第574話 大海原横断クイズで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 暗黒大陸問答。

 謎の野蛮な大陸の正体、それは、邪悪な神の箱庭であった。

 憤る、桜、加代、そしてダイコン。


 目的は自分たちを置いてどこかへ消えたタナカ。けれども、彼らの怒りは既に、非道な魔法使いから、悪逆な神へと向いていた。


 魔神シリコーン許すまじ。


「アネモネちゃんと同じレベルの邪神。許せるか、そんな信仰のマッチポンプ」


「絶対にやっちゃダメな奴なのじゃ」


「ちょっとちょっと、私をあんなシリコンぶよぶよピンクこんにゃくと一緒にしないで頂戴よ。失礼ですなぁ、ぷんぷん」


◇ ◇ ◇ ◇


 ともあれ、邪神シリコーンの悪行はよく分かった。

 異世界出身の俺でも、なんだとと声を荒げたくなるその所業。

 まさに許すまじである。


 確かにかつて、世界は神々のモノだった。

 しかし、今現在、世界で多く生きているのは人間たちだ。

 それを神々の奴隷にするのは間違っている。この世界に生きる人間たちの自発的な意志を完全に無視した行いである。


 それは魔王。

 まさしく邪悪なる者の行いである。


 もしかすると――。


「俺たちがこの異世界に呼ばれた理由って、その暗黒大陸をどうにかしろってことなんじゃないのか」


「のじゃ。確かに、物語の格子としては、もってこいの話なのじゃ」


「魔王倒すのがファンタジーの鉄板やからなぁ」


 今までにも、何度かそうなんじゃないのかと思ったことはあった。

 実際、神々と会えと言われても、ピンと来ない部分があった。


 けれども、神々が俺たちを呼んだ理由として、魔神シリコーンをなんとかして欲しいというのは、なんともしっくりとくる理由である。

 きっと、俺が神さまだったならそう言うだろう。

 わざわざ異世界から、それができる人材を呼ぶくらいだ。本来なら、自前でなんとかするところを、捻じ曲げてやることなのだ。


 一気に、俺の中で、暗黒大陸に対する興味が首をもたげる。


「で、このツアーに参加すれば、暗黒大陸に行けるのか?」


 にっとほほ笑む駄女神アネモネ。

 ひらりひらりとチケットを揺らした彼女は、その一枚を俺に握らせて、それから相変わらずの腹の立つ表情を見せるのだった。


「もちろん。また、なにぶん危険なツアーですから、自分の身は自分の身で守るのが鉄則です。途中でいなくなったとしても、それを咎めるような人はいませんよ」


「……なるほどね」


「のじゃ。ちょっと桜よ。いくらなんでも物事を性急に進め過ぎではないかのう」


「せやで桜やん。なんや、ちょっと、当初の流れと違ってきている感じや。確かに魔神シリコーンは許せん。ワイがその尻の穴にツッコんでやりたいくらいの悪神や。けど、俺らの目的はそれと違うやろ」


「まぁ、そうだな。けど――」


 小目的にとらわれ過ぎてもいけない。

 あくまで大目的は、この世界からの脱出なのである。

 魔神シリコーン。彼の思惑に支配された大陸。欺瞞によって操られた民たち。


 終わらない神々の時代。

 去り際を間違えた旧支配者。


「のじゃ。桜よ、どうやら本気のようじゃのう」


「本気も本気よ。このイベントを前にして、本気にならない方がどうかしているだろう。絶対に、こいつが異世界転移の大本命だよ。これをどうにかしろっていうのが、俺たちに課せられたミッションだ」


「せやけど桜やん、サラリーマンと九尾、そしてへっぽこダイコンソードで、いったいどこまでできる言うねん。大丈夫だ、問題ない、なんて冗談も言えへんレベルやで」


 それはそうだ。

 せめて伝説の武器でもあれば、話は別になってくるんだけれども。


 まぁ、そんなものは期待するだけ――。


「と、ここで唐突、アネモネちゃんショッピング。貴方の冒険ライフに寄り添う、便利なチートアイテムを取り揃え。分割払いもOKの安心通販でございます」


「おい、不干渉はどうしたんだ!! 駄女神!!」


「ここぞとばかりに猛プッシュしてくるのじゃ!! すごいのじゃ!!」


「そりゃそうよあーた。だってもう、いろいろとこっちも手の内明かしてしまったからね。そりゃちょっとくらいはっちゃけるのは仕方ないってもんですよ」


 やはり俺の推理は当たりだったのか。

 この世界に不干渉を強いられている女神がここぞとばかりに仕掛けてくる。

 その意味についてもはや考えるまでもないだろう。


 異世界に戻るキーは間違いない、これだ。

 暗黒大陸を救うこと、それが、俺たちに求められていることなのだ。

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