第637話 顔出しユーチューバー社長で九尾なのじゃ

『こんにちは皆さん。ダイコンホールディングス社長のダイコンタロウです。今日は、弊社ダイコンチャンネルをご覧くださりありがとうございます。いやはや、時代の流れに乗っかって初めてみましたが。えー、視聴者数千人ですか。全世界生中継でこれは初動としてはなかなか多いのでは。なーんちゃって。なんにしてもありがとうございます』


「流ちょうに英語を話すとな」


「のじゃぁ、視聴者数二千、三千、五千――万を超えたのじゃ!! 収益化申請承認!! Twitterでトレンド入りしているのじゃ!! さらに第二波くるのじゃ!!」


 なんでやねん。

 なんでただのおっさんのユーチューブチャンネルで、こんな意味の分からんPV数の回り方するねん。視聴者数がえらいことなるねん。


 ほんでダイコン。お前もなんでそんなグローバル対応したスキル持ってるねん。

 まるで流れるように英語で挨拶しやがって――。


「高学歴か!!」


『えー、今日はこの日本語しか喋ることのできない、猿顔の男の性的嗜好について話していこうと思います。皆さんも気になりますよね、この猿が嫁にいったいどうい劣情をもよおしているのか』


「何言ってるのか分からないけれど、なんか馬鹿にされたことは分かるぞ!! おい、やめろダイコン!! ストップストップだよ!!」


「のじゃ!! 本社回線、負荷集中によりクローズを確認!! オフラインなのじゃ!!」


 カーット!!

 このチャンネルの総監督の俺はカメコを切ると、ダメダメ駄目だよとダイコンに近づいた。何もダメなところなんてないけれど、限りなく上手く行っていた気がするけれど、駄目なことにして彼に詰め寄った。


 うん。


「おまえー!! いったい何ドルユーチューブに払ったんだ!! おまえー!! どう考えてもおかしいだろ!! なんでこんな視聴者が集まるんだろ!! ただの社長の動画に!!」


「……いや、社長の動画って割と見られるもんとちゃうか?」


「それはユーチューバーになってから社長になった人でしょう!! 違うよ、社長なのにユーチューブでいきなりこの視聴者数はおかしいよ!!」


「のじゃぁ。タカ〇社長がユーチューバーになったとしても、この勢いで視聴者を集めるのは無理な気がするのじゃ」


 挙動がおかしい。


 長年スロットをやってきた俺には分かるんだ。

 これは明らかに運営とグルになって不正を働いている。どう考えても何か注入している。でなければ、何の広報活動もしていないというのに、こんなに動画が人に見られるはずがないのだ。


 そう、そんな簡単に有名ユーチューバーになることができたら苦労しないのだ。

 のじゃのじゃ加代さんだって、めっちゃ苦労してたんやぞ、お前。視聴者数、結局百もいかへんかったんやぞ。のじゃのじゃ加代さん。


 こうなったら垢バン覚悟で露出するのじゃとか言って、必死で止めてようやく百行くか行かないかだったんだぞ。結局、垢バンくらったんだぞ。


 なのに――。


「なんでお前はそんな簡単に人のできないことを平然とやってのけるんだよ!! できねえ奴の気持ちを考えたことがあるのか!! この、完璧大根パーフェクト・ダイコン!!」


「いや、ワイかて意味が分からんがな。なんでこんな視聴されてるか、不思議でしゃぁないっちゅうねん。なんなんやろなこれ」


「……そんな!! ユーチューブに金を渡してないのか!?」


「渡しとらんがな。というか、桜やんらがやろう言うからやっただけであって、ワイは別に乗り気とちゃうかったやんか。むしろやりたなかったっちゅーねん」


 では、先ほどのエヴァンゲリオ〇の使途襲来のような挙動はガチだというのか。

 そんな、そんなミラクルがあるというのか。


 いや――。


 確かに怖いくらいに当たる時はあるにはある。

 けれど、こんな、けど、しかし――。


「か、加代さん!!」


「のじゃ、どうしたのじゃ桜よ!?」


「すぐに放送再開できるか――これは来ている流れかもしれない!!」


「なんや来ている流れって」


「のじゃ、いいのじゃな桜よ。お主のわらわに対する歪んだ欲求が、全世界にブロードキャストナウされてしまっても構わないというのじゃな」


 構うか構わないかで言えば、構う。

 俺の特殊な趣味が、世界の皆さんの知るところになるのはとても困る。


 しかし、今、ダイコンに来ているビックウェーブを、止めることの方が罪だ。


 人間は自分の望む未来を切り開くことができる。

 しかし、その望む未来の振れ幅は違う。

 小さな未来を勝ち得るもの、大きな未来を勝ち得るもの、それは人それぞれ。そして、多く運に左右される。


 そして、その天運が今、ダイコンの上に輝いているというのなら。

 友としてその背中を押してやらなくちゃならない。


 それが男と男の友情のあるべき姿――。


「俺のことなんか構うな!! ダイコン!!」


「桜やん!!」


「とっちまえよ、この世界の覇権を!! ダイコンチューバーのトップを!!」


「のじゃ!! 通信回線回復!! すぐに行けるのじゃ桜!! ダイコン!!」


 さぁ、見せてやれダイコン。

 お前という男の雄姿を、そして、お前と言う男のトークを。

 どっかんどっかん、世界をそのウィットに富んだトークで笑かしてやるんだ


 たのむで、ダイコン。


「……このチャンネルは、内容がとてもセンシティブなため、削除されました」


「……センシティブ」


「……のじゃ」


 通報されたか。

 まぁ、そうよね。


「とほほ、やっぱりユーチューバーなんて楽にできるもんじゃねえぜなのじゃ」


 俺は固まるダイコンと加代の代わりにワイプアウトで絞めた。


 よかった、俺のセンシティブな趣味が全世界に公開されなくって。


 本当に良かった。

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