ep.4-5 ロストパーツ
オリオンの言葉に周囲がどよめく。
あちらこちらで囁きが広がり、特にケインリヒ派の者達の動揺は大きかった。
「あの、帝国科学技術研究所の出身か…」やら「オーギュストだと?あの顔、もしや…」やら。オリオンの外見の
その身分の高さを思い、下手な態度は取らない方が賢明と判断したケインリヒは、その厚い顔肉の下に驚きを隠しつつオリオンへと声を掛ける。
「ほおう、貴方様がかの三英雄の一人、アルタイル様の御子息でありましたか。なるほど、確かに似ておられますな。お父上はご健在であられますかな?」
「……さあ。どうだろうねー」
ケインリヒのゴマすりにも何ら変わらぬ表情で返すと、
オリオンの表情からは感触を推し
「で、ついでに紹介しとくけど……あそこに座ってるのがトウセイ・アルバイン。俺の護衛とお
「いや、無理だろ!」とみな満場一致で内心ツッコミが入ったが、オリオンは気付いていないようだ。現に今、トウセイからは目が合えばひと一人発狂させられそうな高濃度の暗い視線がオリオンに向かい発射されている。
それにまったく気付かず、いや、気付いているのかもしれないが、全スルーをかますオリオンには感嘆である。
「あ、因みにトウセイは『ワ』の出身で外見とかちょおっと変わってるけど、あんまり気にしないでね。からかわれるの嫌いだから、よろしくねー」
続く言葉よりも「この人物のまっ黒な深淵の瞳に注意だろおおお!」と誰もが思ったが無論、それを口にする者はいない。
「…紹介はもういいだろう、さっさと説明を始めろ」
ブレイの言葉にオリオンはじぃっとブレイの顔を見つめるが、反応を示さないブレイの彫刻のような表情から視線を外した。
「じゃあ早速話すけど。まずは基本から説明した方がいい?」
オリオンの言葉に各方面、頷くのを見てオリオンも頷く。
「じゃあ基本から話すね。難しい話じゃないから多分大丈夫と思うけど」
約三名、見知った顔が引きつるのを見ながらオリオンは説明を始めた。
「俺らがこうやって生きてるよりずーーっと前に、今より更に進んだ文明があったんだけど。何が原因か…それは分かんないけど、きれいサッパリ消滅しちゃったみたいなんだよねー、勿体無いよねー。で、その時代の技術や文献やらなんやらがたまーに発見される事があってね、それが過去からの
オリオンはちらりと目線を会議参加者へと走らせる。まだ脱落者はなし。……怪しいのは一人居るが。
「そのロストパーツは、俺らの技術じゃあ解明できないレベルのものでね。文字の判別・起動はおろか、使用意図までもが謎のものばかりだった。でも確かにこれはすごいものなんだと、過去の人々にも分かったみたいでね、一応秘密裏に大切に保管されてたんだよねー。王宮に」
ここで一旦話を切ってオリオンはふう、と溜息を吐いた。
「……なんかこんなに喋るのって疲れるね」
「いいからさっさと続けろや!」
オリオンの言葉に早くも頭から湯気が出そうなソーマが怒声を張った。
「……しょうがないなあ。何人もの人が解明に力を注いだそれは徐々に解き明かされていって、
一旦切って、オリオンは続ける。
「だからロストパーツの種類によって新たな呼び名が出来た。今回トランジニアで見たあの巨大兵器はアーティファクト、『先人の偉大なる建造物』って意味ね……に相当する。いやあ、あれだけのものが起動できるようになっていたとは知らなかったけど」
「?? んもう、なんだかよく分からないんだけど! ようするにでっかいロストパーツを『アーティファクト』って呼ぶの?」
ルミナの頭からも湯気が出かかっているようであるが、オリオンはその発言に頷く。
「厳密に言うとそうじゃないけど、そんなモンかなー。規模の大きいものをアーティファクトと呼ぶんだ。小さいの……主に日常で使用されるようなものなんだけど、それは名称を残して『ロストパーツ』って呼んでる場合が多いね」
