11-2 縁談持ち込み阻止作戦
「貸してくれないか?」
「は!?」
会食冒頭、いきなりの爆弾発言に要は面食らった。思わず素っ頓狂な声が口から出てしまう。
「要兄、落ち着いて」
「義姉さん、それじゃあ伝わらないよ。俺から話す」
たまらずそれぞれの脇に座っていた雫と大介が二人を制止する。要と遙華が深呼吸をし、息を落ち着けたのを見計らって大介が口を開いた。
「実は、ハネムーンついでに外国での仕事に取り掛かっていた両親が、近く久方ぶりに帰国することになりまして」
ふむ。と要は頷いた。雫も大きな瞳で大介を見つめ、一言一句聞き逃さまいとしている。
「と、言いますのも。一週間後に俺が十五歳の誕生日を迎えるのです」
「おめでとう」
要は顔を崩さず、雫はかすかに口角を上げて祝いの言葉を述べた。しかしそこで、大介は端正な顔を歪ませた。
「本来ならば嬉しいことなのですが、今回に限っては問題がありまして。両親、特に父が。縁談を持って来ると言っているのです」
要は思わず顔をしかめた。なんとなくコトの背景が見えてきた。つまりは。
「アレか。大介君。君はその縁談を」
「ええ、穏便にお断りしたいのです」
思わず口を挟んでしまうが、大介は至極明瞭に解答を差し出してきた。すると、今度は雫が割って入る。
「言いたいことは分かったけど、なんでそこで私の貸し借りになるの?」
真っ当な疑問だ。雫は確かに要に保護されているし、彼女にもあたる。しかし雫は雫で一人の人間だし、彼女の意志は尊重されるべきである。
「…………」
そこで大介に間が出来た。しばらく大人しくしていた遙華が口の形だけで何かを問いかけたが、それに対して彼は首を振る。そして改めて頭を下げた。
「姉と相談しました。俺はまだ、女性との『そういった』深い関わりを持ったことがありません。なのに、縁談を差し出されても困るし、結果的に一人に縛られそうで怖い。そう言いました」
「私が悪いんだ」
すかさず遥華が割って入った。大介と同様に、深く頭を下げる。
「私が提案した。『だったら、一時的に恋人役を誰かに手伝ってもらおう。それなら、きっとどうにかなる』と」
「俺も同意したんです。で、どうせなら気心の知れた人が良かったから……」
要はそこで二人を止めた。静かに、言葉の後を引き取る。
「家庭教師である雫に頼み込もうとした。二人だけで決めるのは恐らく筋が通らないし、俺が反対したらコトが成立しないから、俺も呼んだ。そういうことだな?」
はい。と二人が頷いた。要は嘆息し、豪華に設えられた椅子に背を預けた。机上に置かれた時は湯気を立てていた食事も、すっかり冷めてしまっている。
「雫。お前の好きにしろ。無責任極まりない気もするが、俺にはこれしか言えない」そのまま要は口を開いた。本来なら自分が決めてやるべきなのだろう。彼氏として、保護者としてきっぱりと断っても良かった。だが本来は雫の問題であり、その過程において先方は要にも義理を通した。ならば、道を開いてやる方がいい。そう考えた。
要はそのまま食事に取り掛かった。「温め直すか?」という目で遙華が見ていた。しかし要は「今は雫を見ろ」と視線を送り返した。冷め切ってはいたが、中まで旨味が染みており、それほど問題はなかった。
「……要兄。遙華さん。そして、大介君」
暫く沈思黙考していた雫が、ようやく重い口を開いた。その瞳に覚悟が灯っていたのを、要は見逃さなかった。
「お二人のその依頼、引き受けます。ただし」
硬い口調の言葉。そこに含まれた逆接に、向かいの二人の身体が、僅かに震える。だが、そこで雫は笑顔を見せた。悪戯っぽい口調で、首を傾げて。
「お給金は弾んで下さいね?」
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