1.地獄で笑え

「クソッタレが……キリがねぇ……!」

 悪態をつき、ディートリヒは周囲を睨んだ。

 右手にはサーベル、左手には古ぼけた拳銃。軍服はぼろぼろで、その体には大小様々な裂傷が刻まれている。それでも、その銀の瞳はいまだ爛々と光り続けていた。

 場所は貴賓区からわずかに離れた場所――ノーブル・ガーデン。

 ここは金持ち達が設えた庭園だ。

 そこは魔女街には珍しい自然豊かな場所だった。周囲には木々が生い茂り、そして森の奥からはハンティングのために放された得体の知れない獣の声が響く。

 その森は今、濃霧に包み込まれていた。

「屋外だったら向こうの方が不利じゃねぇかと思ったが……まさかこんな場所があったとはな。うまいこと誘い込まれちまった――それよりも」

 ディートリヒは眉を寄せ、頬から伝う血液を拭った。

 頬にはジャクリーンのマンゴーシュによって、浅い傷が刻まれている。いつもなら、終焉の獣の超回復能力で一瞬で塞がるような傷だった。

 それが今も残り、焼けるような不快な痛みを与えてくる。

「……治りが悪ィな」

 その時、木の枝ががさりと音を立てた。

 ディートリヒはとっさに身を翻し、音が聞こえた方に銃口を向ける。

 発砲。はらはらと撃ち抜かれた木の葉が落ちてくる。しかし、敵の姿は現われない。

 左側面で霧がうねった。

 はっとディートリヒが視線を側面に向けた時にはもう遅く、霧から現われたジャクリーンが疾風の如くその懐に潜り込んでいた。

 血色の悪い唇をべろりと舐めつつ、ジャクリーンがカットラスを振るう。

 唸りを上げて迫る刃。サーベルではもう防御が間に合わない距離。

「くそっ――!」

 ディートリヒはなんとか後退しようとする。

 しかし、とっさに刃を防ごうとしたその左手首をカットラスが切断した。

 ぶつりという音ともに、鮮血が噴水の如く噴き出した。力の抜けた指先から拳銃が転がり落ち、手そのものもそれを追って落ちていく。

 しかし瞬時に右手が動き、切り落とされた左手を拾い上げた。

「ぐうう――やりやがったな……!」

 切断された手首を無理やり切断面へと押し込み、ディートリヒは大きく後退した。

 そこに容赦なくジャクリーンが追撃を仕掛ける。

「ちぇっ、本当に面倒な奴だね! 鬱陶しいったらないよ!」

「こっちの台詞だ!」

 舌打ちするジャクリーンの顔めがけ、ディートリヒは再生した左拳を叩き付けた。

 しかし、その手は濃霧を穿つ。頭部を霧に変えたジャクリーンはけたたましい笑い声とともに後退、再び濃霧の中へと溶け込んだ。

「ちっ……! このうざってぇ霧もあいつの魔法のせいか?」

 ディートリヒは苛立ちに地面を蹴飛ばし、辺りに漂う霧を見回した。

 吸血鬼は、肉体を自在に幽体化――構成霊素エクトプラズムに切り替えることで、その身を無数の蝙蝠や、辺り一帯を多い隠す霧などに変じることができる。

 しかし、ジャクリーンは半吸血鬼。

 そのため、その能力は本物の吸血鬼に大きく劣るはず。

