第84話 鬼の居ぬ間に


 意識が覚醒してくる。

 まぶたを開くと何処までも続く真っ白な世界が目に入った。

 ああ、ここは精神試練の間なんだな......


 これで何度目だろうか......俺はこの世界に来てからの気を失う回数を数えて見たのだが、片手の指を折り曲げた処で止めてしまう。だって、数えきれないのだから。


 そう考えつつも、俺は現在に至る状況を思い起こす。

 確か、ナナミが持ってきた珠が発光したかと思うと、身体に、胸に、頭に、全てに激痛が走ったのだ。

 その所為で気を失ったのだが、ナナミという名前で思い出す。


 あの時のナナミの顔......普段は全く表情を変えないナナミが笑っていたように思う。


 そう、痛みで蹲る瞬間に、俺が目にしたナナミは、してやったりという顔で笑っていたのだ。


 その事を思い出し、慌てて身体を起すと周囲を確認した。そして、驚愕に襲われる事となった。


「こ、これは、これは一体......」


 思わず声を漏らすが、それ以上は口に出来ない程の惨状だった。


 そこには、俺の嫁達が裸で横たわっていたのだ。その姿は本当に何も身に着けておらず、横たわる彼女達の有りの侭の姿が見て取れた。

 更に、ある者のあられもない姿を見ておののく。


「な、なに! ナナミまで......いや、俺も......」


 彼女達の様子を驚きつつ、即座に立ち上がった処で、生体アンドロイドであるナナミも裸体となっていることや己も素っ裸であることに驚く。


 唯一、服を着ているのは、少し外れた場所で寝ているキララだけだった。


 それを見て、全員が居ることに安堵しつつも、この状況が全く理解できずに、俺は横たわる彼女達の傍に跪く。


 すると、ミイがゆっくりと瞼を開いた。


「ミイ! ミイ! 何があったんだ?」


 覚醒し始めたミイを抱き起して透かさず尋ねたのだが、彼女はウットリとした表情で声を漏らしてきた。


「ソウタ......ああ、ソウタ。私の最愛の旦那様。とても嬉しかったわ。それにとても良かった......もう一回いいかしら......ソウタ、愛してるわ」


 彼女はそう言って俺の胸に顔を埋めると、俺の下半身に手を伸ばしてきた。


「こ、これは、いったい......てか、ミイ、何処を触ってるんだ!」


 ミイの行動に慌てていると、今度はその直ぐ隣に横渡っていた大きな胸がプルンっと動いた。

 そう、この場にこれ程の胸を持つ者は一人しか居ない。確かに、サクラもそれに追随する豊乳の保持者ではあるが、流石にこの胸には敵わない。


「エル、どうしたんだ? 何があったんだ?」


「ソータ......妾は、妾は、もう、お前無しでは生きていけない......妾に今一度愛を注ぎ込んで欲しい。愛してる......ソータ!」


 エルは艶めかしい表情でそう言うと、俺の背中に抱き付いてきた。


 どうなっているんだ? この二人の乱れっぷりは半端ないぞ......てか、二人の脚の付け根には怪しげな液が大量に付着しているような気がする。


 ま、まさか......あれは子種じゃないよな?


 周囲を見回して、他の存在がいるかを確認してみるが、俺達以外には誰も居そうな気配がない。

 そんなものは一目瞭然なのだ。だって、ここはあの石が作り出した白い空間なのだから。もし、現れる者が居るとすれば、糞神くらいのものだろうが、恐らくそれは無いだろう。だって、俺が普通に生きているのだから。

