第642話 スーツアクターで九尾なのじゃ

 ひきつづきダイコンパーク。


 いやはや、やっぱり国内最大級のレジャー企業の作ったテーマパークである。

 ダイコンッシーはともかくとして、いろんな乗物からいろんなイベントまで目白押しである。

 遊具はもちろんのこと、アトラクションの小物や、お土産物屋の物品など、いろいろ置いてあるが、そいつらをグループ企業が作っているのだ、企業全体で見たならば、それはもう大した儲けになっていることだろう。


「企業経営の方針がしっかりしてるよな。とてもダイコンの会社とは思えない」


「せやろ。まぁ、なんやかんやで、ワイも結構辛い目にはおうてきたでな。親父から引き継いだ二代目社長やけれど、そら、いろいろと勉強させてもらいましたで」


「のじゃぁ、社長業もたいへんなのじゃのう」


「やっぱり本業についての知識がないと従業員が煩いやで。しっかり勉強して、従業員にも引けを取らん人材にならへんと自分の首を絞めることになるだけや。それに加えて経営学やら財務関係から、なにやらなにまで。大変なんやで」


 へぇ、苦労しているんだな。

 そんな感想が、なんだか無感情に口から出る。

 そうなってしまうのは仕方がない。


 ダイコンの奴が、なんかこうご当地ゆるキャラみたいな恰好をしていたからだ。具体的には、なんていうかファンタジー世界での彼の姿を彷彿とさせる、ダイコンのきぐるみを着ていたからだ。


 絶妙に目が可愛くない。


 可愛くない上に、なんかこうむかつく感じに仕上がっているそれは。


「もー、そんなにほめても、何も出ないダイコンッシー!! おろし汁ぶしゃー!!」


「またそんな懐かしいネタを」


「ダイコンッシーって、お前のことだったのじゃ」


 そう、ダイコンッシーである。

 このダイコンパークの新しいマスコットキャラクター。

 ダイコンの妖精、ダイコンッシーである。


 そこはかとなく、異世界の歩きダイコンを彷彿とさせるそいつは、あきらかに子供の夢をぶち壊す感じのキャラだった。

 ついでに、最近めっきりテレビで視なくなった、ゆるキャラのパクリ感あふれるものだった。


 うん。

 どうしてこんなマスコットキャラクターにした。


「もっとこうあっただろう、ちゃんと可愛い感じのマスコットキャラクターにする方法が」


「そんなこと言われても困るダイコンッシー!! 異世界転移した際に、これや思うたらもう止まらへんかったんダイコンッシー!! おろしスプラッシュ!!」


「なんもスプラッシュしとらんやろがい!!」


「のじゃぁ、スーツ着こんでそれだけ動けるとか、なかなかアグレッシブなのじゃ。それは認めるのじゃが――ダイコンッシーはないのじゃ」


「ちなみに、ダイコンッシーの好物は若奥様」


「おい」


「ますます子供の夢をぶち壊しじゃねえか、やめろやそういうメタな設定」


 奥さん、これが欲しかったダイコンッシーとキメ顔でいうダイコン。

 そんな彼に、俺は久しぶりに脳天からチョップをくらわすのだった。


 異世界と違って砕けることのないダイコン。

 しかしながら、群れる、暑い、まとわりつくで、やりたくない仕事の代表格であるスーツアクターをしている彼には十分効いたのだろう。やせ我慢かから元気か。とにかく、俺の一撃で静かにダイコンはその場に沈みlこんだのだった。


 南無。


 うーん。


 パクリはやっぱり駄目だダイコンッシー。


 ちゃんとオリジナルキャラクターで勝負しろダイコンッシー。


 なにより、このキャラクターは流石にテーマパークのキャラとしては危ないダイコンッシー。


「のじゃ、もっとこう、親しみのあるキャラクターが必要なのじゃ。こう、昨今のモフモフブームに乗っかって、もふもふキュウビちゃんとか、そういう感じの」


「女の子マスコットキャラクターって、絶妙に女の子受けが悪いよね」


「……のじゃぁ」


 哀れ、加代さん、売り込み失敗。


 けど、それでよかったと思うよ。


 スーツアクター、ぜったいしんどいだろうし。


 あと、たぶんキュウビちゃんじゃなくてくーびーちゃんになると思うよ。

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