 恐らくこの霧の大部分は、ジャクリーンがその欠点を補うために作った魔法の霧だろう。

 この霧は視界を遮るだけでなく、霊的な感覚までも狂わせる。

 目隠しをして戦っているようなものだ。ディートリヒは歯をギリギリと鳴らしながら、サーベルを構え、再び神経を研ぎ澄ませた。

「どうした、犬っころ? さっきまでの威勢はどうしたんだい?」

 どこからともなく――あるいは全方位から、ジャクリーンのあざけりの声が聞こえた。

 ディートリヒは答えず、油断無く辺りを睨む。

「大方そうやって待ち構えて、アタシが姿を現わした瞬間に一撃を入れる算段だろ? 諦めの悪いやつだね! さっきから何回死んだんだい?」

「……ギャアギャアうるせぇぞ、蝙蝠女が」

 銀色の瞳を爛々と光らせ、赤毛をざわつかせながら、ディートリヒは唸る。

 しかし、ふとその唇が吊り上がった。

「……てめぇこそ、そんなでかい口を叩いてる場合かよ」

「はァ? 一体何を――」

「いつまで体を霧に変えていられる? 魔法の霧をいつまで維持できる? まさか、純血の人狼であるこの俺に――不死身のディートリヒに体力勝負を挑むつもりか? 無謀にも程があるぜ、人間にも吸血鬼にもなれねぇ半端者がよ!」

 笑い声が止まった。

 直後、背中に強烈な痛みが走った。

 肉を裂かれる痛み――そして、骨を断たれた痛みと衝撃。超速で現われたジャクリーンが、背骨めがけて二つの刃を立て続けに叩きこんだようだった。

 さすがのディートリヒも小さく悲鳴を上げ、枯葉と腐葉土の上に倒れ込んだ。

「……図に乗るんじゃないよ、死に損ないが。遊んでやっているのがわからないのか?」

 倒れたディートリヒを、冷え切った眼でジャクリーンが見下ろす。その手はくるくるとカットラスとマインゴーシュを弄んでいた。

「ぐっ……」

 片手を踏みつけられ、ディートリヒは唸った。

 背骨――恐らくは胸椎の一部を叩き折られたせいで、手足の感覚も完全に麻痺している。痛みよりもただ、今は屈辱感が勝った。

「大体、アタシにはアンタを倒す必要はない、ただ頃合いになるまでアンタの足止めをしてりゃいいんだ。その時が来れば、アッシャータ様が迎えにくる」

 回転させていたカットラスを順手に持ち、ジャクリーンはそれを振り下ろした。

 鈍い音を立て、分厚い刃はディートリヒの頭のすぐ隣にめり込む。研ぎ澄まされた刃に浮かび上がる自分の横顔を、彼は横目で睨んだ。

「……マンゴーシュの方。刃に毒かなんか仕込んでるな?」

「ようやく気づいたのかい。――そうさ、吸血鬼の使う毒を焼き込んである。アタシの父親が残したレシピを元に作ったのさ。解毒法は存在しない」

 ジャクリーンは笑って、マンゴーシュをディートリヒの鼻先に近づけてきた。

 つんと鼻を刺す刺激臭に、ディートリヒは小さく呻く。

「……道理でおかしいと思った。そっちのちっこい剣の傷がどうにも治りが悪い。……この傷もそうだ。大方カットラスの後にマンゴーシュの一撃をブチ込んだな? いつもの俺なら、骨を断たれたくらいじゃこんな……」

