第638話 パーラーダイコンで九尾なのじゃ
いやもう、パチンコやスロットなんてね、すっかりとやめましたよ。
転職に異世界転移やら貧乏生活やら家族との同居やらで、とてもじゃないけどそんなの行く資本的余裕なんてありゃしませんよってもんですよ。
行ったら行ったで加代も文句言うし。
おふくろも苦い目を向けてくるし。
なのちゃんに至っては、お兄ちゃん臭いとか言うのが目に見えているからね。
そりゃもう、ギャンブルからは卒業ってもんですよ。
「……今日限りでな!!」
けどまぁ、辞める前に一勝負くらいしておいても罰は当たるめえ。
そんな軽い気持ちで、やってきましたよパーラーダイコン。俺は早速中に入るとめぼしい台を探した。
うむ、やっぱり基本はジャグ〇ーだよな。
六号機になってから、時間効率のいい台が出るようになったけれども、なんだかんだでスロットは設定だよ兄貴。結局、いい台を拾って長いこと打つのが一番勝てるんだ。
ぽちりぽちりと出玉履歴を確認する。
はまっている台を打つか、それとも出ていた台を打つか、それが問題だ。
基本、設定変更は警察署への届け出が必要とか言うけど、まぁ、そこはあれよね。設定変更画面が見えないような形で、なんかこうごにょごにょされてるとか、考えちゃうものよね。いや、絶対にできないはずがないもの、そういう改造。
証拠がある訳じゃないよ。
けどさ、こう、ホッパーエンプティで店員さん呼んだら、あきらかになんか要らん作業してて、それからぱったりと挙動がしぶくなったりとか、そういうのってこう――。
「ウェルカム、ようこそパーラーダイコンへ。ここは欲望のるつぼ。男たちの社交場。当店は誰でもウェルカム。お客様の来店をここよりお待ちしております」
「DA☆I☆CO☆N!!」
どう表現したらいいのか。バーテンみたいな感じの服装で現れたのは、俺たちの素敵な友人ダイコンタロウ。
そうか、パーラーダイコン。これが伏線だったのか。
なんか真新しくなってるな、知らないパチ屋だなと思ったけれど、ダイコンホールディングスの関連子会社か。
そして――これが今回のダイコンのお仕事ネタか。
「ふっ、ダイコン店長とはな。お見それするぜ。まさか社長自らが客ではなくて店長をしているとは。やっとでて九らしくなってきたじゃないのよ。お前もようやく、異世界のマスコットキャラクターから、現実世界の愉快な苦労人ってのが分かってきたようだな」
「いや、ワイは今日は普通に店員やで」
「……ホワット?」
なんと。
いま、なんと申したか。
ホールの中を駆け巡るそれは血風。
バジリス〇でも置いてある島の如く、なんだか神妙な感じになる。
いや、バチクソ煩い台なんだけれど、なんかそういうアレな殺伐とした空気が場に流れる。
「いや、まぁ、パチ屋の店員とかやってみたらどうやっちゅう案が出てやな、せやったらそっちの方面には手を出した覚えはないからと、店を構えたまではよかったねん。よかったねんけど、やっぱりそういうのはプロやないと分からへんやん」
「……その道の、プロ!!」
「聞いたらまぁ、遊んだことはあらへんけど、働いたことは結構ある言うてたもんでな。そしたらちょっと、店長はお任せしてワイは店員という立場で修行させてもらおうかなということになりましてな――」
はい。
もう、オチは読めましたよ。
読めました。完全に把握した。
なるほど、ここ数回ダイコン出張デリバリーオキツネコヤコヤクビになる小説と思って油断していたが。どうやら、今回は違ったようですね。
謎はすべて解かせて貰った。
そして、俺は急用を思い出した。
可及的速やかにこの場を脱せねばならない。
具体的には、加代さんが来る前に、このパーラーから逃げ出して、惨劇を回避しなくてはならな――。
「SHA~KU~RA~?」
「KA☆YO☆CHA☆N!!」
「……ギャンブルは引退するって言ったのじゃ!! なのちゃんもおるというのに、お主と言う奴は!! このたわけ!!」
その後、俺の姿を見た者はいない(その日だけ)。
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