なんでも屋の弟子
なんでも屋を自称するおっちゃんの元で仕事を始めて数週間がたった。
古いビルの一室に寝泊まりさせてもらっている。いつから掃除してないのか、少々埃っぽい。その上、裏路地から腐臭が漂ってくる。時間はあるから部屋は掃除すれば多少ましになるんじゃないかな。
時々だけど「〇〇を買ってこい」だとか「××にこれを届けろ」だとか小間使いみたいな仕事をしている。
時間が合えばおっちゃんが買ってきた飯を食い、合わなければ買い置きの
たまに怖い事もあるけれど、次に行った時にはこっちを怒鳴りつけてきたやつが
そんなすごい人には見えないけどな。普段は寝てるか、機械を
「で、いつまでそんな小汚い格好してるつもりだ?」
「問題あるかな?」
「大ありだろ。一応は客商売だ。風呂くらい入れ」
「分かった」
「着替えは用意してやった。古着だがクリーニング済みだ。サイズはだいたいで選んだが、そこまで違わねえだろ」
着替えを手に取り、眺める。何時のセンスなんだろう。いまどき
「
「うるせえな。気に入らねえなら自分で買ってこい」
渡された服の中から比較的マシなやつを選ぶ。
「じゃ、着替えてくるから。覗く?」
「そんな趣味はねえ」
「あっそ」
数ヶ月ぶりの熱いシャワー。ソープも使い放題。贅沢だよね。
体を拭き、用意された服をすばやく着込む。前の服から硬貨を抜き取り、どこにしまうかちょっとだけ悩んだ。
「裁縫キットある?」
「あ? なにすんだ、そんなもん?」
「隠しポケット。無いと困る」
「ああ、ストリートの
戸棚を
パンツの内側にポケットを縫い付け、50ニューイェン硬貨を二枚ほどしまう。今までならせいぜい1ニューイェン硬貨を数枚だった。上着のパッチも縫い目を
「すぐに出せない所に硬貨を隠すな。
「非常用を持ってないと不安だもん」
「しかたねえな」
といっておっちゃんが財布からカードを一枚取り出して渡してくれる。
「これをポケットの中にでも簡単に縫い付けとけ。1000ニューイェンくらい入ってたはずだ」
「え。そんな大金は持ち歩きたくないよ」
「非常用ならそんくらいあったほうが困らないだろ」
「でもさ……」
「大金に慣れておけ。中堅
「持ち逃げするとか思わないの?」
「どうせそんな度胸はねえだろ。それにやろうと思えば
と笑う。本気で逃げてやろうかとちょっとだけ思った。
でも追えるってどういうことだろう?
「だんながいいって言うなら持っておくけどさ。
「はした金で怒りゃしねえよ」
「普段どれだけ稼いでるのさ?」
「ん~、お前を雇うことになった買い物あっただろ?」
「古いICとかを買った時だっけ」
「あの時は10個ばかりハードを組んで一万ニューイェンの現金収入。材料は150もかかってない。あとはコネに別部品を注文して二晩で純利が9000弱だ」
ちょっと得意げな顔をしてる。
「技術とツテと加減、あとは運があればそれだけ稼げる。興味あるか?」
「ある!!」
「いつ殺されるか分からない仕事でもか?」
「……うん」
ちょっとだけ
「ま、初歩の初歩から教えてやるか。でも勝手に仕事を受けたりするんじゃねえぞ」
「分かってる。だんなの名前に泥を塗るようなことはしないよ」
「ちょいちょい教養ありげなセリフを吐きやがる。どこで覚えたんだ?」
「いちおう学校は行ってたからね。初等までは」
「ふーん」
あんまり過去を詮索されるのは好きじゃない。おっちゃんはその加減が絶妙だ。だからこっちも踏み込まない。たぶんどっかで技術屋ってのをやってたんだろうな、くらいは想像するけど。
裏稼業なことは間違いない。
「一つ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「あの時の部品で何を作ったの?」
「フルアナログの時限爆弾」
「え?」
「時限爆弾」
「なんで?」
「フルアナログならソフトの癖から作り手がバレたりしにくいし、止めにくい。なにより安い」
「そうじゃなくて!!」
なにを言ってるんだ、このおっちゃんは。
「頼まれりゃなんでも作るぞ? 爆弾でも錠前破りでも」
早まったかもしれない。でももう戻れない所まで踏み込んでいる。
どうやらとんでもない人に弟子入りしてしまったようだ。
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