「背骨を叩ッ切られたわりによく喋る。これが人間なら即死してるんだけどねぇ」

 血色の悪い唇をべろりと舐めると、ジャクリーンはマインゴーシュをするりと滑らせて、ディートリヒの首筋に刃を這わせた。

 ちくりとした刃の感触の直後、肌を炙られるような痛みがそこから走った。

「っちぃ……」

「さっきからこいつで、丁寧に丁寧に全身の筋肉を刻んでやってだんた。――おかげでろくに力が入らないだろう?」

「ハッ――吸血鬼らしく陰険な戦い方をしやがる」

「ヒヒッ……なんとでも。しかし、いいねェ……お高くとまった純血が、アタシみたいな半端者に踏み潰されるなんてさ。最高だよ……」

 ジャクリーンは恍惚とした顔で呟き、ディートリヒの足を踏む手にさらに体重をかけた。

 ディートリヒはただ、射殺すような眼で女の顔を睨みあげていた。

 しかし、その眉がぴくりと動く。

 ディートリヒはジャクリーンに気取られぬよう、視線をさっと辺りに巡らせた。

 濃霧の中に、嗅ぎ覚えのあるにおいが漂っていた。

「……安心しな。殺しはしないよ。アンタ、一度殺せば全ての傷が癒えた状態で復活するからね。そんなのたまったもんじゃない」

 ジャクリーンはディートリヒの背中の裂傷にマンゴーシュを這わせる。ぼやけた感覚の中でも、流し込まれる毒が神経を蝕んでいくのがわかった。

「ちっ――」

 悔しさに顔を背けた風を装いつつ、ディートリヒは顔を伏せた。

 そしてジャクリーンに気づかれぬよう、神経を研ぎ澄ませて空気のにおいを嗅いだ。

 においは、もうすぐ近くにまで来ていた。

 独特のにおいだ。火薬か、あるいは焚き火の後にも似た――火のにおい。

「だからこうして再生を阻害して、重傷の状態で留めておく――それがアンタの攻略法だ」

「……ハッ、マレオパールと似たようなことしやがるな」

 ディートリヒは低い声で笑った。

 ジャクリーンは笑みを消し、不愉快そうな顔でじとっとディートリヒを見つめる。

「……なんだい、その顔は」

「いや、ちょっと懐かしくなっちまった――不快にも程がある記憶だがな」

 ルシアンと最初に殺し合った時の事だ。彼はディートリヒの腹部を影の槍で磔にし、そうしてあの腹の立つにやにや笑いで勝利宣言をしてきた。

『こうして身動きがとれなければ、どうにもできまい』と。

 今、思い出すだけでも焼け付くような苛立ちを感じる。そんな記憶を思い返しつつ、ディートリヒの唇には薄い笑みが浮かんでいた。

「ハッ……にしても、てめぇは惨めな奴だな」

「あん?」

「吸血鬼としての能力は中途半端。霧にしか姿を変えられねぇ上に、影響を及ぼせる範囲も狭ぇ。吸血鬼ってのは陰険だけどよ、圧倒的な存在だ。連中は夜の貴族を騙っているが、それだけの力と格はある。だが、てめぇにそれはねぇ」

 ディートリヒはくつくつと笑いながら首をひねり、ジャクリーンを見上げた。

「そんでてめぇは人間としても中途半端だ。……聞いたぜ、てめぇは大学から追放されたんだってな。人間は群れで行動する生物だろ。てめぇは一人じゃなんにもできねぇくせに、集団でもまともに行動できねぇって事じゃねぇか」

「情けねぇ半端者だ」とディートリヒは笑い飛ばした。

 ただでさえ青白いジャクリーンの顔から、見る見るうちに血の気が失せていった。

 その様を面白そうに見上げ、ディートリヒはため息をついてみせた。

「挙句の果てにあんなフザけた誇大妄想野郎に跪いてよ。……ああ、なんて惨めな半端者だ。俺がてめぇだったら、さっき落としたリボルバーで直ちに頭を撃ち抜くな。ああ、それでいい。それが一番だ」

