幕間:インターバルエリア.02

 酒が入れば誰でも饒舌になるものだ、というよりも頭の中で処理している思考が外に漏れだすともいってもいい。

 アセン乗りは基本的に水物が好きだ、酸素水で満たされるコックピットに居座る仕事のせいで安易に食べ物を口にすることも憚られるせいで、何か口が寂しいと思えば固形物の菓子よりも、水やジュース、あわよくば酒といったものに流れるしかない。だからなのかこいつらは基本的にザルでアルコール耐性も高い、そのせいか酔いつぶれるやつは中々いないのだ。よほど飲んだりしない限りは。


「オーナー、烏龍茶あります?」

「あるよ、あるある。必需品なんだよねぇ……みんな好きだから。フルーツ系行ってる子たちにはジュースね」

「はーい」

 

 冷蔵庫から冷えた茶と缶ジュースを抱えてマーセはため息をついた。

 このダメ大人共め。最年少で使い勝手がいいからって介抱係に回しやがって。ドクターペッパーでも回してやろうか。

 ぶっちゃけ冷蔵庫の半分も缶の酒だ。一応未成年であるマーセからしてみればちょっと困った状況なのだが仕方がない、肺も胃もドボドボな連中に今更気を回しても寿命が延びるわけがないのだし。っていうか未成年だろうが呑んでるやついるし今更なんだが。 

 ネモの話を聞いたその深夜、酒場としての看板を下げたギルドウェルテクスはそのまま寝静まるかと思いきや、どうにも誰かが手暇だったらしく酒盛りをはじめたようで皆やんややんやと自前の飲み物を持ち込んで、といった感じで二次会みたいなものが始まったのだ。

 休養日ということもあって普段顔を出さない面子もやってきて、ウェルテクスに寝泊まりしている傭兵や整備士しかいないおかげか情報交換会みたいなことになっている。あと大体ホラ話だったり、そんな中で面白そうな話してるなーとコアを部屋に寝かせてから顔を出したらこのざまだ。

 テーブルに戻ればどうにも傭兵生活でよくあることの話に話題が変わっていた。正直ツッコミもめんどくさくて放置したので、とりあえず耳を傾けてみることにしよう。そこのキミも見てないで、ほらほら。こっちだこっち。


