7:開戦前のフレルト・アンビバレンス。

 情報収集と言っても大体野次馬みたいなものだ、匂いを嗅ぎつけては駆け寄ってモブに成りすまして噂を聞く。どのみち時間がかかるものには変わりなく、数日間日に日に舞い込んでくる仕事をこなしながら隙間の時間で街に下る。

 ちょっと手暇な連中にも声をかけたりしながらブラックとマーセ、そしてあのID:EGOを追ったり白蛇の塔をどつきたい連中たちはなんやかんやでそんな風に日々を過ごし、あっという間に一週間が経った。


「違和感?」

「おう」


 ──望月亭。

 情報交換しようかと落ち合った本夜鳥羽の港側にある酒場にて、ブラックはこの一週間で出くわしたEGOに関しての違和感を口に出す。

 EGOに関する情報をぶち抜くなら当人をとっつ構えて聞けばいい、と考え仕事の合間にシミュレーターに潜りID:EGOと何度か遭遇を果たしたブラックだがどうにもこうにも最初に感じた直観とは別の、観察眼のほうがまた別の反応を示していた。


「なんかよー確かにあれは俺の知ってる動きをしてるんだが、どうにもこう……パターン? みてぇなのがあるような気がしてな」

「プリセット的な感じのか」

「そうそう。妙というかなんというか……人をモデルにしてAI組んでみましたーみてぇな、いやまじで気持ち悪いことには変わりねえんだけどよ」


 動きや手癖と思しきものは確かにあのゼロのものだ、それは間違いない。ただその組み合わせや力場の流れに人間味を感じないのだ。ミスらしいミスもしない、かといって奇抜な発想や今までしなかったような動きはしてこない。

 ゼロを偽り、成りすましをしているというには完璧すぎて。ゼロの戦闘記録を辿ってAIでも組んだのかと言っては性能が甘い。中に誰かがいることは少なからず予感はあるというものの、応答に応じたのは最初のあの一度だけ。

 戦いたいだけならば普通に戦えばいい、しかしどうにも。


「どう見る?」

「まるで作業でもしているようだな」


 話を聞いていたマーセとその契約コア、レヴィア=コアが端末片手に呟く。シミュレーター戦闘のログを出力したものだ、見せたほうが早いとデータ転送していたのだがこの勘はコアにも通じるものらしい。

 そうだ、やっぱりあれは戦いたいから戦っているのではなくて。


「あれってさ──「やーはりここにいたか、ウェルテクスのバカラス共ッ!」


 聞き馴染みのある声が会話を遮り、マーセとレヴィア、そしてブラックはまさかと振り返る。

 ちょうど日が差し込む時間帯、さながら逆光を受けて登場するヒーローのような仁王立ちに照り返す金髪。極めつけは年齢詐欺も甚だしい童顔が浮かべる「今度は何やらかす気だ正直に吐けやオラァ゛ン」と言わんばかりの顔!

 夜鳥羽諸島保安隊、本夜鳥羽支部……通称〈最前線支部フロントライン〉の支部長総大将。いざとなったらこいつに言えば大体解決するというサンデータイムも真っ青な本夜鳥羽のご当地ヒーロー、ルル=ジャッカではないか。

うーわーめんどくさいことになるなーとマーセが空笑いし、ブラックは条件反射席から立ち上がる。


「ゲェッ、出たなニチアサ勢ッ! わりぃがお前からの話はノーサンキューだ!」

「ノーサンキューだろうが何だろうが逃がすかァ!! 《グレイ・パニッシュメント》!!」

「リアルで必殺技出してくんじゃねぇーッ!!」


 これが世にいうクリーンヒット、ルルの放った飛び蹴りがブラックの背に見事に突き刺さった。背中が痛い。あまりの勢いに床に顔面からチェックインしてしまい顔も痛い、だがしかしめげない今回はわりとましだ!

 レヴィア=コアがよく分からないものを見るような目で見降ろしているが気にしないぞ、気にしていないんだからな!


「毎度思うことを言っても構わないか」

「好きにしたまえマーセくん」

「あんたらって前世で生き別れた漫才コンビか何かなのか?」

「それもありえそうなのが恐ろしい話だ。あぁそうだこいつブラックに変なこと吹き込まれていないか? こいつは非行のプレゼンが狡いからな」

「非常に申し訳ないが俺の肺はもうアウトだ。っとそうではなくてだ、どうして支部長さんが此処に」

「それはこれから話す「おぉーい、後輩よー俺がモップにされてることに関しては何かないのかぁー?」

「昨日の行動を思い返していただければ」

「神様もツンデレだなぁ! 俺結構いいことしまくってるぜ? それでこれだからきっとデレてくれれば最高にやば」

「ルル支部長おねがいしやーっす」

「よろしい、夜鳥羽のヒーローの名のもとにお願いされてあげよう」


 実にいい笑顔なルルのヒールがごりごりと音を立ててブラックの背中に刺さる。

 全くこういう時ばかり上位とりやがってあだだだだだツボが、ツボに食い込んでるいてえよ健康的だけどいてえっ!

