第2話
げに恐ろしきは金である。
なんやかんやあって、大学生の身分で借金まみれになってしまったオレが金策を頼んだのは、心霊研究家を自称する伯父だった。
心霊写真の鑑定を請け負ったり、漢字と梵字とルーン文字を混ぜ書きにしたお札を売ったりして法外に稼いでおり、金だけは腐るほど持っていた。が、その怪しげな商売、太めの体にボタンが弾け飛びそうなラメ服を着こなす怪しげな風体、顔に傷がある人とタメで話す怪しげな交友関係、生え際は白いのに妙に頂部が黒々した怪しげな毛髪───いやこれは関係ないか───ともかく怪しさ大爆発な彼は、他の親戚筋からはほとんど勘当の扱いを受けていた。
オレ個人は、子供の頃からそれなりに仲がよく、あまり警戒心はなかった。むしろ、いつもこっそり小遣いをくれるという意味でいい人だった。
金を借りたい一心で訪ねたオレに伯父貴は、借金は肩代わりするから、その分自分の助手として働け、と言い出した。来客に茶を出したり書類の整理をするだけで、借金が帳消しになるというのだから、一も二もなくオレは従ったのだ。
オレは霊なんてこれっぱかしも信じていない。
伯父がやっているのも、インチキだとすぐにわかった。傍目で見ればカラクリは簡単だ、いわゆるホットリーディングである。先に探偵だのヤクザだの使って調べ上げておいたことを、霊のお告げですと、さも今わかったかのように相手に伝える。相手がほほぅと感嘆したら、後はやりたい放題だ。まこと、信用を勝ち取れば商売はうまくいく。セオリー通りである。
オレはそれが詐欺とか悪事だとか思わなかった。伯父の話術は巧みで、特殊なカウンセリングと思えば素直に納得できた。まして、あなたひとりにだけお届けするステキな心霊マジックショウつきなんだから、サービス業として多少値が張るのは当然だ。罪の意識など、あるはずもなかった。
「こんにちは」
雑居ビル内の事務所に、澄んだ声とともに少女が現れたのは、衣替えを過ぎたにしては涼しく穏やかな、梅雨入り前の午後だった。四時を過ぎるか過ぎないかだったと思う、夏至が近いから、夕方というにはまだ早い。
「はじめまして。わたくし、ミーディアムユニオンから参りました
オレはその見慣れないセーラー服姿を、多分に驚きをもって見つめた。近所の中学の生徒が、心霊関連の単語が並んだ看板を見て、友達同士連れだってひやかしに入ってくることはままある。が、それ以外に中学生が入ってくる理由はなく、入ってきても、壁に掲げられた漆文字の料金表を見て逃げていくのが常だ。
紫子はひとりきりだった。鋭い視線に、きゅっと結んだ唇。何より、年相応のおしゃれやホビーとは無縁そうなおかっぱ黒髪。見た目からは、どこを取っても遊び半分な様子はなかった。
セーラーのラインに特徴があり、それがどこの制服だったか思い出せた。あれは、二駅ほど離れた町のお堅いお嬢様学校のものだ。礼儀作法にうるさいところと聞いてはいるが、なんともどうだ。学校教育だけじゃない、常日頃から厳しい躾けを受けた生粋の大和撫子なのだろう。明らかに平成生まれなのに、醸し出す雰囲気が、そこだけ昭和……いや、へたをすると明治大正期までさかのぼっていた。明治大正がミニスカートとニーソックスを履いている。
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