第2節 幽霊船は楽土を目指す。

4:海底二万、鯨の小言。

 護衛開始から一日目。

 潜水艦ラハブは大型の括りに入る長距離航行のための船らしく、基礎中の基礎しかのこっていない兵装ぐらいしか残っていなかった。

 まぁ随分と長く潜航しつづけているという話なので色々と物はなくなりぎみのようだった。

 船長さんとの話し合いの結果、このラハブの向かう目的地が随分近くまで来ているらしく、そのさい地上に上がる為そこまでの護衛ということになった。

 自分も家に帰れてそこまでの寝床も確保されて、ついでにイデアさんと少しの間だけでも一緒にいることができるというわけで一石二鳥どころか一石三鳥、貴重な体験も含めてみればこれいじょうのない面白い依頼である。


「全部の機材と設備が全自動化されてるって……伝説級の遺産の塊じゃねえか」

「我としてもこのように大きな欠損もなく現存しているものは初めて見た、まさしく伝説の船だな」


 前略、ネモとカラドは下見として称して潜水艦ラハブの現存設備を見て回っていた。

 ごくわずかな時間とはいえ自らの半身を預ける場所、何があるか分からないので中身の把握は怠ることは出来ない。とはいっても、武装がすこし心伴い以外はまったくもって驚かされるばかりのものだったのだが。

 正直言って、八割ぐらいよくわからなかったのだ。

 真っ先に覗きに行ったエンジンルームは自分たちの知っている機構とは全く別の形をしていたし、船長さん曰く半永久機関だとかなんとか。制御室やらその他もろもろ、素人が入ってまだ大丈夫そうなところは大方見て回ったはずなのだが、一番驚いたのは「人がいない」ということだった。


「楽土を目指し、鉄の箱舟に任せ眠りの中で再会を待つ……か。なんとも夢見がちな発想だ」


 カラドのぼやきも宛ら、大体ネモも同意見だ。

 船員らしい船員はおらず、イデアと船長をのぞいてすべての人員は冷凍カプセルの中で眠っているらしい。機材のメンテナンスは機材が行い、人の匂いという匂いすらしない。長距離を移動する最大限の効率の良さ、らしいがネモにはそのあたりはよくわからなかった。

 青白いライトに照らされた廊下をこつこつと二人分の足音だけが響いていく、扉という扉があまりないおかげでブロックの把握が少し難しい。


「お、主、主、バーがあるぞ」

「ん……あっ本当だ。人……じゃねえな、AIか」


 ここの区域は遊戯室になるらしい、つるりとしたテーブルカウンターとそれを囲む棚に並んでいるボトル、カウンターの中には女性のバーメイドらしい服装をした人物が立っていた。


「いらっしゃいませ。護衛のネモさんとカラドリウスさんですね、こちらサービスバーとなります。ご注文をどうぞ」

「サイダーを所望する」

「あー俺今は水もんはいいや、お前さんも喋れるタイプなんだな」

「はい、わたしはバーメイドとセラピスト……お客様のお話相手としての人格を保持しているのでおしゃべりできます、メイさんとお呼びください」


 まるで人間にしか見えないが、匂いがしないのはどうにも不思議なものだ。

 カラドがサイダー貰ってご満悦そうにしているのでまぁいいか。


「メイさんはセラピAIも兼ねてるって言ったが、ここ人いないし暇じゃないのか?」

「んー暇ではありますが退屈はしてはいません、イデアちゃんがいますからね。そういえば今日は来ていませんね」

「さっき戦闘訓練してたから寝てるかもしんねぇわ、なんかわるいな」

「いえいいんです、イデアちゃんには教えてくれる人がずっと必要でしたから……ありがとうございます」

「いいさ別に、俺が好きでやってることだからな」


 イデアさんの戦闘訓練、といっても機体の修繕が終わるまではシュミレーターでのものだったが一度どの程度のものかを見てきたのだが……。


「にしても小娘に戦いを見せていた先人──エイドスだったか? やつは一体どんな戦いをしていたのだ、まるで合っていなかったではないか」


 イデアといえばとカラドは辛辣ながらに肩を竦める。

 ……シミュレーションにおいての基礎は確かにできていた、基本は抑えているのは確かだろう。だがそれ以上に大きな問題がいくつか存在しているのもまた確かだった。

 まず、機体のチューニングが本人にあっていなかった。アンカーではないにしろ機体の調整、主に内蔵に関する部分は個人個人で合わせなければいけない部分。初心者だということも踏まえてもあまりにもずれすぎていた、正直あれでよくあのアセンを動かせたなと。次に戦闘手法とアセンの動きの違い、イデア本人の手腕を見る限り彼女はパワータイプだ。だが反対にアセンはスピード型、噛みあうはずがない。


 ……まぁそれでも動かせたんだから凄いんだけれども。


 型を合わせたアセンを渡せば、すさまじい勢いで化けそうな気がしないでもない。次のシミュレーター訓練の時にスピードとパワーの中間型のアセンを組んで渡してみるか。

 いやでもほんとなんでそんな子戦場に出したの? 鬼なの? 鬼教官なの? 


「エイドスさんは戦うことに関しては天才でしたが、教えることには向いていないとずっと言っていました。……やはりそうでしたか」

「何度か話で聞いたけどよ、エイドスさんって一体なんなんだ?」

「この船の防衛隊を率いていた方です、昔はこの船も防衛隊によって守られていたんですよ」

「へぇ……今はいないのか?」

「以前大規模な襲撃にあってしまって、その時に」

「あー……」


 つまり、イデアさんがアセンに乗って飛び出したのはそういうことらしい。

 人気のない船、一人だけ人間のイデアがまだ人間らしいのは日が浅いから。この船、静かな割には結構危機的な状況のようだ。


「今はステルスと妨害電波のみで潜航しているので、あなたが来てくださって本当に安心しました。船長もそういっていました」

「単なる事故だったんだけどなぁ、ま、役に立てるってんなら悪い気はしねえや。日の座礁までだがよろしく」

「えぇ、こちらこそ」


 無線から音が鳴る、仕掛けておいた索敵SENTが魚影を捉えたようだ。


「主」

「あぁ」


 仕事の時間だ。

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