 昨日ってなんだっけ、あぁジャリが足らなくてマーセに借りたんだった。あいつ微妙なところ現金ってか元々かなり現金なヤツだったな!


「アダダダダダッ!? すまん、すまんかったッ! 借りた金はちゃんと返すッ!!」

チップ利子

「2!」

「4、」

「畜生3でどうだ!」

「しけてんな、けどゆるす」

「ルルゥー後輩がカツアゲしてくるー」

「先輩の背を見てよく育っているじゃないか、よかったな」

「ぐうの音も出ねえ」


 じゃれ合いはさておき、ブラックはルルの手を借り立ち上がる。

 さてどうしてこんな場所に保安隊の支部長が出張ってきたのかと聞いてみれば、ある意味予想通りというかなんというか。

 つまるところいつものパターンというやつだった。


「最近どうにも嗅ぎまわっているらしいじゃないか」

「まぁ野良犬みたいなもんですし」

「皮肉はいい。確かに傭兵は情報が好きだ、分からなくはない。だがなぁ、キミが! 自主的に動いて! ろくなことになった試しがないだろう!」

「マザーグースはわりとマシだったろ?」

「それ以外を見ろそれ以外を、今まで弾いた数を数えろ」

「お前は今まで食ったパンの数を覚えてんのか」

「ブラック先輩、流石に弾代がもったいないかと」

「心配するところはそこなのかマーセくん!?」

「ってかぶっちゃけ引きます。葬儀屋が可哀そうだ」

「フォローかと思ったらただの接射とは驚いたわ」


 と、ともかく。

 白蛇の塔は保安隊の管轄、その手の圧力というか「やらかすなら事前に知らせろ」ということだ。

 一応毎回言ってはいるんだがなぁとブラックは頬を掻きながらも、出くわしたついでだと素直に情報を求めていることを告げる。そうするとルルの顔は険しさを増し、周囲にその手の人員がいないことを確認してから、声を絞り「ブラックとその弟子だから信用して言うけどな」と一押しすると、傭兵では知りえない話を切り出した。


「白蛇の塔が相当不味い実験をしているようなんだ。」

「AIの基盤に実際の人間の情報を取り込む……意識を切り離して情報化させる、延命実験だと言っていたか。ただ……リストに星の子と思しきこどもたちも【混】ざっていたらしい」

「混ざる?」

「あぁ、少し探ったら出てきたことなんだが……意識を混ぜて、精度を上げるとかなんとか。僕にその手のことは分からないが、とにかく人道的に反していることをしていることは間違いない。それにどうにも東雲グループだけじゃなく別の企業も噛んでいるようなんだ。……つまりとても不味い」

「これもう塔にハックかけてどついたほうが早いんじゃねーの?」

「キミの最短距離を行きたがる癖は時に最大被害が出るからやめような」


 ヤバい実験に、ヤバいリスト。そんでもって企業がらみ。

 ここぞとばかりに黒星の連撃に、むしろマーセのほうが「やべえなーこれやべえやつだなー生きて帰れんのかなーこれー」と顔を覆う。思えばこいつは大ごとに関わるのは初めてだったなーと他人事に思いながらもブラックは思考を回す。

 しかしどんなに回しても情報がうまくつながらない、これでもできる限り街から情報をさらった筈だがつながらない。もっと不味いことが起きてしまっているのか、それとも本当にどうしようもないことなのか。

 

『物語とは総じて手遅れなものだ、重要なのはそこから巻き返せるかということだ』

「──へ?」

 

 何かが聞こえた、ような気がした。

 気が付けばルルが端末から呼び出しを食らったらしく、慌てた様子で通信に出ている。言葉も最低限に通信を切ったルルが支部長としての顔でこちらを見た。


「きみら、今出撃できるか」

「おう」

「一応は」

「あとで報酬を出す。すぐにアセンを出してくれ」


 ごうごうと、やかましい秋風がまるで見えない怪物のように鳴く。



「──本夜鳥羽が襲撃される」



 風と時間がようやく追いついたように、区切りの時間を告げる鐘の音が鳴った。

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