 今や完全に抹殺の対象となっている俺を、奴等が生かして置く筈がないのだ。


 いつまでも現状を把握できずにいると、ゆっくりと身体を起したマルカとニアが立ち上がって俺の処まで遣って来た。


 てか、何故か下半身に出血のあとがある......でも、怪我をしている風では無い......それが指し示す事象は一つしかないだろう。


 そんな事を考えていたら、思わず近寄るマルカとニアの下半身にばかり視線が向いてしまった。


「あぅ......お兄ぃ、あんまり見ちゃダメだよ。恥ずかしいんだから......でも良かったよ。初めはちょっと痛かったけどね......」


 恥ずかしそうに下半身を両手で覆い隠していたマルカが抱き付いてくると、ミイが俺に軽く口付けをすると、仕方がないという表情でマルカに場所を譲った。


 すると、彼女はゆっくりとの首に手を回して熱い口づけをしてくる。


「お兄ぃ、あたしは今日からお兄ぃの妻だよ。大好きだよ。お兄ぃ」


 マルカのその態度で、もしやという気持ちがドンドン膨らんでくる。

 そこへニアが尻尾を起用にくねらせながら、マルカと反対側に抱き付いてきた。


「にゃ~も初めてだったニャ~よ。でもダンニャ様に初めてを受け取って貰えて嬉しかったニャ~。大好きニャ~よ! ダンニャ様!」


 流石にここまで来ると確信に至る。


 俺がみんなを犯っちまったのか......抱き付く女性を眺めつつ自分のあずかり知らない処で、彼女達に愛を注いだことを理解する。


 そんな処へ、今度は大きな胸を揺らせながらサクラが遣ってきた。


「あの......実はこの歳まで未使用だったことが恥ずかしかったんだけど......でも、ソウタに始めてを捧げられてとても嬉しいの」


 少しぎこちない歩き方で近寄って来たサクラが恥ずかしそうにそう言うと、俺に抱き付いていたマルカとニアがゆっくりと離れる。


 それを見たサクラは、一瞬だけ申し訳なさそうな表情をしたが、遠慮する事無く俺に抱き付いてくると、濃厚な口づけをしてきた。


 どれだけの間、サクラと口づけを交わしていただろうか、恐らくそれほど長い時間では無かったと思うのだが、あまりの熱い口づけに、延々とそうしていたようにも思えた。


 彼女は、それ程に魅せられてしまった俺から唇と離すと、恥じらいの表情を浮かべながら誓いの言葉を述べてきた。


「私は今日からソウタのお嫁さんになります。いつ何時もあなたの力になり、愛を注ぐ事を誓います。愛してます。私のソウタ!」


 彼女はそう言って、再び軽く口づけをすると、俺の前から離れて行った。

 その事を不審に思ったのだが、そこへ驚きが訪れた。


「ご主人様、本当に有難う御座います」


 一瞬、その声が誰のものかも解らなかった。というのも、口調や声色がこれまでのものとは全く異なっていたからだ。


 そう、そんな驚きを与えて来たのは、他でもないナナミなのだ。


「ナナミ......どうしたんだ?」


 あまりの変貌振りに驚きを隠せないでいると、ナナミはゆっくりと歩み寄り、俺の前で跪いた。


 てか、おい、俺って生体アンドロイドのナナミまで......どんだけ節操無しなんだ......


 ナナミの下半身を見て思わず俺の行為に我ながら慄く。

 そう、彼女の下半身は、マルカ、ニア、サクラと同じような状態となっていた。


 てか、丸見えだから少し隠して欲しい。

 確かに男の俺としては嬉しいのだが、あまり面と向かって見せられてしまうと、少し気恥ずかしい......


 そんな訳で、目の遣り処に困っていると、ナナミはゆっくりと話し掛けてきた。


「ご主人様の愛が私を満たしてくれたお蔭で、私は人間として覚醒することが出来ました。本当に有難う御座います。これからは八番目の妻としてお仕えさせて頂きます。愛してます。ご主人様」


 ナナミの人間として覚醒したという言葉は俺に衝撃を与えたのだが、それよりも気になった言葉があった。

 それを考えつつ、俺の周りを取り囲むように座っている嫁達の人数を数える。


 一、二、三、四......どう考えても七人だ......なんでナナミが八番目なんだ?


「えっと、ナナミ。お前が嫁になる事はとても嬉しいんだが、なんで八番目なんだ?」


 不思議に思った俺は、透かさずそれを尋ねてみたのだが、即座に恐ろしい回答が帰って来た。


「それは、五番目の妻がキララだからです」


 がーーーーーん! いつの間にかキララまでが俺の嫁扱いだったのか......


