6:追い食い。

「なぁブラック」

「どうしたマーセ」

「これはどうみても未成年が立ち寄ってはならない店だと思うんだが?」

「気にすんな、会員証は俺がもってるからゲスト扱いでノーマンタイだ」


 そういう問題じゃないと頭を抱えたマーセを横目に、ブラックはやれやれとため息をついた。

 夜鳥羽の市場から一本離れた飲み屋街、そこからさらに奥に進んだ場所にある地下街への入り口。地下街に入りさらに突き進んだ先にある一つの館。桃色のネオンが怪しく光る、どことなく甘美な匂いすら漂ってくる外観はつまるところ娼館である。

 人の集まるところに金が集まる、金が集まるところに情報が集まり、金回りがいい所はもちろん情報の回りもいいということだ。とはいっても今回の本命は別件のバイト、というかオーナー経由での「お手伝い」の依頼だった。

 娼館がある治安だからこそ女でも銃を持たねばならない世情、かといって事故で商品を傷つけては仕方がない。そういうわけで武器のメンテナンスを代行するバイトが存在する。便宜上バイトとはいっているがぶっちゃけただの手伝いだ。オーナーとこの館の主が旧知の仲らしくそれ経由で、といった具合である。

 たまにはアナログな仕事をするのも悪くない、ついでに情報もとれることで一石二鳥なわけだが、そのまたついでにと「新人研修ぐらいやっとけ」とマーセが半強制的に同行させられたというわけだ。

 館の裏口に回り決められた回数で扉を叩けばのぞき窓が開く。相変わらず今にも死にそうな目をしている女に向けて、ブラックは肩を竦めながらも合言葉を告げた。


「火薬庫だぜ、いつものヤツだ」

「後ろのは」

「うちの新人、手ぇ出すなよ? まだ未熟児なんでな」

「ふん、私はそこまで節操なしじゃないよ……通りな、いつもの場所だ」

 

 扉をくぐり二人の傭兵は通路の奥に向かう、すれ違う女たちが挨拶のように声をかけてくるが適当にあしらいながら進む。マーセはおっかなびっくりといった風でいかにも年相応らしい反応をしているあたり、やっぱりこいつで遊ぶときはゲーセンにしておいてやろうとブラックは心の中の分類表に振り分ける。

 今日は結構忙しい日らしいが正直どうでもいいのでさっさと倉庫で仕事を始める。

 ハンドガンやナイフといった護身用の武器を選別から始めていく単純作業の山だが、いつも通りそこまでの消耗はない。念のために持ってきた部品のスペアも最終的には余りそうだ。交わす会話もなく無言でひたすらメンテナンス作業を進めていく、金属と金属が小さく弾く音が薄暗い倉庫に響く。


「やぁ、元気にやってるかい坊主ども」

「ママン、いつも通りやってるからその声量二段階ぐらい下げてくれねぇか」

「これでも控えめよ、まったくブラックちゃんは耳が過敏なんだから」

 

 メンテナンス作業が半分を終えたころ、タイミングを見計らったかのように倉庫の扉が開いた。この娼館の主、通称ママンだ。どうにも館のほうの業務が中休みに入ったらしい……といえばまともに聞こえるだろうが、多分ママンの目的は連れてきたマーセの顔を見ることだろうなとブラックは察する。っていうか顔に書いてあるしな! ゴテゴテしたドレスでためらいもなく倉庫に突っ込んでくるあたりこの人わりと雑なんだが、人を見る目に関しては正直オーナー以上だ。

 そして趣味もちょっとあれだ。あれだけは聞いてはいけなかったのではなかろうか。

 硬直したままのマーセを現世に呼び戻しながら紹介を行うと、ママンは彼の顔を見るや否やなんともいえない顔で「まーた大変そうな子を連れ込んだねぇ」と感想を述べる。どこまでほんとにわかっているのかは分からないが、本気に見えて恐ろしい。


「あんた黒田のせがれだろう? あそこの家も災難が続くねぇ……」


 本当マジでどこまで情報掴んでんだこのバアサン。


「えっ、あの初対面だよなっていうか何も言ってないよな」

「諦めろマーセ、ママンはこういう人だ……俺の時も当てられた……」

「ひぇ……」

 

