潜入屋3


 ブルータルな構造物を見上げる。コンクリートの二等辺三角形。雨に濡れたそれは視野を埋め尽くすほど大きいネオメタボリズムの体現。

 窓らしきものは無く、グレーの塊に等間隔で浮かび上がるアイスブルーの光。エッジには明滅する航空障害灯のレッドラインがかすんでにじむ。周囲をせわしなく照らす探照灯のホワイトビームが踊る。

 青白い骨格を浮かび上がらせ、赤く光る手足の無い巨人のシルエット。その臓腑ぞうふには最新技術を組み上げる技術者たちが押し込められている。


 いや、押し込められていた・・だ。

 非常口を示すグリーンライトと恐怖心を沸き立たせるオレンジの非常灯。そこからぞろぞろと吐き出される社員たち。時々銃声らしき破裂音が遠く響き、悲鳴が上がる。

 途方に暮れる者、どこかに連絡する者、オートを呼んで別の事務所に向かう者。鉄道を利用するために地下を目指す者もいる。

 それらに混ざり離れ。多少離れた場所に用意してあったオートに乗り込もうとする。


「オイ、ふざけんな!! エスペラ トゥトルノ!! 順番を守れよ!!」


 エスパニョール混じりの日本語で罵倒が叩きつけられる。振り返るとスーツにレインコートのさらりまん男性。オート待ちの時間にいらだっているのだ。


 そいつをにらみ返し、上位階級IDを突きつける。


「あなたのIDを提示しなさい。このオートは業務権限で事前予約していたリモよ」


 同時にスーツの襟、左胸を示す。社章の代わりに光る、アクションカメラログカムのレンズ。

それを見るや否や黙り込むさらりまん。


「どうしたの? IDは?」


「いえ、なんでもないです」


 ため息一つ。


「次からは相手を見て凄むことね」


 そう言い捨ててオートに乗る。ドアが自動で閉まり、事前に設定されていた目的地に滑り出す。

 バッグに手を入れ、電子機器を取り出すとスイッチをオンに。視界が一瞬ホワイトアウトする。


 窓の外に目をやると、そこには通販会社の職員たち。中にはちらほらと武装した警備員もいる。

 こちらを眺める人間はひどく羨ましそうに見ている。


 擬装マスカーで中は見えないだろうに。

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