勿論それにも別称はあるが、どうせ廃れた呼び方で滅多にその呼称は使われないので、ここで取り立てて言うものでもない。
「前置きが長くなったけど、今回トランジニアに投入されたアーティファクトは戦闘兵器機でパーツナンバーは
ソドム、と皆が口々に声に出す。聞いたことのない名前に、部屋では困惑の声があちこちで漏れる。
「動力は伝達鳥と同じ、エレプラトンエネルギー。自然界にある電力……稲妻とかに近いけど別物だよー。あの機体は特殊な金属で出来ていて、それに帯電するような形でコアから運動エネルギーを放出してる。帯電って言っても本当に帯電してるワケじゃなくて、機体に走る細い溝にエレプラトンエネルギーを流して機体全体を……ってまあこれは後にしてー」
オリオンは出かかった起動と浮力についての説明は割愛して本筋へ入る。
「特にソドムのコアはエレプラトンの収縮濃度が半端じゃなくて、高いエネルギーと充填・発射が可能なんだけど……ってあれ。みんな大丈夫ー?」
オリオンがふと手元の書類から視線を上げると、席に座る半数以上は頭から湯気を立ち上らせていた。
ルミナ、ソーマの目立つ赤い頭も机に仲良く沈没している。もう一人、目をつけていた金髪は気持ちよさそうに
「まあ、いっか」とオリオンはすんなり納得してブレイを小突く。
「みんなついて来れてないみたいだけど……続けた方が良いのこれ」
小突かれたブレイは書類に書き込んでいた文字がぶれ、インクが机に飛んだのを見て眉を
「いいから続けろ。聞かせとかないと後で
「……じゃあ、簡単に続けようかー」
オリオンは書類を机上に放ると、再び背にもたれた。
「とにかく、街いっこ焼き払うなんて簡単にやってのけちゃうような兵器です。帝国がこんなに持ち出しちゃうなんてねー、でも今回のトランジニア戦……これは予行演習だったんじゃないかな。ソドムの機能テストといった感じだね」
このオリオンの発言にはブレイが顔を上げた。
「……ということは近い内にまた、どこかで戦乱があるということか」
ブレイの鋭い視線を受けながら、オリオンは眠たそうな顔に、幼馴染だからこそ汲み取れる不快を滲ませた。
「たぶん」
ガタン!という椅子の床に転がる音と共にルミナが立ち上がった。
「ちょっと待ってよ! またあんな惨事がどこかに起きるっていうの!? そんな…そんなのダメよ、絶対ダメ!!」
まだ薄れもしない、あの時のトランジニアの様子を思い出してルミナは断固拒絶の意を示した。
「……決定権は王にある。そうでしょう? 軍隊長殿」
言葉の出所にルミナは鋭い視線を送る。
「良いではないですかな、そのような強力な力を帝国が所有したのであれば、イズリエンとの戦争もあっという間に終りましょうぞ。それこそ軍隊長のお望みの平和も近くなることでしょう…? ふっ、はははははは」
「このジジイ……!」
ケインリヒの高笑いにルミナが低い声で怒りを
「失礼します!」
またしても突如開かれた会議室の扉。
ブレイが舌打ちをするが、構わず中へ進んできた兵士はケインリヒの傍へ近寄ると、その耳元に何かを囁く。
兵士からの報告にケインリヒは歪曲した笑みにますます醜く表情を歪ませると、兵を下がらせ、自信に満ちた顔で口を開いた。
「ブレイトリア様、申し訳ないが私はここで失礼する。またの機会に私の質問に対する返答は頂きましょうな」
ケインリヒの言葉にブレイは立ち上がって反論する。
「待て! 貴様、勝手に離席する事は許さん! 誰の許しがあってこの場を離れる!!」
その言葉を待っていたとばかりにケインリヒは、口が裂けるほどに気味の悪い、醜悪な笑みを浮かべた。
「ふはは、誰のとは……。――貴方のお父上からですよ、ブレイトリア様」
勝ち誇ったようにそう残し部屋を後にしたケインリヒに、ブレイは目を見開いたまま、力が抜けたようにストンとその元の席に座り込んだ。
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