヒステリー起こすし、兄さんだった人には危うく殺されかけるわ◇◇れるわ……。

[鴻上博士]:辛かったのでは?

[Y-R19-725]:そういうもんだって当時は思ってたんで別に。ただ中学に上がってからはだんだんキツくなってきて、身体のほうがしんどくて助けは求めましたよ。

[鴻上博士]:具体的には?

[Y-R19-725]:学校から帰ろうとしなかったり家に帰んなかったり。話聞いてもらわなきゃって、頑張って考えたんですけど結局話も聞いてもらえなくて。あーそういえば屋上から飛び降りたこともあったなぁ……。

[鴻上博士]:よく生きていましたね。

[Y-R19-725]:場所が悪かったんですよ、あそこにあった木が悪い。まぁ、それでも誰も助けてくれなかったんですけどね。それでなんだかもう呻くのも面倒になってきて、考えるのをやめました。高校に上がってから多少ましにはなっていたんですけど、どっちが原因なんだか。

[鴻上博士]:家を出たい気持ちがよく分かります。

[Y-R19-725]:耐えたほうだとは思いますよ。でもあの瞬間で全部吹っ飛んで。

[鴻上博士]:アンカーになった。

[Y-R19-725]:なったとき自覚どころかアンカーって言葉すら知らなかったんですけど、なったこと自体には後悔はありません。……自分で考えて自分で喋っても怒られないの、ものすごく楽なんですよ。人の顔色を見なくて済むし、あぁ生まれる場所と生きる場所間違えてたんだなーって今は思います。

[鴻上博士]:今の君はとても生き生きしているように見えますよ。

[Y-R19-725]:ほんと? だと嬉しい。


[鴻上博士]:次の質問をしましょう。アンカーとなって不便に感じることはありましたか。

[Y-R19-725]:不便……アンカーになったからなのか原因がよく分からないんですけど、味覚がどんどんなくなってるような気がするんですよね。

[鴻上博士]:たしか拒食症と診断されていましたが。

[Y-R19-725]:それはそうなんですけど、なんていうか……味はするけど特にうまいとかまずいとかがなくなった……みたいな。そのせいかだんだん味自体も分からなくなっているような気がして。

[鴻上博士]:好みが消えていっている、と?

[Y-R19-725]:そんなかんじ。あとは……あぁ、人の顔を覚えられなくなりました。顔っていうか、名前と顔があんまり一致しないというか。会わない人のことはすぐに忘れるんです、出来るだけ覚えていようとはしているんですが。

[鴻上博士]:それはとても大変ではありませんか?

[Y-R19-725]:ちょっと大変です。あぁでもギルドのメンバーを覚えたり、仕事先の人はちゃんと覚えているんですよ。だから少し、その……なんだか申し訳ないというか。ごめんなさい、まだよく分からないんです。

[鴻上博士]:謝らなくていいのですよ。きみはまだアンカー化したばかり、まだ不安定で受け止めきれない部分もあるでしょう。

[Y-R19-725]:……すいません。でも。……この違和感を把握しきったら、本当に俺が俺じゃなくなるみたいで怖いんです。こうして話しているのも、感じていることも、全部うわべだけのことなんじゃあないかって。……全部演じているだけなんじゃあないかって。

[鴻上博士]:[Y-R19-725]?

[Y-R19-725]:時折、地面がなくなって放り出されたような感覚に襲われるんです。ちゃんと話せているかな、間違った受け答えをしていないかなって。相手に全部合わせているみたいで、自分の顔が分からなくなるような感じがして。──あぁもう痛くてしかたがないっ!! なんなんだよ、なんなんだよもう!! うるさい、ずっとずっとうるさくて仕方がないのに一体どこから聞こえるんだ……!!

[鴻上博士]:インタビューを中断します、スクシェ安定剤の投与を!


<記録終了>

補記:[Y-R19-725]は極度の精神不安に陥り急きょインタビューは中止となった、定期的なカウンセリング、定期観察が必要と判断。尚、安定するまでかなりの時間を要すると予測される。

[鴻上博士]:アンカー化による影響でしょう。しかし彼の場合、精神的影響は初期段階の傾向に沿っていますが対価と思しき症状は既に中期のものと類似しているようにも見えます、どのみち観察は必要でしょう。

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