7:たとえ、よくある話だとしても。

 山の麓、ほんのわずかに生える木々に紛れるように三機のアセンは着地した。生まれながら泊木区から出たことがない少年には、レーダー画面には周囲とは違うマップが表示されてしまっていることもあり、この場所が一体どこなのかも把握できていなかった。

 接続端子を外し少年は恐る恐るにコックピットを出る、夕暮れの光がひどく眩しい。

 地面に降りると、レーヴァン・アートの足部分に寄りかかって欠伸をしていた青年が「よう、おつかれさん」とにやっと柄の悪そうな笑みを見せた。


「しばらく待ってろ、プルタブのおっさんが今輸送機呼んでっから」

「……」

「おうどうしたルーキー、聞きてえことがあるなら言えよ」


 東洋人じゃねえんだから、と青年は自身の頭を指で突いて見せる。

 確かに、青年はボサボサで毛質がいかにも硬そうな灰髪に白い肌、蒼い瞳と明らかに少年とは全く違う人種であることが窺えるが。多分言っていることはそうではなく、東洋人みたいに察しが効かないということなのだと即座に把握する。

 

「助けてもらった身で聞くのも失礼かと思ったんだがさ、何が目的なんだ? なんであそこにいると知っていた?」

「目的はお前の勧誘、なんで知ってたかは……ちょっとした筋から情報を拾ってな。つーか、なんだぁ、お前のアセン……レヴィアだっけか、そいつを大陸に持ってかれたくなかったんだよ」

「そんなにひどいところなのか?」

「それもそうだが、そいつを発掘したの俺だからな」


 発掘? と首をかしげたところで青年は「さて本題だ」とこちらへ向き直った。


「降りる気はねえか」

「レヴィアからか」

「そうだ」


 青年はジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、答えを待っているようだった。ポケットの中身は、何となくだが予想ができる。降りろ、ということは機体からだけではないということか。


「断る、レヴィアを手放すのは俺が死んでからだ」

 

 随分愉快だったらしく、青年は噴き出すことも堪えることもなくその口角を吊り上げ笑った。


「かははッ! 機体もあれなら選んだパイロットもってか? 真面目ぶって損したぜ、おめぇやっぱこっち側だよ」

「どういう意味だ?」

「乗り続けるって意味はそういう道に来るって言ってるようなもんだろうが、ま、いいぜ。思った通りだ」


 ばらばらと空気が揺れる音がする、空を見やれば無骨な形をした輸送機がこちらに向かってきているのが見えた。

 その紅の空を背に、青年は灰髪を風に揺らしながら輸送機に向けて手を振った。


「お前、名は?」


 ふと、そうだと青年は振り向かずに問う。

 少年は少し悩んだ。

 弥平と名乗る自信がもう自分のどこにも存在しなくなった。全てが過去になってしまったようにその自覚さえもどこにもなくなってしまった今、少年は一体何者だと名乗ればいいのだろうか。

 風に揺れて、ちろりと胸元のドッグタグとリングが鳴る。夕暮れの光に染まるレヴィア・スカルは、一周回って美しく。

 これからどうなるのか。

 青年の言動や立ち姿から、大体のことは予想ついていた。

 保安隊以外でアセンを有すことができるのは軍事企業と、企業と契約を行い仕事を行うもう一つの役柄。


「……マーセナリー」


 傭兵。

 勧誘というのはそういうことで、今の自分が生き残るにはこの道しかない。

 選択に余地はない。

 

「──マーセでいい」

 

 ならば迷う必要だってないはずだ。

 過去は、もう過去だ。

 進み続けるに今は名前何てどうだっていい。

 死にたくはない、だから。 

 生きていくことを選んだのならば、これはきっと必然で当然だ。


「オーケー。改めて名乗るが俺はブラック=モア、マーセ、お前を傭兵の世界に案内してやるよ」



 レーヴァン=アートを手繰るブラックは、まるで地獄の門番のようにそう告げた。

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