◇ アセン乗りあるある


「今はいいけどさぁ、正直冬場のパイロットスーツのメンテやだ……」

「分かるー暖かいんだよなぁ、秋服買わなくて済む」

「あたしむしろここ数年服買ってないわ、最悪スーツとコートだけで半年越せる」

「いやいやいや流石に普段着ぐらい買っとけよ、冬場めんどうだぞ」

「それな、まじで困るんだわ」

「くそみてえに寒いしな」

「いや、服の着方忘れるほうで」

「人間の生き方しようぜ!?」

「冬なぁ、寒いし。寒すぎてアセンってかゴーストすら動かねえもんなぁ」

「ゴーストも冬眠するのかね」

「さぁ? でもたまーにいるらしーぞ、出てくるの」

「えっじゃあどうやって倒すんだ」

「保安隊のほうが頑張るんだってさ、いーよなー仕事独占できるんだからさー」

「そんな冬場まで働きたくない……冬眠したい……。人間なんで冬眠しないの……」

「お前は虫かよ……」



◇ 僚機申請理由


「つかこの時期企業の前哨戦に被っててミッションと実際の内容違うの多くてしんどい! アイテル社の情弱め!」

「あぁー情報収集ヘタクソ&伝達ミスのデスコンボやつー」

「こうさ、やっぱりあれって真理だよな。「妙に報酬のいい依頼は絶対に受けるな」ってやつ」

「むしろ最初から弾除けって言われてるほうが信用できるよな」

「僚機申請理由が弾除けで来た時のショックはやべえがな!」

「囮か弾除けか、どっちがましだとおもうよ」

「そこの面子の闇が深い……」

「まぁほら、うん、知ってるよ、重量級は盾でなんぼだって知ってるんだよ。でも弾除けはない……せめて防衛とかそういうかっこいい言い方して……」

「重量級なんかいろいろ重くない?」

「頭痛が痛いみたいなそういう」

「いいじゃん重量級! ドーザーとかハンマーとか質量武器持てるし! かっこいいじゃん!」

「同志よ!! いいよな重量級、手間のかかる子みたいなかんじでさぁ!」

「「ケッコンッ!」」

「因みにタンクタイプ? 二脚タイプ?」

「タンク」「二脚」

「「……」」

「離婚だバカヤローッ!!」「てめーなんか同志じゃねえわ邪教めーッ!!」

「おーい、またタンク二脚戦争はじめてんぞあそこー」

「宗教戦争って醜いわね、人は業を繰り返す……」

「火種ぶち込んだのお前だからな?」



◇ 疲れてるなって思ったとき


「朝確認したら見覚えのないアセンの仮組データがあったときだな」

「内容サッパリな上に目的もよく分かんねーやつだそれ、見た目グロくなってたりとかさ」

「あるある。あと深夜に突然データ組み始めてテンションおかしくなったときとか」

「深夜テンションで踊りだすパリピかよ……」

「はい! 俺わりとコックピットで寝落ちしてます! 見かけたら起こして!」

「やだ。めんどくさい」「辛辣ッ」

「寝落ちはないけどコックピットでチューニングしてたら二時間経ってたことはあるわ」

「そもそもハンガーが居心地よすぎるんだよなぁ」

「あとはーあー……シュミレーション訓練の時に誤パージするとこころがしんどい」

「分かりみが強すぎて涙出てくるわそれ」

「エイムのあれが見える」

「ゲームやりすぎて幻覚見えるみたいな」

「むしろ視界の右上あたりにマップ表示ほしい……」

「あれ便利だよな……わかる……」

「気が付いたら無呼吸状態だったのが最近のマイベスト」

「人間的に死ぬから呼吸ぐらいしとけ!?」

「酸素水らくだもんな、うん」

「ぼく来世があったらサカナになりたい、それかクラゲ」

「えぇ……? みんななんかマジで色々だなぁ、お前は?」

「冷蔵庫にグロック自動拳銃が冷えてた時かな……」

「タッパーだけどタッパーガンは冷やしても食えねえよ!!」

「ぶっふ、食うって、食うって」

「なんでそこツボってんだよ!? 俺が銃食う偏食者みてえに聞こえるじゃねえか!」

「おまえちょっと、だまろ? やばい腹筋ヤバい、台詞吐くだけで腹筋壊す男とかやばいやばい」

「これみんな疲れてるのでは……?」

「それな」



◇ もの申す。(虫苦手な方いたらごめんね)


「俺さ、ここに来てまだ数か月ちょっとだけど言いたいことがあるんだ」

「そうか。いいぞマーセ、このエラお姉さんが聞いてあげるから言ってみるといい」

「食用とはいえ!! 俺に!! モグラムシボッカブリの天ぷらを注文してくるのは控えてほしい!!」

「顔に出すほどか……!」

「美味しいじゃねぇかモグラムシ、お前もくったことぐらいあるだろ?」

「ないわ!! 泊木じゃ知らないおっさんと同じようなもんだったんだぞ!? ってあれいつの間にブラックもいたのか」

「わりと前からいたぞー、いやーそっかお前なんだかんだいってイイトコのやつだったもんなぁ~? へっへっへ……実はここにな」

「おっとブラック何をする気だ」

「そう警戒すんなって、実はこの前バイトで貰った押し付けられたイナゴの佃煮がな、そこでずっとスパーキングしててな」

「ワーパワハラダー」

「大丈夫それ生きてない?」

「死んでる死んでる、火通してるし死んでなきゃ怖いわ」

「露骨に死骸の虫を強調しないで……」

「とかいいながらも箸伸ばしてるあたりマーセってリアクション芸人向いてるよな」

「もうネタでもいいからなんか派手に生きないともったいないかなって」

「寿命の半分すぎてるもんなー、で、どーよ味は」

「……俺これ案外好きかもしれない」

「おーっと熱い手のひら返しだー!? え、まじで、まじで?」

「ただの食わず嫌いだったかー、あれじゃあモグラムシいけんじゃね」

「それはやだ」

「やっぱり食わず嫌いだこれ!!」



◇ アンカーとノーマルの違い。


「こうして話しててもぶっちゃけ俺ら変わんないよなぁ、違和感ないし」

「慣れただけかもしれないがな、私もお前らも」

「あーあるかも。ボク初対面の時ぜんっぜん顔読めなかったもん、今じゃ結構普通だけどさ」

「人より少しバッサリしてるってか物事の縦分けうまい程度だもんな。あとアセンの動きがあたまおかしい」

「そこらへん未だによく分からないんだけどよーそこまで変な動きしてるかー?」

「変な動き筆頭の人がなんかいってるよ。普通あんな急カーブなんてしませんからね!? あんな乱高下したら死にますからね!?」

「自主的脳みそコネコネ的な動き的なヤバさ感じる」

「アドレナリンどばどばでてるから分かんねーや」

「ノリにノルと直観操作で何も考えてなかったりするしな、分かる分かる」

「こういってこう! みたいなやつだよなー面白いぐらい言葉が見つからない伝達力がない……」

「語彙力ェ……」

「だがノーマルでも変人はいるだろう、それと大して変わらん」

「そういやそうだな、保安隊の支部長とかそれだわ」

「あぁ、あのリアルスーパーヒーロー。そういやあれノーマルだったっけ、忘れてた」

「……やっぱ大して変わんねーな?」

「とはいうものの、アンカー側もノーマル側も人付き合いを覚えたということもさもありなん」

「じゃあむしろ、ボクたちは上手い方向に進化したって感じでもあるのでしょうか」

「てか、学習した感じじゃね?」

「同じ屋根の下で同じ樽の水呑んでたらそらな」

「だよなーてかアセンとかどのみち個人個人のセンスと技量だしな、やっぱ関係ないんだよなぁ」

「精進あるのみというやつだな」

「でももうちょっと手を抜いてもいいのよ?」

「きみはもっと出しゃばっていいんやで?」

「オーナー、ガミちゃんとアカネがまた取っ組み合いはじめたー」

「今日ぐらい仲良くなさーい、オーナー命令よぉー」

「「はぁーい」」

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