第632話 いいからさっさと仕事しろで九尾なのじゃ

 まぁ、ゴネた。

 シュラトの奴はゴネた。

 もうお前本当にいい加減にしろよと嘆きたくなるくらいに、シュラトの奴は俺たちに対して、頑なにあーだこーだと理由を付けて仕事ができないと申し立てた。


 それら一つ一つに反論していた俺たちだが。

 長くなると流石にちょっとだれてくる。


 それでもって一番最初にキレたのが――。


「えぇかげんにせえやシュラトやん!! 自分、そんなに仕事がしたくあらへんのか!! そんなん、人間誰しも仕事なんてしたあらへん!! それでも生きるためにしゃぁないなと割り切ってやるもんやろうが!!」


 ダイコンタロウであった。

 割と、生きるために割り切らなくても、生きれているような男。

 ダイコンタロウに間違いなかった。


 毎度思うが、こいつが言うとなんだか一気に胡散臭くなるな。

 金持ちだからというのもあるけれど、なんというか、それならそれでお前ももうちょっと額に汗かいて働いている姿を見せて見ろよという気分になってくる。


 いや、それは、社長業なんて簡単にできるもんじゃないかもしれないけれどもさ。


 なんにしても、一番予想外の奴がシュラトの我儘にキレた。


「ダイコン殿はこちらの世界では割とゆるくてそれでいて地位も高い仕事をしているではないか。そんな人に労働のなんたるかを語られたくない」


「なにおう、言うてくれるやんけ」


「いや、実際問題、こんなたいそれた仕事をしている人間に、庶民の仕事に対する想いだとかそいういうのはわからんでしょうよ」


「のじゃ!! ダイコン!! お前も一回庶民の働き方みたいなのを体験するべきなのじゃ!! そんな上から目線だから、シュラトの奴も納得せんし、わらわたちもお主の言うことにちょくちょくひっかかってしまうのじゃ!!」


 そして、怒りの矛先がシュラトからダイコンへとずれる。


 シュラトが働かないことにたいする嫉みも大きい。

 しかし、ダイコンタロウが社長職なんていう、バブリーな仕事をしていることに対する嫉みだって大きいのだ。


 なんだ、社長って。

 お前はこちらの世界の惨状に絶望して、異世界に転移してダイコンになった、おまぬけコメディリリーフじゃなかったのか。

 なのに、こっちの世界では社長してますって、どういうことだ。


 根が大根じゃなかったら、パリピじゃないか。

 お前、もうちょっと勇気を出して前に出ていけたらパリピじゃないか。


 それでなくても約束された勝利の社長じゃないか。

 こんな大規模なホールディングス。絶対に儲けとか大きい奴やん。

 ちくしょう、ダイコンのくせになんでこんないい生活を続けているんだよ。


 ほんと、ダイコンのくせに。


「ダイコン!! お前も社長とかやってないで、下々の人々に合わせた仕事をしてからそういう説教はしろや!!」


「なのじゃぁ!! 上から命令ばっかりして、自分は何もしないとか卑怯者もいい所なのじゃァ!! ダイコン、お主も男であれば、やってみてさせてみてを実践してみるのじゃ!!」


「いや、その格言を言ったおっさんは、見事に戦争で撃墜されて死んでるけど」


 そんなことはいいから。

 とにかく、偉そうにシュラトにマウント取るなら見せていただきたいものだ。


 ダイコンに自分がどれだけ仕事に一生懸命なのかを。

 金を稼ぐということが、どれほど大変なのかということを。

 それができないというのに、加代さんと一緒にシュラトに説教するなど――。


 笑止。


「ダイコン!! 男を見せる時が来た!! お前も男だろう!! 加代ちゃんがクビになるさまを見て、思う所はなかったのか!!」


「のじゃ!! お主も生きることの大変さをもうちょっと分かるべきなのじゃ!! ダイコン、シュラトの目を覚まさせるためにも――お主もお仕事チャレンジなのじゃ!!」


「うぇえぇ……マジかよ。社長業やってるじゃん。結構たいへんなのよ、これ」


「「社長なんて猿でもできるのじゃ!!」」


 当初の意図とは完全にずれてしまったが仕方ない。


 説得力だ。

 やはり、物事には説得力というのが必要だ。


 シュラトの奴を社会的に更生させるためにも――ダイコンが頑張って働く姿を見せるというのは、大切なことのように思えた。


 かくして、九尾クビになる小説からダイコンクビになる小説へ。


「しゃあねえなぁ。俺、あんまり実務は得意じゃないんだけれど、ちと頑張るか」


 ダイコンのお仕事ぶりが披露されることになるのだった。

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