第742話 桜家将来会議で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
ロリダイコンが普通のダイコンになった。
ロリじゃなくなったダイコンにアイディンティティはあるのか。
そして、そんな彼がいったい何を巻き起こすのか。
不安いっぱいのまま、桜たちは帰宅の途に就いたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
「えっ、ダイコン君の性格が変わっちゃったって!?」
「桜。アンタ大丈夫なのそれ。友達だから今の会社に入れて貰えたんでしょう。なのに、性格が変わっちゃったら、ちょっと立つ瀬がないんじゃない?」
「いやいや、それはさておき、まさかダイコンどのがそんなことになるとは」
「ダイコン、かわいそうなの」
「きゅるくーん(特別意訳:いやけど、逆によかったのでは)」
「記憶喪失ならともかく、性格変容はやっかいですね。ほんと、厄介です」
そう言って、シュラトの方をじっとみるアリエスちゃん。
こっちに来てからヘタレ化が酷い人物と長らく接している彼女には、そのつらみやばみがよく分かるのだろう。いったいいつになったらもとに戻ってくれるのか、そんな気持ちが顔全体から溢れているようだった。
しかし、そんな彼女の表情を全力でスルーして、今日も元気だご飯が美味いを決めるアホ黒騎士。ほんと、こっちの世界に来て、随分図太くなったものだ。
これはこれでまぁ、実害はあるっちゃあるが、可愛いモノなので笑って許せる。
だが、ダイコンレベルとなると流石に笑えない。
なにせそれでまでの性格を全否定、明らかにこれから付き合っていくのが難しくなりそうなそんな変容なのだ。
ぶっちゃけ、お袋の心配は俺も思っていたことだった。
ロリコンでなくなってしまったダイコン。
ロリが故に、道化の如き性格になった彼。
決して報われることのない、自分の性質を理解しているからこそ、世界に対して優しくあろうと、どこか寛容だった男がそれを失ったのだ。
はっきり言って、めちゃくちゃ不安だ。
彼が以前のままの彼でいつづける保証はどこにもない。
「のじゃぁ、まぁ、そこはダイコンを信じるしかないのう」
「ないんだけれどなぁ。まぁ、記憶を失くした訳じゃないから、そこは異世界で築いた俺たちの絆を信じることしかできんよな」
「異世界の絆ねえ」
なんか言いたげに顔をしかめる親父。
なんだなんか文句でもあるのかと言う感じで睨んでやると、珍しくそれにくってかかってくる。まぁなんだなと言って、我が家のロクデナシは顎髭を触ると、白髪交じりの髪を振った。
いかにも、何も知らない若人に、ひとつ知恵を授けてやろうという感じだ。
おめーに授けられる知恵なんてねえよ。
あるとしたら、人のふり見て我が降り直せだ。
と、言ってやりたいところだが、ここは一家だんらんの食卓。
ぐっと堪えた。
「まぁなんだなぁ。そういう人との絆を信じる心ってのは大切だ。大切だけれども、信じることと依存することはまた別だからな桜」
「えらそうなこと言うなァ親父。依存して酷い目にあったことでもあんの?」
「あるぞ、いっぱいある」
全力で肯定してきたよ。
なんだよそれ。別に自慢できるようなことじゃないだろう。
なのになんでそんなに全力で肯定できるんだ、意味が分からん。
まぁけど、親父がこれまで酷い生活をしてきたのは、一緒に生活もとい苦楽を共にしてきた俺と母さんがよく知っている。彼女が文句を言わない辺り、その言葉には確かに重みがあった。
信じることと依存することは違う、か。
「桜よ。結局の所、人間というのは究極的に一人だ。結婚して、どうしようもなく離れられないような相手でもない限り、目の前の人は他人でしかない。追い詰められれば、人は誰だって自分が可愛いし、自分が一番大切だ。いざとなったら容易に切り捨てる」
「……ダイコンが俺を切り捨てるっての? そりゃないでしょうよ。あれだけずぶずぶと俺に依存しといて」
「それだよ桜。依存って言うのはな、結局そういうことだ。相手を軽く見ること。相手のことを信じないことだ」
お前は確信をもって、ダイコンが自分を切り捨てないと言い切れるか。
そう問い返されて俺は、親父に久しぶりに言葉を返すことができなかった。
昔のダイコンならきっと、信じて言い切ることができただろう。
けれど、今のダイコンは。
要らないものとして、自分のアイディンティティをいともたやすく切り捨てて見せた彼と俺はもしかすると――。
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