第百五十九話 【何も見なかったことにしましょう】

 やってやるぜ!

 なんつって、意気込んだのはいいけどよ……。


「だーれもいねぇのって、やっぱヤベェよな……?」


 右を見ても左を見ても、草とか樹ばっか。ウィルベル先生が魔法を使って、それで俺たちの足元になんか出てきて。それに呑み込まれて、気がついたらここにいた。


「おぉーい!!!」


 とりあえず思いっきり叫んでみる。近くにいるなら返事ぐらいするだろ。――と思ったんだが、全然だった。少なくともこの辺りには誰もいねぇようだ。


 自然区でのサバイバル訓練だよな、これって。たしか始まる前は、四人で連携して、時間いっぱい乗り切ろうって話をしてたと思うんだけどよ。


「一人じゃ、連携どころの話じゃないよな……」


 ……つーことはどうすんだ!? こんなときにどう動くかなんて、全然話してねぇぞ!? テイルは、アリエスは、ハナさんはどこだ? どっちに行きゃあ合流できる? ヤバそうな魔物もウロウロしてるとか言ってたよな……!


 あー! 全然分かんねぇ!!


 …………。


「……ま、なんとかなんだろ」


 ひとしきり頭をワシワシと掻きながら悩んでみたけど、答えなんて出ねぇし。いろいろ考えても仕方ねぇよな。こうやって立ち止まってるだけ、時間の無駄だ。


「とりあえず、どっかに行ってみるか! 魔物が襲ってきたら、返り討ちにすればいいだけだしな!」


 いっつも依頼とかで森に入ったときは、テイルに気をつけろって言われてるけど……。ここでは炎魔法を使っても問題ないんだろ? なら楽勝だぜ!


 ――――。


 とかなんとか思いながら、口笛でも吹きながら歩いていたところで――


「――げ……」

「いきなり大声を上げているからどんな馬鹿かと思えば……。やっぱり貴方でしたの。自分がどれだけの危険を犯しているのか、分かってないようですわね」


 呆れたような声を出して現れたのは、“あの”シエット・エーテレインだった。いきなり出てきて、なんだか喧嘩を売ってる気がするのは俺だけか? 慌てて鎚を構えたところに、後ろからもう一人。こっちも知っているヤツだった。


「お嬢様ぁ。だから放っておきましょうって言ったじゃないですかぁ!」


 シエットのメイドをしているルナだ。

 ……あれ、こいつらなんで一緒にいるんだ?


「い、いきなり二人でいるなんて、ずりぃぞ! お前らも、先生の魔法に呑まれてただろ!? このままだと二対一じゃねぇか!」


「……自分でわざわざ仲間がいないことをバラしちゃいましたよ」


 ――あ゛。


「はぁ……。初めにバラバラに配置されることぐらいは、一つの可能性として予想していて当然でしょう? とはいえ、思っていた以上は離れていないのも運が良かったですけど」


 なんかこいつらは、事前に合流する手段を用意していたらしい。


「あ、頭良いんだな……。――って、違ぇ……! なんだよお前ら! 二人がかりで俺を潰しにきたのか!? 黙ってやられるつもりはねぇぞ!」


「確かに貴方が一人でいることは分かっていましたけど、こちらは別に戦うつもりはありませんの。時間まで生き残ることが目的の訓練で、そんな無駄なことをして消耗する利点はないですもの」


「お、おう……?」


 利点……? なんだか難しいこと言ってっけど、戦うつもりは無いんだな?

 

「一時的にでも戦力になるかと思ってましたけど……。これだと逆に足手まといにしかならなそうですわね。このまま互いに、何も見なかったことにしましょう。それに――みたいですわ」


「こいつは――!」


 シエットたちと話している道の脇から、見覚えのある妖精が飛び出してきた。

 こいつはハナさんの妖精だな……!? なになに――


「うぉぉ! マジか! お前について行けばハナさんと合流できんだな!!」


「……こっちに丸聞こえです」

「この状況で妖精を飛ばしてきたということは、そういうこと以外に考えられないでしょう。あの子ハナさんのことですから、きっと全員を招集していますわね」


『早く行ったらどう?』と言われた。別に言われなくてもそうするさ。


「それじゃあな! お前らも――……!?」


 首元に少しの衝撃があった後、急に身体の力が抜けた。俺の足なのに、全くいうことを聞かねぇ。自分の身体を支えきれずに、倒れこんでしまう。


「…………っ!? なんだ……これ……!?」


 なんだ? シエットが何かしたのか? ……いや、ちげぇ。衝撃はあいつらとは別の方向からだったし、こんな魔法を使ってきたことはねぇし。


「ルナ――」

「……はい、お嬢様」


 ルナが、ぴょんと一足飛びに俺の身体を飛び越える。

 お、おい、この角度ならもしかして――


「み、見え……」くそっ、首が動かねェ!!


「――ぐえっ!?」

「あら、足が当たっちゃいました」


 思いっきり蹴り飛ばされた。痛ってぇ!?


「……ルナ。殿方を足蹴なんて、はしたないですのよ」


『このままだと邪魔だったのでつい――』とか謝ってるようで謝ってねぇ少しは見晴らしのいい場所に動いたのはいいけど、やっぱり自分からは人影なんか見えない。


「とにかく、何か仕掛けられたのは事実。はともかく、気を引き締めて』


 シエットの顔は見えなかったけど、周りを警戒しているようだった。


 俺に攻撃してきたやつがいるのか。自分も見つけてぶっ飛ばしてやりてぇけど、困ったことに身体が一向に思い通りに動かない。


「く、くそ……! どこだぁっ!! 出てきやがれ!!」


「――っ!」

「砂のゴゥレム……!?」


 なんとか頑張って首を捻って。物音のした方を見ると、ルナの目の前に砂でできたゴゥレムがいた。核を中心に流れるようにしながら、身体を形作っているらしい。ルナの持っていた大斧が、その身体に埋まったまま固定されていた。


「なーんか吠えてるぜ。んなことしても無駄だっつーのによ」


「動けない炎の妖精魔法師ウィスパーが一人。そいつに負けた氷の妖精魔法師ウィスパーが一人。で、メイドが一人か。……楽勝だな」

「あっという間に三人脱落! ご愁傷さま!」


 ルナに襲いかかったゴゥレムと一緒に現れたのは、俺たちと同じ学園の生徒。別の学年のやつらだろうか、見たことの無い三人組だった。


 敵意満々。これって……マジでやばくねぇか?

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