 ショックを隠し切れない俺は再び全員を見渡すのだが、彼女達も少し落ち着いたようで、今は艶めかしい表情から立ち戻っている。

 だが、俺はそんな彼女達に伝えなければならない事がある。

 これはかなりショッキングな話となるだろう。

 もしかすると、彼女達は憤慨ふんがいするかもしれない。だが、これは伝える必要があるのだ。


「ありがとう。みんなの気持ちはとても嬉しいし、俺もお前達の事を心から愛している。ただ、お前達に言わなければならない事があるんだ」


 俺がそう言うと、全員が嬉しそうにしていた表情を一変させた。


「実を言うと、覚えて無いんだ......気が付いたら、今の状態だったんだ」


 すると、俺の予想に反して全員が安堵の息を漏らした。


「そんなこと? 改まるからビックリしちゃったわ。ごめんね。実を言うと恐らくそうだろうと思ったんだけど、ソウタがあまりにも激しく求めて来るから、それを解っていて私も受け入れちゃったのよね」


 安堵の理由をミイが口にすると、エル、マルカ、ニア、サクラの四人が申し訳なさそうに続けて話し掛けて来た。


「実は......妾も......でも、随分とご無沙汰だったから......つい......」


「あたしも......だって、この機会を逃すと次のチャンスが何時になるか......」


「にゃ~は、ダンニャ様を愛しているニャ~よ。だから意識があっても無くても、沢山、愛されたいニャ~の」


「ごめんなさい。私も知っていて求めてしまったの。だって、我慢できなくて......」


 どうやら、全員が解っていて行為に及んだようだ。それなら俺も安心なのだが、マルカ、ニア、サクラ、ナナミの初めてを貰った記憶がないのは少し寂しいな。


 そんな邪な事を考えていると、マルカが気になっていたであろうことを口にした。


「ところで、お兄ぃって狼になったんだね」


 確かに、全員が合意の上とはいえ、一度に六人の女性に襲い掛かったのだ。狼呼ばわりされても仕方ないだろう。


 しかし、そんな俺の思い違いをニアが指摘してきた。


「その耳と尻尾が最高にカッコイイニャ~の。でも、にゃ~に子供が出来たら混血になるのかニャ~の?」


 その声でハッとし、俺は己の耳と尻尾を触る。てか、尻尾は目視できるように掴んで前に持ってくる。


「あれ? 尻尾がフサフサだ! てか、これって狼の尻尾?」


 そう、俺はいつの間にか、猫から狼にクラスアップしていたのだった。







 透き通るような青い空がとても綺麗だ。

 だが、馬車の中に居る俺の嫁達は、そんな青い空が霞むほどに美しく思える。


 現在、俺達は天馬のミラローズとキロロアが引く空飛ぶ馬車に乗り、大陸とチュートリアルの浜辺を繋ぐ洞窟へと向かっている。


 そんな馬車の中に居る妻達が、何故かこれまで以上に輝いて見える。

 ミイは神秘的なエルフの雰囲気に輪を掛けて美しさを増しているし、エルは王女らしい可憐さに磨きが掛かっている。

 ハッキリ言って、美しさだけで言えば、この大陸でこの二人に敵う者など居ないのではないかと思う程に美しい。

 今更ながらに、毎日見惚れてしまいそうだ。


 それに、マルカ、ニア、サクラ、この三人もこれまでと違って、大人の女性としての美しさや可愛らしさが滲み出ているように思う。その可愛らしさは、毎日でも愛を囁きたくなるほどだ。


「俺、最高かも......」


「ん? 如何したの?」


 俺のボソリとこぼした言葉にミイが反応してきた。

 というのも、飛行が苦手なエルとニアは馬車に設置された亜空間の部屋に閉じこもっているし、キララはやはり亜空間の部屋でお昼寝中だ。それ以外だと、ナナミはカオルの介護で部屋の中にいる。

 という訳で、ここにはミイとマルカしか居ない。


「いや、以前にも話したと思うが、俺は糞神達のたわむれでこの世界へと無理矢理に連れてこられて、酷い目に遭ったんだが、今こうして居ると実はとても幸せなんじゃないかと思ってな」


