10:瓦礫の海峡、眠る影。

 夜鳥羽海域と呼ばれるこの周囲の海は主に深海層に大きな海流がたれ込んでいる、

この海域自体旧大陸──海に沈む以前に存在していた国などを指す──の遺産が多く眠りについていることも相まって、旧遺産を糧にしてやってくるともいわれるゴーストはともかく、生産プラントの関係で造られながらも眠っているアセンや武装、その他もろもろを含めて様々な遺物がここにはある。

 それを求めて発掘屋、いわゆるトレジャーハンターたちはこぞってこの夜鳥羽の海に挑むのだ。

 しかしゴーストたちの巣窟、または通り道にぶつかることも多い。だからこそ傭兵という存在が必要となってくる。戦いと防衛のエキスパート、アセンはそもそもが工業補佐の為……トラックやショベルカーと同じような理由で生まれたものだと教わった。それゆえトレジャーハントの護衛役もといガレキ対処の手伝いにはうってつけの人材になる。

 そういうわけで遺産の扱いは業種それぞれだが、傭兵が必要とされる理由にはこの海域も深く関わっているというわけだ。

 

《と、前アンカーが話していた》

「前のアンカーも傭兵だったのか」

《あぁ、そうだったと記憶している》


 水没施設調査隊護衛の依頼にエントリーを行った翌日、マーセと調整を終えたレヴィア・スカルは夜鳥羽港から指定されたポイントに向けて海上を駆けていた。

 集合場所はそう遠いものではない、街から近いのであれば輸送機を使うよりもアセンでじかに飛んで行った方が安上がりだし速いのだ。

 このレヴィア・スカルが海中戦をコンセプトに作られた機体で本当に良かったとマーセは思う、コンセプトがそうなだけあって海を走るエネルギー効率はただのアセンの比ではない。

 海をただ走るのもちょっと暇なので、レヴィアタン=コアに「依頼人の発掘屋って何?」と昔話を聞かせてもらっていたのが現状だ。

 コアはどうにもアセンの心臓部にコックピットがあるようで、今現在マーセからはその姿は見えず頭に装着された端末と音声にのみそれを認識している。戦闘が始まるまでは特に処理はないらしいので、それまで限定のオペレーターということになるらしい。

 ようやくらしいパイロットスーツに身を包んだマーセといい、中古とはいえ正規品の武装に身を包んだアセンといい。形だけは十分に傭兵の形だ。


『おおーい、そこの真っ黒骨アセンー。護衛依頼のならこっちこっちー』


 ポイントに近づいたところで無線が飛んできた。

 ガレキの山に作られた停留場に立っているのはオレンジ色をキーカラーにしたぱっと見工業アセンにも見えなくもない、人型のアセンが器用に手を振っていた。どっしりとした重量感のある装甲と一見では見間違えるであろう隠し逆間接という変わった脚部パーツ、すぐさま松芭蕉社系の部品で固めてるなと見抜くことができる。

 肩には猫のようなモチーフのエンブレムが張られていた。


「エントリーしたレヴィア・スカルだ、よろしく頼む」

『同じくエントリーのチシャだよ、機体名ね。よろしくー』


 ゴツイ見た目から相反して女の子の声と思しきものが無線からすっ飛んでくるのは聊か不思議なものだが、多分そのうち慣れるんだろうなと肩を竦める。

 チシャはマーセが今回初仕事だということは知っているらしく、『分かんないとこあったらすぐ聞いてねー』と言ってくれる。あんまり気張りすぎずにとコアにも言われている以上、先輩らしい先輩がいることは本当にありがたい。


『もしかしてキミ、アンカー?』

「あぁ、そうらしい」

『やっぱり! 動きが生々しいと思ったらそうかーアンカーかー! 頼りにしてもいい?』

「いやそれは流石に……」

『あはは、だよねぇ。おっと時間だ、ちゃっちゃといこうか』


 ミッション開始だ。


 ◇


 調査隊の潜水艦に随行し、小型のゴーストを追い払いながら周囲の状況を確認していく。それが今回の任務内容でありそれ以上のことはない、小型のゴーストといっても群れでくることはなくその殆どが逸れだ。

 数が多くても一塊で五匹から十匹、初陣を考えれば大した数ではない。だからこそ。


『そっちいったよ!』

「了解!」


 レヴィア・スカルの動きをつかむにはうってつけだ。

 SENTの寄越す偵察情報と目視による確認からマーセは操縦桿を握り直し、レヴィア・スカルを流れるように泳がせる。水中であることから緩い重力のように感じ取れる空間は、最低限の推進だけで随分と滑るように突き進む。無重力という程ではないが力加減を気にしなければとんでもない方向に飛んで行ってしまう。

