第239話 シェトリの魔法
剣神ガルフェン卿をご存じだろうか?
かの御仁、先の大戦でこそ、
首都リムガントで警護に徹していたものの
若い頃は、王国軍筆頭として
剣神の名を轟かせるほどに強く、
幾人も斬り捨てていくその様は
敵国のみならず、国中で恐れられたほどだった。
隠居した今現在は、
クラスティア辺境各地を旅しており
たまに、魔法協会の若手の指導を かって出たり するらしい。
そして、この私、魔力ゼロのシェトリは、
その剣神ガルフェン卿の指導を受けている。
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「えい、えい」
重い斧は、木に当たって鈍い音を立てる。
切り倒せと言われた木、上手く当たらず、ほとんど傷すらできていない。
「ふむ・・・これでは、まだまだ かかりそうですな」
優しい声色だが、
その声はぞくりと背筋に寒さを覚える怖さがある。
「すいません、すいません、すいません」
ひたすら謝る私、
いや、ホントこの人怖いんだもの
「あのお茶でも入れましょうか?」
優しそうなお付きの男の子が声をかける。
彼の名はヒューム、
首を飛ばされても平気で再生する不思議な人だった。
・・・
「あの・・・私・・・向いていないと思うんです、剣神ガルフェン様のような、すごい方に指導を受けるなんて、もっと別の優秀な人の方が・・・」
「いえ、あなたは良い物を持っていますよ」
特にその華奢な外見が良い・・・一見『こいつになら勝てそうだ』と思わせる・・・そんな雰囲気がある・・・
「それ、褒めてないですよねッ」
彼はふとため息をつき、ゆっくりと話し始める。
こと戦闘において、
ただ力任せに魔法や剣を繰り出せばよいという物ではない。
こちらが力任せに攻めるほどに向こうは守りを固めるでしょう。
ならばどうするか?その一つの答えとして・・・
「勝てると思わせ油断させ、攻撃を誘うという手段があるのです」
「?」
「さて、話の続きは、あなたが木を切り倒してから進めることとしましょう」
「おお、そうだ、まだお手本を見せていませんでしたね」
ガルフェン卿は立ち上がり
剣を抜く。
一瞬、周りの木々が真っ二つに切断され、彼の周り崩れて倒れた。
なんかついでにヒューム君の首も飛んでいた・・・
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(殺される、殺される、殺される)
私は半泣きで斧を振り続ける。
何度も何度も、
まめが出来て、潰れて手が痛くなって
私は倒れこんだ。
辛くて辛くてやめたくて仕方がなかった。
いつもならこの時間は魔導書でも読んでいるだろうか、難しい魔導書
でも、多少苦痛でもその方が数倍楽しかった。
魔力ゼロでも楽しかったんだ・・・
・・・
夜遅く、
斧を投げ出して私はガルフェン卿に直談判しに行った。
「修行をやめたい・・・なぜです?」
辛いから?
違う
しんどいから?
違う
「私は・・・剣士になりたいんじゃないんです」
私は・・・
やめろ言うな、みっともない
私は・・・
そんなセリフ、恥ずかしい
「私は、魔女になりたいんです」
今まで溜まっていた物が一気に流れ出すような気がした、
そして目から大粒の涙があふれて止まらなかった。
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「さぁそれでも飲んで落ち着きなさい」
「取り乱してしまって、申し訳ありません」
鼻をすする。
たくさん流した涙で、目がさぞ赤くなっていることだろう。
「夜更けに興奮してしまうことは、よくあることです」
「・・・すん」
「私もたまに寝ぼけて、ヒューム君の首を飛ばしてしまいますし」
(いや、それはどうなんだろう)
「あと、あなたは勘違いをしているようですが・・・私はあなたに剣術を教えるつもりはありませんよ?」
「へ」
「あなたは魔女なのだから、教わるのは『魔法』であるべきだ」
悪い顔で笑う、ガルフェン卿
それから1年、言葉では言い表せない苦行だったけれど
私、頑張ったな・・・
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「シェトリ、一匹そっちにいったぞ!!」
盾を構える剣士たちが声を張り上げる。
討伐対象のたくさんの
クラスティア魔法協会の魔女の制服
武骨で大きな杖
魔力ゼロの私は杖を構える・・・
こちらに向かってくる
きっと相手は考える。
ひ弱な魔女
発動までに一瞬遅いであろう魔法
接近さえすれば
簡単に殺せると
隙だらけ
私の間合い
杖に仕込んだ太刀
そして、カウンターの抜刀術
・・・
「すっごーい、シェトリに襲い掛かった魔獣、一瞬で首が飛んだんだけど・・・どんな魔法使ったの?」
先輩魔女の問いかけ
「え、・・・そりゃあ、もう、すごい魔法で・・・ごにょごにょ」
冷や汗が止まらない。
今日も誤魔化す私
めっちゃ雑
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