第635話 二丁目で九尾なのじゃ
東京新宿〇丁目。
いろいろな丁目があるけれど、このネタができる丁目はここしかない。
そう、ここはオカマの二丁目。
「……おまたせしまたぁ!! 桜ちゃんどぇす!!」
「のじゃぁ!! 何をやっとるのじゃ、お主は!!」
「俺が聞きたいわそんなもん!! なんで週があけたら二丁目でオカマになっとんねん!! どういう話の流れやこれ!!」
俺たちはダイコンタロウの仕事ぶりを通して、仕事をすることの大変さをシュラトの奴に分かってもらおうと、そういう趣旨で動いていたはずだった。
本当ならば、この役目はダイコンタロウのはずだった。
なのに、気が付いたら俺がオカマになっていた。
かろうじて玉はついているけれど、ごつい感じのオネエになっていた。
やけっぱちに台詞も吐いていた。
ちくしょう、なんだこれ、どういうことだ。
「あー、お兄ちゃんてばちょっと才能ありそうかなとは思っていたけれど、はまり役だねぇ。普通、そこまでノリノリで一発目キメられる人そういないよ」
「……その声はまさか!!」
「……のじゃ!! 異世界編でしばらく出番がなかったそなたは!!」
現れたのはパーフェクトニューハーフ。
性別という概念を超越して、完全存在としてこの世界に君臨する、第二のお狐。そう、九尾の狐よりも女っぽい、けれども女ではない、そんな存在。
でてきたアンタは四尾さん。
加代の半分以下の尾っぽの数ながら、母譲りの美貌と妖艶さで、男も女も手玉にとる生粋の化生――そう。
「ハクくん!!」
「ハク!! お主、こっちにまで出張してきておったのじゃ!?」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん久しぶりー」
加代さんの弟にしてニューハーフオキツネハクくんであった。
なんか今はこっちの方でお仕事をしているらしい。
いえぇーいとハイタッチするも、こっちは明らかに悪魔合体に失敗した生き物、向こうは神が造りたもうた世界の宝のような造形美。
当然、タッチした瞬間、なんかこうもう完全敗北したような気分になる。
俺はなすすべもなく肩を落とした。
いまさらだけれど――。
「……死にたい」
「えぇ!? ノリノリだったのに、なんでお兄ちゃんそんなテンションダダ下がり!?」
「ハクくん。女としての格を見せつけられて、アタイジェラシー感じちゃってるの。どうしてハク君みたいになれないのと、嫉妬しちゃったの。分かって」
「のじゃぁ、桜よ、やはりお主その気が……」
「桜という名前の時点で、ちょっとそっちの才能あるかもと思っていたけれど。まさかここまでハマるだなんて……」
だって仕方ないでしょ。
どうして同じ男なのに、こんなに差が出てしまったの。
どうして、なんで、着ているモノも、使った化粧品もそんなに変わらないっていうのに。方やモンスターがどっちゃり出てくるRPGのラスボス。
方や、映像美とストーリーが売りの超美麗RPGのラスボス。
そんな差が出ちゃうってのよ。
グラフィックの使い方が違うよ。
いや、画調が違うよ。
なのにどうして同じになっちゃったの――。
スク〇ェア・〇ニックスかよ!!
「この世全ての美と言わん感じのハクくんと同じ空間にいるという事実!! それがもう、俺には耐えられない!! くっそ、どうしてこんなことになっちまったんだ!!」
「のじゃ、だったらもう、さっさと服脱いで、元に戻ればいいのじゃ」
「負けっぱなしは主義じゃないのよォ!! 決めた、アタイ、これからマカオに行くわ!! 桜の大冒険でマカオに行くわ!! そしてゲットアウトするのよ、金の玉を!!」
「えぇい、いい加減にせんか!! いくらなんでも一時の感情に流されすぎ――」
「おーい、桜やん、加代やん。これでええんかー。なんや、オカマバー言う割には、女っ気のない衣装やけれど。つうか、これ、ツナギやんけ」
ぬるりとトイレから出てきたのは、間違いのないいい男。
ただ、ヤマでジュンな感じではなく、ツリでキチな感じである。
あ、そういう路線もありなのね。
そして、こっちはこっちでなんというか、こういうのやらせてもいけるのね。
「いやけどしかし、オカマバーで働くて、いくらなんでもそれはちょっと恥ずかしいもんがあるなぁ。ノリでやる言うたワイもワイやけど」
「……お兄さん、ちょっとこっちきてぇ!!」
「……オカマとゲイは違うの!! オカマとゲイには越えられない壁があるの!! けれども、それでもいいかもって思っちゃうから怖い!!」
「……じゅるり!! いい男!!」
やんのやんのと取り囲まれるダイコンタロウこといい男。
できるやつは何をやってもできる。あぁ、こういうニッチな業界でのお仕事なら、きっと苦労するに違いないと思ったけれど――。
「さっ、上着を脱いで楽にしましょう」
「いい、サスペンダーがあるのよ」
「あらやだ、見かけによらず着やせする方なのね――セクシィー」
「おいおい、やめてくれよまったく。ふはは、モテる男は辛いぜ」
うん。
お前がいいなら、それでいいよ。
達者でなダイコン。
俺は奥のスペースへと連れていかれるダイコンを生温かい目で見送った。
ここ、ハプニングが起きる感じのオカマバーじゃないと思うけど、仕方ないよね。だって彼、男が惚れる男なんだもの。
こればっかりは、どうしようもないわ。
「……ところで、なんでわざわざ新宿なんかに?」
「いや、流石に地元でこの格好になるのは」
「のじゃ。いろいろと悪いうわさが立つかなと思って」
「アァーーッ!!」
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