 それに、仲間達と心の底から打ち解けることが出来た現在は、恥ずかしくも無くそんな事も言えるようになったしな。


 それを正直に口にしたのだが、ミイは少し驚いた顔をした後で、微笑と共に笑い声を零した。


「フフフ。それって、もしかして私達が居るお蔭かな?」


「ああ、そうだな。正直に言ってそれ以外にないと思う」


 含み笑いと共に意味深な質問をしてきたミイに正直に答えると、彼女は透かさず俺の左腕に抱き付いてきた。


「それはお互いさまよ。だって、私もあの豚エルフ達から解放されて、ソウタの様な素敵な旦那様と巡り合えたんだもの。私もとても幸せだわ」


 俺の左肩に頭を乗せたミイが己の本心を語ってくると、今度は右側に座るマルカが俺の左腕に抱き付いてきた。


「お兄ぃ、あたしも幸せだよ。大好きなお兄ぃのお嫁さんになれたんだもの。あとは沢山子供を産むことが夢かな」


 マルカはそう言って俺の右肩に頭を乗せる。


 そんな二人を眺めながら、幸せな気分を満喫していると、その途端に馬車が揺れ始めた。


『ミーシャル様、幾らあなた様でもご主人様にくっつき過ぎです』


『ソ~タン! そんなメスじゃなくて私と遊びましょうよ~』


 そう、仲睦まじげにしている俺と二人の女性を見て、ミラローズがヤキモチを焼きはじめ、キロロアが嫉妬し始めたのだ。


「ま、拙い。二人も、彼女達が居る前では控えた方がいいぞ。墜落なんて嫌だからな」


「ちぇっ、ミラローズとキロロアのバカッ!」


「じゃ、お兄ぃ、夜は甘えていいよね」


 俺の忠告を聞いたミイは苦言を漏らし、マルカは甘えた声で囁いてきた。


「ああ、夜にな。ただ、カオルに悪いからエッチな事は無しだぞ?」


 その言葉に、ミイとマルカは渋々と頷く。


 それで気分を変えたのか、マルカが俺の変化について尋ねてきた。


「ところで、狼人になって前と何か変わった?」


「ちょっと、力の入れ具合がな......違いといってもそれくらいかな」


 そう、猫人から狼人に変化して何かが変わったかといわれると、力を制御し辛くなったくらいで他には特に変化が無い。いや、あっちの方もちょっと強化されたかもしれない。


 まあ、あっちの話は置いておいて、力の制御なのだが、想像以上に力が増した事もあり、ちょっと力を入れただけで、物が壊れたりするのだ。

 だから、これを自由に制御できるようになるまでは、あっちも差し控えるしかあるまい。

 何故なら、まかり間違って彼女達を傷つける訳にはいかないからだ。


 誤って、エルのオッパイを握り潰すような事なんて起きてみろ! 俺は一生泣いて暮らすぞ?


 そうやって、湧き起こる恐ろしい想像を無理矢理に掻き消していると、ミイが怪しい笑みを浮かべて話し掛けてきた。


「でも、あっちが初めての時より、凄く大きくなってたわ。それが私の中に......ああ、もう忘れられないわ」


 うぐっ......そう、俺の持ち物が随分と大きくなっていたのだ......


 ミイはあの時の情事を思い出しているか、うっとりとした表情となって、俺のサイズアップについて言及してきた。

 しかし、マルカはそれについて否定の言葉を述べてきた。


「今はいいけど......あれは大き過ぎて......初めての時は壊れるかと思うほど痛かったんだよ? でも、慣れたら凄く良かったんだけどね。えへっ」


 一人前の女になったマルカが、恥ずかしそうに初めての時が大変だった事を述べてくる。


 す、すまん......確かに、この大きさは初体験では辛いよな......


 己の身体を思い出しつつ、初めてだった四人に申し訳ないと心中で謝る。


 とまあ、こんな調子で空の旅を続けながら洞窟の前まできたのだが、一つだけ、想定外の出来事があった。


 ごめん。カオル......


 そう、俺のみならず、誰もが我慢できなくなって、カオルが眠り続けているのを良い事に、致してしまったのだ。

 それも、毎晩のように......


 故に、ことが終わった後の罪悪感は物凄いものだった。それも俺だけでは無く、全員が落ち込んでいたのだ。

 それにも拘わらず、夜になってみんなで風呂に入ると、燃え上がり始めて就寝まで交代で愛を語り合ってしまうのだ。

 当然、キララが寝ているのが条件なので、彼女は俺達の営みを知らないと思う。


 結局、罪悪感と欲情を繰り返しながら、洞窟の前に到達したのだが、そこでやっとカオルが目を覚ました。


 その事に安堵した俺達が近寄ると、彼女はポツリと溢したのだ。


『あのさ~、鬼の居ぬ間にというのは解るけど、ちょっと遣り過ぎじゃない? 多少なら僕も大目に見るけど、流石に毎晩あれだけするのはちょっと許せないかな。だから、暫くは禁止ね!』


 そう、カオルは寝ていた筈なのだが、彼女が寝ていた間の事を全てを知っていた。


 俺達は、何も言い返す言葉も無く、全員が彼女の面前にて正座で謝罪の態度を示すのだった。


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