「黙れ――ッ!」

 こめかみを蹴り飛ばされた。

 ガツンと音を立ててディートリヒの視界に星が散る。思わず呻いたディートリヒの頭を更に蹴り飛ばし、ジャクリーンは叫んだ。

「一人じゃなんにもできないだって? 状況がわかってんのか! アンタは今、こうしてアタシの前に手も足も出せてないだろ!」

「ハッ、それはてめェだって同じだろ。俺だっててめぇを釘付けにしてるようなもんだ」

 蹴り飛ばされつつ、ディートリヒはなおも笑う。

 ディートリヒは今この間も、毒に蝕まれつつもじわじわと回復している。

 そして、ジャクリーンが一度でもディートリヒを殺せば――終焉の獣の力により、今までに負った全ての傷が癒えた状態で復活する。

 血濡れた顔で、ディートリヒは銀の瞳を爛々と光らせた。

「……断言するが、俺はどんな手段を使ってでもてめぇを八つ裂きにする」

「ッ……!」

「回復したらすぐに、な。……ほら、どうする? 今のてめぇには、俺をこうしていたぶる以上の事はできねぇ。回復したら殺されるもんなぁ」

「うるさい! だからアタシは、アンタをここに足止めしてればそれで十分――!」

「言っておくが、俺はもうアドラー旧子爵に興味はない」

「はっ……?」

 思いがけないディートリヒの言葉に、ジャクリーンの足が一瞬止まる。

 ディートリヒは冷淡に唇を歪めた。

「てめぇが我が同胞を笑った時点で、優先順位が変わった。――もうあの誇大妄想野郎はどうでもいいんだよ。今はてめぇを殺すことに集中している」

「だ、だが、アッシャータ様のところにはアンタの仲間が――!」

「次、マレオパールのことを仲間とか言ったらただじゃおかねぇぞ」

 不快そうにディートリヒは牙を剥きだした。

「……良いか、もう一度言う。俺はもうアドラー旧子爵なんてどうだっていいんだよ。あの旧子爵がどんだけの力を持ってようと、どうせ俺のことは殺せねぇ。殺せるとしてもどうでもいい。今はてめぇを殺すことだけを考えてるんだ。だから――」

