第636話 一日市長で九尾なのじゃ

 市長ってなんだろ。

 市長ってどんな仕事かな。

 市長っていったい何をしているんだろう。


 高い市民税を労働者から搾り取って、彼らはいったい僕たちのために何をしてくれるのかな。市のためにいったいどんなことをしてくれるのかなぁ。分からない、市長ってよくわからないよ。いろんな市があるけれど、それって、その市長でなければできない仕事なのかなぁ。彼ら、それほど僕らと変わらない人間なのかなぁ。


 わからない、市長って、本当によくわからない。


 だから、働いてみてもらうことにしました。


「えー、それでは、私が本日新横ニューヨーコシティの一日市長を務めさせていただきます、ダイコン・ハガー・タロウです」


「……おぉう」


「……まさかのサスペンダー、上着脱いだらネタがここにつながるとは」


 東京に寄った帰り。


 尻の痛みにちょっと帰阪するのが遅れてしまった俺たちは、その間に、なんかできることないかなーとお仕事を探していた。

 探していたら、貴方も一日だけ市長になってみませんかという、ようわからん求人を見つけたので応募した。

 勝手に、ダイコンの名前を使って応募した。


 そしたらこれである。

 よっぽど応募する人が居なかったのだろう、一発でこれである。


 市長ダイコンここに爆誕。


 うぅん、持ってるなこいつ。

 なんか知らんが、うちの加代さんバリによくわからん運を持っているぞこいつ。ダイコン・ハガー・タロウ。


「えー、突然ですが皆さん、この新横ニューヨーコシティには現在悪の手が迫っています」


「……な、なんだってー(棒)」


「……のじゃぁ。大変なのじゃぁー(棒)」


「私はあなたたち市民の安全を守るために、今日一日市長に立候補した。この街に巣食っている悪を一掃するべく、ここにやって来た。早速だが、頼りになる仲間を紹介しようと思う、カモンサクラ!! エンドカヨチャン!! そして、シュラト!!」


 招待されたよ。


 なんか知らんけれど、頼りになる仲間として俺たち紹介されたよ。


 そんでもって、おじいちゃんおばあちゃんたちが拍手しているよ。

 一日市長のイベントに、暇だからやって来た感じのおじいちゃんとおばあちゃんが、盛大に俺たちに拍手をしているよ。

 平日のおじいちゃんとおばあちゃんたちのテンションがやばいよ。

 ほんとやばいよ。


 そして、そんなヤバい感じの只中に、放り込まれるのもヤバいよやばいよ。


「えー、紹介しよう、女子高生好きストリートファイターの桜くんだ」


「いや、なんだその紹介。女子高生好きと違うわ」


「訂正しよう。よく内縁の妻に女子高生の格好をさせようとする、変態野郎の桜くんだ」


 しねえよ。

 してねえよ。

 いや、したかもしれないけれど、変態ではないよ。


 そういうマンネリ打破のために、こう、いろいろと取り組むのは変態じゃないよ。むしろそういうのをさらっとばらす方が変態だよ。


 というか、なんで知っているんだよ、市長。

 おい、市民のプライバシーどうなってんだ市長。


「安心してくれ!! 桜は変態だが、頼りになる変態だ!! そして、児ポ法もちゃんと理解している、分別ある変態だ!! 女子高生好きだ!!」


「なんだよ、分別ある変態って!!」


「女子高生の格好をさせた、三十歳以上の女に興奮する変態だ!!」


「しねえよ!!」


 しねえよ。

 してねえよ。

 いや、したかもしれないけれど、三十歳以上じゃないよ。

 三千年生きたオキツネだからしたんだよ。


 あれだよ、そこまで年齢を重ねると、逆にレアリティがアップして、なんかこうウワキツとかそういう次元じゃなくなってくるんだよ。

 むしろ、そのマニアックさを分かってくれよ。


 だから、市長。

 なんで知っているんだ市長。


「そして、こちらがそんなマニアックな内縁の妻の加代さんだ」


「……のじゃぁ。最悪の紹介のされ方なのじゃ」


「彼女はアクション退魔忍の資格も持っている、生粋のスケベソルジャーだ。安心して、街の治安を任せられる、感度三千倍のスケベソルジャーだ」


「任せられねえ!! 絶対に任せたらあかん奴だろ、それ!!」


「退魔忍カヨチャン――新横ニューヨーコハマハマアリーナデスマッチ――だ!!」


 変なタイトル造るな市長。

 そんな、卑猥そうで卑猥じゃない、退魔忍アクションアドベンチャーさせるな。


 というか、人の内縁の妻になんちゅーことをさせようとするんじゃ。


「そして。シュラト。彼は街のごろつきだ。いや、ごろつきというか暇人。暇人というかニート。ニート、そう、ニートオブニート。ニートオブキング。普通の生活が送れない男」


「……おぉぅ」


「……またなんかちょっとこう、ネタをかぶせて来た感じのそんなネタを」


 そして否定できな感じのネタをぶっこんでくるもんだ。

 青い顔をするシュラト。

 気まずくうつむくシュラト。


 否定できないのが辛い。

 けど、自業自得やぞ、普通に生きられないニート。

 ちゃんと働いてれば、こんなことにはならへんかったんやからな。


 反省しなはれ。


 かくして――。


「俺たち四人は、これから新横ニューヨーコシティに蔓延る悪の組織――マッポ・ギアにダブルラリアットを食らわせに行ってくる!!」


「うわぁ、一文字違うだけなのに、超不穏な感じ」


「本当にそれ悪の組織なのじゃ!? 一日だけ長が変わる感じの、そういう感じの組織じゃないのじゃ!? わりとパブリックな組織じゃないのじゃ!?」


「皆、新横ニューヨーコシティの平和は、自分たちの手で守るんだ!! さぁ、俺に続け!! 正義は俺にあり!!」


 市長ってなんだろう。

 市長ってなにしてるの。


 わからない。

 とりあえず、市民を率いてダブルラリアットするようなのは、なんかこうフィクションの中だけの存在だと思う。


 ほんと、こんな仕事に応募するんじゃなかったよフォックス。


「ダイコン!! 落ち着けダイコン!! しっかりするんだ!!」


「のじゃぁ!! 変な仕事ばっかりさせて悪かったのじゃ!! だからちと、落ち着くのじゃダイコンの!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る