 それにさえ気を付ければ簡単な話だ。

 水の中に道が見える、実際に道があるわけじゃあない。ただそう跳ぶべき航路がマーセには見えていた。僅かな水の流れが光の反射しているだけじゃあない「乗り手の勘」が、今はハッキリと目に見えて捉えることができる。道を行きすがらにレイピアを抜き払い構えを取る、一直線で、最短に。


「──捕まえた」

 

 小回りの利く小型ゴーストであっても、レヴィア・スカルの速度からは逃げられない。レイピアが小型ゴーストのど真ん中を貫く、ボガンッという鈍い音と気泡の束が溢れ、動かなくなったゴーストからレイピアを引き抜き残りの残骸は回収網にかけて海中拠点の方向に放り投げた。

 本来ならゴースト戦には色々と気を付けなければいけないことがあるのだが、これぐらいの小さな敵なら細かい話も気にせずに殴れば終わる。

 後方に待機していた回収組がそれを拾いに向かってくれるので細かいことは気にしない。ゴーストとはいっても内部パーツは今でも通用するものが多い上に貴重な資源だ、トレジャーハンターたちの小銭稼ぎといったところか。


 さぁもたもたとはしていられない。


 海中に大きな敵影を知らせる音が鳴る、索敵SENTが反応したということはゴーストだ。まぁ少々大きすぎるのだが、これはどう考えてもアセンと同じぐらいの大きさがある。大型……じゃなくて、中型か。

 どうやらここら一体の小型の長といったところらしい。

 

『おっとこれは大物の予感、ルーキー! いける?』

「もちろんだ!」

『オッケー! トレハンの皆気を付けといてねー』

『おうさぁー! 派手に獲ってこい!!』


 発掘屋の商売人根性はともかく。

 

《行こう》

「あぁ」


 意識を集中させる、湧きあがる空気と熱が海水の冷たさに眠りかけていた精神を叩き起こす。

 中型ゴーストはまるで泥でも被ったかのような色合いの黒いなにかが付着した、四肢型のアセンが基盤になっているようだ。赤いアイライトがこちらを睨むように光ると、背負っていたらしいブレードをそれは構えた。

 鉄塊のように見ただけでも相当の重量があると分かるブレードを持ちながらも、ゴーストがこちらに突っ込んでくる。


『先行するよ、隙見て殴って!』


 チシャのアセンがゴーストの進行する道に大きく立ちふさがった。レヴィア・スカルはその上へと跳び上がり背後へと機動を取る、その傍らゴーストは止まらずブレードを叩き付けるが、チシャは想像以上の速度でそれを避けて見せた。

 深海に照る照明塔の光がアセンを影取るように浮き彫りにする、散るのは火花ではなく衝撃と気泡の白い花だ。

 ぐるりと宙返りをするようにレヴィア・スカルは跳ぶ。

 右手にはレイピア、肩にはSENT、左手はフリー、ハンガーには実弾銃。ブーストは十分、推進剤は腐るほど余ってる!


「ッ喰らえェええええ!!」


 ぐるり、世界がもう一度反転する。重力の誘導するがままレヴィア・スカルはレイピアと共に直下、ゴーストへ向けて流れ落ち──着弾。

 衝撃、輪のように気泡の花が咲き乱れる。レイピアがゴーストの脊髄のような機構に喰い刺さる、さながらナマモノ、刃は折れることを知らない。聞こえる『グッジョブ!』に親指立てる暇もなくそのままゴーストを押し込み海下のガレキ底まで叩き付ける、衝撃がコックピットを揺らすかと思ったが案外そうでもない。

 鉄の地面に縫い付けられたゴーストがまたこちらを睨み、その両手でレヴィア・スカルの肩を掴んでくる。恐ろしい圧力だ、このままでは肩ごと潰される。


「こいつ……ッ!」

《マスター、パージだ》

「分かってる!」


 肩パーツを自主的に破棄……パージを行う、バキリと大きな衝撃が走りゴーストの手はただの鉄塊と化した装甲を砕くだけだった。

 それと同時レヴィア・スカルは蹴り上げを決め海中へとその身を投げ出す、縫い付けられたゴーストは起き上がるに時間は掛かるはずだ。

 その大きな隙を、逃すわけもなく。


「チシャ!」

『オーケイ! 先輩に任せちゃいなァ!!』  


 上位置で待機していたチシャがその鈍重な拳を煌かせ……そして一直線に靡く流星のように──奔る。



《眠れ、安らかに》



 鉄地面が抉れる衝力は、ゴーストを眠らせるには十分すぎる質量の花を生み出した。

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