戦闘屋


 敵の兵士は、見たところ左右前腕を義手化。


 なら出力は軍事ミリタリグレード。この分じゃコンバットドラッグクスリもキメてるだろう。

 ちらっと見えた肩にも手術痕。骨格も強化してありそうだな。貨物うちの警備部じゃない。もっとハイレベルのエリア警備専門だ。


 制服、いや戦闘服も見たことのない迷彩パターン。ラフに着崩しているように見えて、装備と動きが統一されているあたりまとも・・・な部隊じゃないな、こりゃ。前線から引き抜いた兵士達で組んだ臨時のアルファチームを配置したんだろう。普通の貨物警備には回されないエリート中のエリート。


 向こうさん、俺らの出方を待ってたみたいじゃねえか。警備部門についてならこっちも手口ルーチンを知ってたけれど。こいつは俺対策だ。ヒシイと組んだのがバレてメタ張ってきやがった。少数の本職プロを相手に蹂躙できる専門家たち。

 火力で押すのはいいが、後が続かねえ。派手に暴れたら相手の思うつぼ。下手につつくと蜂の巣にされる。


 スコープで周辺を確認。強化外骨格を着込んだ重武装兵士も後詰めにズラリ。ばっちり待機してやがる。有線で充電中か。どうせ80%充電済みで最終充電ってところだ。数十分はフルパワーで戦闘機動が可能なはず。そばに置いてある対衝撃トランクハードケースには軽機関銃やらミサイルランチャーやらが詰まっているのだろう。

 ドローンかロボット兵士ジャーヘッズに陽動をしてもらうのがいいか?


 襲撃対象のビルを観察しながら考える。




 ヒシイが提供してくれた兵器は自律戦闘も可能なロボット兵士。海外にさんざん派兵している安価な量産モデル。値段は安く、世界中の紛争鎮圧に投入されている。戦闘経験はフィードバックされて、制御プログラムのアップデートで年々強くなっていく使い捨て兵士だ。

 質で本職プロには負けるが、代わりに数で圧倒するタイプ。VRで遠隔操縦することで外国にいながら参戦も可能な身代わりオルタボディとして使える。隊長機を遠隔操縦する人間の士官が現場の判断を行い、それに追従する分隊員は同型機の自律行動が基本運用。

 通常の戦闘ならたった一人の人間がロボット兵士の班を率いることができる。二人とその上官がいれば二班、一分隊を警備業務などに割り当てられるわけだ。


 自律行動だとルーチン通りの行動は得意だが、一体一体を個別に狩ってくる連中相手だと確実に負ける。ゲリラもそこら辺に特化した連中が増えてきているからな。そういった連中相手だと一人一体をVR遠隔操縦リモートしてやらないとあっという間に戦力を削り取られる。

 そういった運用であれば兵士オペレーターは一人一体をVR遠隔操縦するが、こっちは手駒が少ない。なんでも屋と弟子と合流した技術屋の三人で二個分隊を動かさないといけないのだ。情報屋がチームの指揮をしてくれる予定だが、遠隔操縦までは手が回らない。


 普通なら一人一体を担当して、小隊長、情報管制専門士官を合わせて七人で六体のロボットを動かす。だが現状では一ダースを四人。しかも一人は情報専門だ。そのうえでドローンも操作しないといけない。

 六体を二組に分けて一体ずつを二人が操作、それの動きに追従する二体制御が限界だろう。なんでも屋は二体を動かしつつドローン操作兼任か。いや、弟子をドローン専門にしてなんでも屋と技術屋が三体ずつを率いるほうがいい。


「圧倒的に不利だな。情報収集のドローンだけで、残りはまだ出さないでくれ」


 ヘッドセットに触れてHQ拠点代わりのトレーラーに連絡する。


『一度下がって、ヒシイのロボット兵士でVR出撃するか?』


「いや、空気が変わると動けねえ。無改造スッピンじゃないが、生身・・での戦闘経験しかないからな。俺のVR遠隔参戦はなしだ」


『編成を考えよう。今、情報屋に分析を任せている。高高度からドローンで観察中ピーピング


「周辺を一周したら一度戻る。潜入屋にも戻るように伝えてくれ」


 一瞬の間があいて、声が返ってくる。


『聞いてた。関係者以外は近づけないレベルだから公道を散歩して見える範囲の情報しか拾えなかったよ。いま戻る』


 その声の後ろでドアの開閉音。どうやらトレーラーに戻ったらしい。




 情報屋がドローンカメラとスコープ越しに録画していた映像から顔写真をピックアップ。人数をカウントしていく。


「こりゃ二個分隊はいる・・な。うち一個分隊は重装機械化歩兵だ」


「ビルに入るまでに何体死ぬやら」


 なんでも屋が嘆く。


「幸い、と言っていいのか? ほとんどはビルの周りの警備にまわってて、中は通常のセキュリティと変わらない。向こうは水際作戦らしいぞ」


「通常の警備セキュリティって言ったって厳重な研究部門だ。正面突破できた所で対象のブツを回収できたとしても逃げ道がない。侵入が判明したら自動で全ドア閉鎖ロックダウンされるんだ」


 警備員時代の任務を思い出しながら説明する。


「外で戦闘がおきたらどうなるんだい?」


 影が揺らめいて人の姿になる。潜入屋グレイマンだ。


「外の戦闘なら正面玄関がロックされてシャッターが降りる。基本的に避難経路からの脱出以外は出入りが不可能になる」


「ロックダウンじゃないのか。ならわたしの出番だね。先に入って手に入れておけば脱出の時に外で騒いでくれれば出ることだけ・・・・・・は可能だね。避難経路は調べてあるよ」


 たしかにそれならいけそうな気がする。戦闘状態での防衛モードとロックダウンは同時に発生しない前提。戦闘かロックダウンか。戦闘からロックダウンに移行することはある。


「ロックダウンすると増援が出せなくなるからビル外での戦闘時はロックダウンしない。戦闘で侵入されそうになったら非常ボタンで強制ロックダウンはありえるけどな。その場合は別の部門から増援が来る」


 マニュアルが改訂されていなければ説明したとおりになるはずだ。


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