 土気色の顔をしたジャクリーンを見上げ、ディートリヒは笑う。

 そして地面につき立てられたカットラスに、血の混じった唾を吐きかけた。

 途端ジャクリーンが鋭い歯を剥き出し、何かを喚こうとした。

 しかし、それよりも早く。

「――撃て、クラリッサ」

 一発の銃声が大気を震わせた。

 甲高い悲鳴を漏らし、ジャクリーンが右肩を押さえた。よろけるように大きく後退したその体は一瞬で濃霧の中に溶け込む。

 その後ろには、クラリッサの姿があった。

 肩でで呼吸をしつつも膝をつき、ディートリヒの拳銃を構えている。ジャクリーンの姿が消えたのを見ると彼女は姿勢を解き、急いでディートリヒへと駆け寄ってきた。

「ごめん、銃とか慣れてないから――!」

「当てただけでも上出来だ! それより今すぐデカイ花火をブチかませ!」

「そんな事したらディーちゃんも――!」

 そこまで言いかけて、クラリッサはディートリヒの顔を見て口を噤んだ。

 ディートリヒは首だけでクラリッサを見上げ、鋭い牙を剥きだして笑っていた。

 その銀色の瞳は、歓喜に爛々と光っている。

「構わねぇ――急げ!」

 低くかすれたその声に、クラリッサは黙ってうなずいた。

 一瞬薄らいでいた血のにおいが再び強くなる。

 霧が揺らぎ、クラリッサの背後に影が浮かび上がった。シルクのスクリーンを裂くようにして、霧の中からジャクリーンの姿が現われた。

 怒りのあまり土気色に染まった顔でクラリッサを睨み、その首めがけて手を伸ばす。

 しかしその瞬間、クラリッサの体が燃え上がった。

「うっ、これは――!」

 炎からジャクリーンはとっさに手を引き、再び霧へと変じる。

 自身の体の火を消したクラリッサは振り返り、揺らぐ霧を睨み付けた。炎の如く赤い髪がざわめき、ぱちぱちと火の粉を散らす。

「――なんで吸血鬼が魔女街に手を出せなかったか、知ってるか?」

 ディートリヒが心底楽しそうな口調で言った。

 霧がうねる。どうやらジャクリーンは逃走を図ろうとしているようだった。急速に霧は引き、視界は晴れていきつつあった。

 だが、もう遅い。

 クラリッサの周囲で、バチバチと音を立てて激しく火花が弾けた。

「それは奴らの唯一の天敵が――魔女がいたからだ」

 吸血鬼は、己の肉体を自在に幽体化――構成霊素エクトプラズムに変えられる。

 そうして霧に姿を変えれば、もはや無敵。

 幽霊と同じように、物理攻撃は一切通じない。

 しかし――魔術は通用する。

「やっちまえ、クラリッサ」

 ディートリヒの笑い声とともに、貴族の森を炎が包み込んだ。

 クラリッサを中心として生み出された蛮神の灼炎が、轟音とともに木々を焼き払う。それは瞬く間に膨れあがり、逃げようとしていた霧を飲み込んだ。

「あぁああああ熱い熱い熱い熱いぃいいいいい――!」

 身を焦がす炎熱に悲鳴を上げつつ、しかしジャクリーンは辛くも直撃を避けていた。

 しかしその炎に身を焼かれ、幽体化は不完全になっていた。

 泣き喚き、悪態を吐きながらも彼女は必死で逃げようとする。低く地を這うようにして、消滅していく木々の狭間を抜けようと――。

「――! !」

 狂喜する声に怯んだのか、霧の流れが一瞬止まった。

 地響きとともに、業火の壁を獣の腕が突き破った。燃え盛る人狼の姿が現われた。半身を焦がしつつ、ディートリヒはジャクリーンに笑いかけた。

 そして松明のように燃える右手を振り上げる。

「や、やめろ――!」

「どうした、たっぷり味わえよ。――これが地獄だ、吸血鬼!」

 泣き叫ぶジャクリーンめがけ、ディートリヒは燃える掌打を叩き込んだ。

 爆音とともに、蛮神の火がジャクリーンの顔面で炸裂する。

 凄絶な悲鳴が焼け落ちる森にこだました。

 轟々と燃える顔を押さえ込み、ジャクリーンはもんどりを打って地面に倒れ込む。その瞬間、彼女の体は灰色の霧となって辺りに散った。

「……哀れな奴だ」

 霧が薄らいでいく様を、獣の姿のディートリヒはじっと見つめていた。体を燃やしていた炎が消えていくのにつれ、その姿も元の青年のものに戻っていく。

 やがて完全に人間態に戻ったディートリヒはふっと息を吐き、古ぼけた軍服を整えた。

 銀の三連星のバッジを磨く彼にクラリッサが近づき、声を掛けた。

「……あたしが来なかったら、どうするつもりだったの?」

「あー? ……あー、舌を噛み切ろうと思ってた。うまいこと気道を塞いでよ、窒息死するつもりだった。そうすりゃ復活できるからな」

「そ、そうなんだ。……あとその服、どういう仕組みで戻ってるの?」

「俺も知らねぇ。――それよりクラリッサ、俺と付き合わないか。お前は火力も最高だし、なにより来るタイミングが最高すぎる。俺としたことが惚れちまったぜ」

「いいよ。まずはあんちゃんに相談しようね」

「よし、今の話はナシだ。――ところでお前、どうしてここに?」

「メリーアンを探しに来たの。暴風跡で一緒に捜し物をしてたら、いなくなっちゃって」

 クラリッサは困ったように耳元の護符をいじり、首に巻いたスカーフに顔を埋めた。

 そして手を広げ、辺りを示して見せた。

「この辺り、今魔女街で一番騒がしいから……もしかしたらこっちにいるかもって。メリーアンはルシアンを探しているんだよ」

「あー……どうだろうな。確かにマレオパールはすぐ近くにいるが――」

 その時、二人は遠雷の音を聞いた。

 またたく間に空が曇りだし、叩き付けるような雨が焼け焦げた森を濡らす。風も強まり、クラリッサは吹き飛びそうになるスカーフを抑えた。

「……なんだ?」

「なにか、おかしいね……怖い……」

 あまりにも急激な天候の変化にディートリヒは唸り、クラリッサは不安げに空を見た。

 明確に言葉に出さずとも、感じていることは同じだった。

 この嵐は普通のものではない――何か不穏な物を、あの雷雲は孕んでいる。

 警戒する二人の周囲で、風はますます強くなっていた。

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