幕間:インターバルエリア.01

「そういえば、あの日なぜレヴィアはすっとんできたんだ」


 ようやく精神的に落ち着いたある日の昼下がり、ガレージにてレヴィア・スカルのオーバーホールを眺めていたマーセは、ちょうどそこにいたブラックに対して率直な疑問を投げた。あの時は生きるか死ぬかでいっぱいいっぱいで、見ている余裕も考える余裕もなかった。

 そもそも疑問に思う心の余裕もなかったのだが、それはさておいて。


 なぜ、あの日都合よくレヴィア・スカルがあの場所にやってきたのか。

 なぜ、ブラックがレヴィア・スカルに執着していたのか。


 そういう疑問がようやく息を吹き返す。


「ヨブシリーズのアセンってのは不気味なほど奇妙でな、持ち主を勝手に決めるんだよ」

「……システム的な話じゃあないんだな」

「分かってきてるじゃねえか」


 鉄柵に肘をつきながら、せせら笑うように口角を釣り上げたブラックは語る。

 そもそも、発掘品の骨董アセンは機械的な言い訳や都合が全く通用しないのが常識なのだそうだ。どちらかといえばそれは生物に近いものであり、それだけ内部の構造が緻密に制御されているともいえる。発展しすぎた化学は魔法と区別がつかない、というのと同じものであってむしろ緻密すぎて何が起きているのか、何がプログラミングされているのかが謎なのだ。

 

「噂によりゃ、血族の反応を追ってやってくるとかどうとか言われてるが詳細は定かじゃねえ。俺が引き上げたこいつレヴィアも、同じだろうよ」

「確かブラックが見つけたんだったな」

「おう、俺がみつけたんだ。が……」


 海底でレヴィア・スカルを見つけたブラックは意気揚々とそれを港まで引き上げ、夜鳥羽港にいったんおいていたそうだ。それもたった二日だけだが、一度全身を点検して中身が扱える代物かスキャンする必要があったのだ。

 だが、残念なことに全ての清掃が終わったころ、つまりスキャンを行うその寸前で「」。

 信じられないような話だが真実である。

 

「人型アセンの形をしたゴーストなら不味いって話でな、一応一時所持者の責任で泊木に忍び込んでたわけよ。そん時だわ、お前の勧誘を頼まれたのは」

「ルル、だよな」

「そーそーあのヒーロー野郎、あいつアンカーじゃねえのに乗ってる機体ヨブの一種なんだぜ。笑っちまうよな」

「対価の存在意義が崩れないかそれ」

「逆だ逆、「アンカー」になれねぇことが対価なんだってよ。一生凡人でいろってさ」

「それはそれでひどい……」


 ブラックが引き上げたレヴィア・スカルは何の因果かマーセのもとに駆け付けた。


「俺たちが恩恵にあずかってるこのアセンは、ただの機械の塊じゃねえんだろうよ」

「中身も、全くわかってないしな」

「あぁ、現時点でサッパリだ。俺たちが知ってるのはこいつらの餌とこいつらの効率的な動かし方、そんだけだ」


 皮肉なもんだ、人間が作ったはずの機械を同じ人間でも解読できないのだから。


「分かっていないのはゴーストもそうなんだけどねぇ」


 オーナーさんがいつの間にか作業場から出てきていたらしい、肩を回しながらため息まじりにこちらに歩いてきていた。先ほどまでの会話は全部聞いていたらしい、まぁ聞かれて困る話ではないが。

 それにゴーストもまた「何もわかっていない」の一句だけで話が付いてしまうのだし。マーセが知っていることも以前既述したように、海からはい出てくる定期的に島を荒らす天災、正直本当に知っている情報はそれだけだ。

 今の立場となってはそのことに疑問を持って企業のデータを見たり漁ったりしたが、残念なことに今知っている情報以上の情報は得られなかった。


「公式見解も「人為災害」の一言だけ、過去の遺物が眠りっぱなしのこの海で何かの原因でバグって出てきた暴走機体ってだけだからねぇ」

「研究はされていないのか?」

「してるだろうさ、でも僕たちには何一つ伝えられていない。「知るな」ってことなのかもね──ブラックはどう思っているんだい」


「あー……まぁ、妥当に長年放置されたAIが今の主力エネルギー「ヒガサ調音」の毒電波にやられてトチくるって襲ってきてるって話じゃねえかと俺は思ってる」


 ヒガサ調音と呼ばれているエネルギー、すなわち音波による力はその名の通り音と反響その波によって作り出されるものだ。火力でもなく水力でもなく、音。ヒガサと呼ばれる研究者が発見し技術を確立したことで普及した「波動エネルギー」。

 それが今の世界を回している、むしろこのヒガサ調音がなければ今ほどアセンは普及しなかったとすら言われている。

 しかしそれもヒサガ調音を使うことを前提とした機材を相手にした時だけ、対応していない旧機体たちはとにかくその手の波動エネルギーには弱いとされている。

 そこから先はご想像の通り、というわけだ。

 真実は闇の中、海底の底である。


「何にもわかってない機体で、何かも分からない敵と戦って、金を稼ぐ。小説家が聞いたら卒倒するかもな、雑すぎる! ってよ」

「でも知る必要もないだろ、最悪戦えればそれでいい」


 マーセは、というよりもギルド全体の傭兵も大体そう思っているとオーナーが苦笑いする。謎なんてほったらかし、そういうのは頭がいいひとか主人公がするべきだ。生憎俺たちは主人公じゃない、ただの一般人だから知らなくてもいい真実は知らないまま放置する。

 知っていて不具合の起こる情報じゃ後に引けなくなるじゃないか。

 

「「俺たちは傭兵だからな」」


 ブラックとマーセの言葉が偶然にもかみ合った。


「まったく、きみたちに探求心ってものはないのかい?」

「とうの昔にそれで自爆したからそんなもん捨てたぜ」


 ケラケラとブラックが笑いながら、「まぁでも、そうだなぁ。新人にアドバイスぐらいはしてやるか」と気まぐれに。





 だから雑だよと言われるんだって、というオーナーのボヤキは聞かなかったことにしよう。

 

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