第651話 魔法少女で九尾なのじゃ

「大変よみんな!! ハロウィーンの瘴気に当てられて、ついに恐山に封印されていた怨霊――カヨチャン・ロリジャナイ・ノジャバッバが復活するわ!!」


「……ついにこの時が来てしまったのね」


「……カヨチャン・ロリじゃない・ノジャバッバ」


「……まじかよ。あの化け物がついに復活するのか」


「……ウェヒヒ」


 なんかヒーロー戦隊みたいな髪した子たちが真剣な面持ちで話している。


 みんな俺より歳下。

 まさしく少女オブ少女。

 中学生かなという背丈の女の子たちである。


 そんな中に紛れ込んで、中年のおっさんが一人。


 しかも、女子学生服を着ている訳である。

 ピンク色の鬘まで被っている訳である。


 ハードモードとは言った。

 言ったけれども、いきなりこの飛ばしっぷりはどうなのか。


「ちょっとこの展開は予想していなかったですよ。もうちょっと、ハードはハードでもマイルドな感じの攻め方をしてくると思っていましたですよ」


「何をぶつくさ言っているんだ桜ァ!!」


「今頃怖気づいたの!! なんで魔法少女なんかになったのよ!!」


「不安なのは分かるけれど駄目よ桜さん。私たちが心で負けてしまっては――だって私たちはこの世界を守る魔法少女なのだから」


「大丈夫。桜はちゃんと私が守るわ」


 そういう戸惑いじゃない。

 もっとこう、なんというか、アレだ。

 頼む、分かってくれお嬢さんたち。


 おじさん、自分でも自分の状況についていけていないんだ。

 どうしてこうなったと、もうキャパオーバー状態なんだ。


 おかしいだろう。


 少女たちの間に混じって、一人だけおっさんがいるとか。

 それも魔法少女の集団の中におっさんが一人まぎれこんでいるとか。


 全員がおっさんならまだなんか物語として成立するよ。

 女子中学生か、女子高校生か分からないけれど、少女たちの群れの中におっさんが放り込まれるってそれはどうなのよ。

 それは、やっちゃいけない感じの話じゃないのよ。


 脚本家か黒幕か、それとも魔法少女たちを集めた妖精か知らんけれど、もうちょっと絵面というのを考えてくれ。

 犯罪の匂いしかしない。


 しかも少女たちに合わせておっさんが制服着ているとか。


 どういうプレイだよ。

 特殊過ぎるよ。


 そういうお店でもなかなかできない経験だよ。

 そして、そんな経験にうら若い乙女たちを同席させることに、並々ならない罪悪感を感じずにはいられないこの俺だよ。


 どうなってんだフォックス。


「ノジャジャッジャッジャ。魔法少女たちよ、いまさらあがいても無駄なのじゃ。もはや世界はこの大魔女――カヨチャン・ロリジャナイ・ノジャバッバの手に落ちるのじゃ」


「ほんで、お前もノリノリで出てくるし!! なんなのこれ、どういうことどういうことどういういこと!!」


 はいカーットと声が鳴る。

 当然、上記の出来事はマジでやっている訳ではない。

 マジでやっている訳ではないが、戸惑わない訳でもない。


 そう、これはテレビの撮影。

 正確に言うとドラマの撮影。


 魔法少女ソワカ・アミダVS年増狐カヨチャン・ロリジャナイ・ノジャバッバ~青森恐山バトルデスマッチ~という、恐ろしく意味の分からないドラマを俺たちは撮影しているのだった。


 もちろん、監督は我らの頼れる名物監督。

 ライオンディレクターだ。


「いやー、加代ちゃんをメインについに一本作品を撮れることになったんだけれどね、やっぱりこうトンチキ作品にしたくて」


「それで相手の魔法少女チームに男を入れるって、発想が異次元過ぎて俺はもうついていけないんですけれど」


「のじゃのじゃ、無理について行く必要はないのじゃ。若者の感性というのは、尖っているものじゃからのう」


「これがもし若者の感性だとしたら、そいつら生きながらにして死んでるよ。ゾンビ的な何かだよ」


 ゾンビ・アルイハ・ナニカ。

 よくわからんが、そんな感じ。


 おっさんが魔法少女の一団に混ざっていることを、腹の底から笑える奴なんて、よっぽど世間にくたびれている奴だけだっての。


 そもそも、若者は魔法少女なんかに興味なんて示さないっての。


「まぁー、良い所で画も切れた所だし、それじゃ変身バンクの撮影に入ろうか」


「うぇ、マジでそんなこともするの? CGとかでやっちゃうんじゃないの?」


「桜くん、一応IT系の出身でしょ。CGで加工するにしても、元になるデータがなかったらどうしようもないじゃないのよ」


 という訳でと、がらりがらりと例によって青色のなんか合成しやすい背景舞台が奥から出てくる。


 順番に撮影するから並んでねと言われたが、そこは見た目通りにまだまだ思春期の女の子たち、少し戸惑ってどうするという空気になった。


 まぁ、テレビ仕事はこういうきわどいものをやらされることもある。

 ある程度は彼女たちも覚悟してこの業界に飛び込んできているのだろうけれど、踏ん切りがつかない気持ちも分からないでもなかった。


 やれやれ――。


「仕方ない、それじゃ、俺が一つ先陣を切らしてもらうとしますか」


「のじゃ、桜」


「おぉ、桜くん」


 魔法少女の中に放り込まれた中年。

 そのシチュエーションにちょっと戸惑っていた俺である。


 しかしながら、俺も男だ。

 そして年長者だ。


 大人として、子供たちに示すべき背中がある、道がある、使命がある。


 そう思えば、自然と身体は動いていた。


 変身バンクなにするものぞ。

 見せてやろうじゃないか、男の魔法少女の心意気というモノを。


「んー、まぁ、桜くんの場合は、いろいろと大掛かりになるから後の方がよかったんだけれど、本人のやる気を今回は買うとしましょうか」


「ライオンディレクター」


「それじゃ――追加の装置持ってきて」


 はぁーいという声と共にやってくるのはアシスタントディレクターさん。

 いつも健気にライオンディレクターを支える彼女は、今日も今日とて落ち着いた顔で――。


「熱〇コマーシャルで見た奴!!」


 なんか、魔法少女の変身バンクには絶対に必要のない舞台装置を持ってきた。

 そしてそれを青い背景の前に置いた。


 うん。


「おっさんの裸なんて誰も見たくないから」


「逆に見えるか、見えないか、見せていいのか、そういうドキドキハラハラを狙っていくのはどうかなということになりまして」


「桜――早着替え頑張るのじゃ!!」


「納得!! できねえ!!」


 これ絶対、正統派魔法少女モノじゃない。

 キワモノ系のギャグドラマだ。


 ヨシヒ〇とかの系譜だ。

 そんなことを思いながら、俺はしぶしぶ紅白の暖簾の中へと入るのだった。


 とほほ、とんだドラマもあったもんだよフォックス。

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