 あまりの驚きか恐怖か語彙力が消失したマーセはともかく、ママン曰く館の方は変わりないらしい。娼館ではあるが此処が行き場を失った人間の避難所としても開かれている、ここが安泰だということは街の方では特に何も起きていないのだろう。

 館の客の愚痴やドジっ子の話やらいくつかの雑談をする中でブラックはそれとなく、傭兵たちの様子を聞いてみた。やはりあのシミュレーターの化け物、EGOの噂が広まっているらしく勝てずに泣きついてくるヤツまでいるらしい。内面にハックを仕掛けたやつはいないだろうかと聞いてみると、存外意外な話がとんできた。


「EGOの中身ねぇ……あぁ確かこんな話が出てたわよ。白蛇の塔ってやつがあるだろう、医療塔の。あれはあそこの被験体なんじゃないかーってハナシ」

「えぇ、まじで? えっぐいな」

「しーかーも、そのこと教えてくれた東雲さん、あぁそこで働いてた人なんだけど……この前亡くなってねぇ、彼不味いところに踏み込んじゃったらしいのよぉ」


 可哀そうに。彼もまだまだ頑張れたろうにとママンが嘆くように言う。

それを聞いていたマーセが何か気にかかるところがあったのか、確かめるように問う。


「東雲ってあの東雲グループの?」

「そうそう。あそこの東雲さん、悠希ハルキさんっていうんだけどねぇ。になってしまった孫の子を助けるために研究してたそうでね、それも難航してたみたいだけども……あらやだ沢山しゃべっちゃったわ、二人ともこれ他言無用よぉ?」


 しまったこれは結構重い案件だ。

 星の子というのはこの夜鳥羽諸島で生まれた子供が突然死したり、理由不明の病で意識不明になったり封鎖状態が起きてしまった時にいうものだ。大抵そうなった場合八割死亡するため、その死んだ子供を星の子と呼ぶのだが。それを治す研究とはまた大掛かりな話だ。

 それだけのことができる立場の人間だったのだろう、東雲グループは基本的に家族経営の研究一家だ。家族に星の子が出たらまぁそうなるのだろう。


「お、おう。にしても星の子ねぇ……不運なやつもいるもんだな、なぁマーセ。……おい後輩どうした?」


 ふと隣を見やれば顔を真っ白にしながら顎に手を当てていた、どうしたもんかと聞いてみれば。


「…………亡くなったのが東雲悠希さん」

「だな」

「……お孫さんの名前って」

ちゃんって言っていたわね」


 答えを聞いたその瞬間、マーセが仰向けに倒れた。

 それもまたきれいに倒れこんだ、背中にリクライニングシートあるのではないかと思うほどに器用だなお前。貧血でも起こしたのかと顔を見てみれば、すでにその両手で顔を覆いその姿完膚なきまでに現実逃避のスタイル。そこまでショックか、というか知人だったらしく訊ねてみれば「生前(*アンカー化する前)のクラスメート」と枯れた声で不運を訴えた。

 

「あぁーご愁傷様」

「知らなかった……いつの間に葬儀してたんだ……身内葬だもんなそうだよな……」

「あら、お孫さんは亡くなってはいないらしいわよ」

「「うそぉ!?」」

「流石は医療の東雲グループよねぇ、一命を取り留めた状態で他の研究者が引き継ぐってお付きの方がいってたのよ」


 つまり。

 東雲グループは星の子の対処法を探す研究を白蛇の塔で行っていて、最近その血縁者がやましい空気で死亡した。別の研究か否か関係性は不明だがEGOはその塔内の被験体である疑惑が上がっていて、その疑問を投げかけたのはその死亡した東雲グループの一人。

 かみ合うようでかみ合わない、歯抜けのような情報だがとにかくEGOに関しての糸口は白蛇の塔にあるらしい。

 白蛇の塔の警備は確か保安隊だったか、あとで話を聞きに行くとしよう。

 

「ぶらっくさん」

「言わんとすることは分からなくはないが聞いてやるぜ、なんだマーセ。言いたまえよ」

「手が必要ならお手伝いするので声かけてください……」

「言ったな? よーしいいぞ、手伝わせてやる」


 ちょうど手も増えたところだし、色々と調べさせてもらおうじゃないか。

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