3-2 じゃあ、私は?
「いや、うん。確かに車内で『旧友とかいるかもね』とか、そんな話はしたさ。だけど本当にフラグと思うかい?」
「思わないけど……。びっくりした」
屋敷のやたらと広い豪華な居間に通され、ソファに座って待つように言いつけられた二人。最初こそ部屋の豪華ぶりやソファの柔らかさに目を引かれたものの、十五分程もすれば当然手持ち無沙汰になるのであった。自然と話題は先刻の人物のそれへと変わっていく。
「で、誰なの? さっき出迎えに来たあの人」
即席で購入したリクルートスーツに身を包む本日の雫は、髪も社会人らしく後頭部で綺麗に纏め上げていた。そんな彼女が、小首を傾げながら要に問う。その声色には、やや険があった。
「……。
「うん……。じゃあ、私は?」
彼女の声から険が取れた。だが危地は続く。少しだけ、にじり寄られる。僅かに上目遣い。要は高い天井を仰ぎつつ、言葉を選んだ。
「従姉妹。昔からの付き合いの妹分。同居人」
そこで要は言葉を切り、雫を直視した。上目遣いはまだ解けていない。足りないようだ。故に、もう一つ言葉を繋ぐ。
「そして、今はいないと困る。助かってる。大事な人」
「要兄……」
感極まったのか、雫がもう一歩距離を詰めてきた。顔が近い。目が潤んでいる。
「ちょ、雫さん? ここ人の家……」
更に顔が近くなる。その顔立ちはやはり整っている。ああ、可愛い。美人。いや、そうじゃない。早く切り抜けないと大惨事が……。要は脳内がグルグルとかき回されているのを実感する。その時だった。
コンコン。
それは本当に救いだったのか。二人は素早く元の位置へと立ち戻る。そして、先程出迎えに現れたやや肌黒の短髪少女――山本遙華と、それに連れられた少年が部屋に入ってきた。全ての空気は、瞬く間に正常に戻されたのであった。
「……。なんでお前がここに居るんだよ。なに? 『お前、本当は金持ちの隠し子だったんだよ!』ってか?」
「違う。ウチのお袋。お前も知ってるだろうが」
「あー……。色んな意味で豪快な人だったな……。良く覚えている」
結果から言えば、顔合わせと契約の確認自体はつつがなく終了した。雫と少年(大介というらしい)は早速部屋で初授業に取り掛かることとなり。やたら広い居間には要と遙華だけが取り残された。
「お茶……入れて来る」
「おう……」
あまりにぎこちない会話だった。無理もない。かれこれ一年ぶりの再会だった。しかも、想定外の。
「お待たせ……」
「すまんな、やまも」
「今は
「そうか。しかしその格好すると変わるな。馬子にも衣装か」
会話のきっかけを探しながら、要は差し出された紅茶に口をつけた。種類とかそういうのには興味が無い。ただ、『美味いな』と要は思った。
「うるさい。仕方ないだろ。Tシャツとジーパンじゃ体裁悪いって言われるんだから」
「中学の時も思ったもんな……。あの時は『お前女だったのか!』とか言っちまった覚えがある」
「フン……。忘れちゃいないぜ」
目の前の女性も会話をしながら紅茶に手を付けていた。白のブラウスとロングスカート。根っからのアウトドア系だったが故に肌に黒さが残っているのが玉に瑕だが、それを隠せる程度には空気が滲み出ていた。
「しかしあのおばさんがね……。驚いた」
「私も驚いた。まさか本当に金持ち捕まえるとは思っていなかった。今は大介の世話もあって、家事手伝いになっちまったよ」
そう言って彼女は頭を掻いた。そういう部分は、変わっていない。そして、今度はこちらが聞かれた。
「で、要は? お前は今、何をしているんだ?」
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